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走り込みから戻って来た兄妹に、大事な話があるからと言って訓練場の休憩室に三人で入る。団長さんとギルマスはドアの外で待っていてくれる事になった。
「姉さん、訓練は良いの?それにその髪は……」
「話が済んだら訓練出来るわ。二人共、聞いて頂戴。私達の家が壊れちゃったのよ」
「「え!?」」
妹は涙を溜め弟は無言のまま私の次の言葉を待っている。微かに震える妹を抱き締めながら続きを話始めた。
「ギルドで確認したって……もしかしたらダイが壊したかもしれないの」
「また、ダイなの?どうして意地悪するの?」
“ダイ”の名前を聞いた妹は、私から一歩離れると、両手を硬く握り締め目から一粒の涙を溢す。そんな妹にハッキリと言って良いものか躊躇った私は、“心臓”とは言わずに用事と言い換えて伝える事にした。
「多分、私だけに用事があるみたいなの」
「姉さん、本当の事を言って」
「テリー」
「僕達は本当の事が知りたいんだ」
弟が真剣な表情で真っ直ぐに私を見詰めていて、嘘や誤魔化しは無意味な気がして私も覚悟を決めた。
「ダイは魔力を上げる為に、私の心臓が欲しいのよ」
「心臓?」
私の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げる妹と、意味を理解して真っ青な表情の弟。遅れて妹も意味を理解して震え出した。
「ど、どうして!ダイはお姉ちゃんの仲間じゃないの!!」
「そうね……元仲間かな。もう仲間じゃないわ。敵よ」
私がハッキリ『敵』と言うと、妹は再び俯いてしまった。ショックを受けたのかも……ごめんなさい。
「姉さん、これからどうするの?」
黙ってしまった妹とは逆に、弟はグッと手を握り締め顔を上げていた。強くなったのね。
「団長さんやギルマスと明日の朝、魔物の森に行って決着をつけてくるわ」
「一人で行かないんだよね?」
「一人じゃないから安心して頂戴。今度こそ、ちゃんと潰して皆でのんびり暮らすわよ」
私が“潰す”と言うと弟が眉を下げて微妙な表情に変わった。俯いていた妹も顔を上げて残念な表情で私を見ている。……ちょっと二人共。その反応は何よ。
「姉さん……普通、潰すとは言わないんじゃない?」
「お姉ちゃん、美人なのに何処か残念よね。その赤い髪も素敵なのに……潰すって……」
妹の言葉に弟も腕を組んで頷いていた。残念って何よ!
「その髪は前に言っていた魔力のせいなんでしょう?」
「そうよ。ちょっと腹が立っているからかしらねぇ。話を聞いた後から変わったままなのよ」
赤い髪を指に絡ませていると、妹が下から私の目をジッと見詰めてきた。
「目の色は茶色なのね……両方とも赤い方が綺麗だと思うわ」
「そう?ありがとうマーシャ」
兄妹の反応が心配だったけど、二人はすんなり受け入れてくれてホッとした。きっと心の何処かで嫌われたらと怖かったかのかもしれない。
その後、弟の訓練にはギルマスも一緒に参加して、弟はクタクタになっていた。今日はギルマスも一緒に夕食を食べると、団長さんと話があるからと二人は書斎に籠った。残された私達はお風呂を先に済ませ兄妹に明日の予定を説明した。
「非常事態宣言が出たから学校は休みよ」
「姉さん達は何時頃、出発するの?」
「早朝、空が明るくなる頃ね。二人はここで留守番をよろしくね」
「美味しいご飯を二人で作って待ってるよ。な、マーシャ」
「私も頑張るわ!お姉ちゃん、怪我に気をつけてね」
「勿論よ。二人共、必ず帰ってくるから待っていて頂戴」
大きく頷く二人の頭を撫でると、私も書斎に向かった。明日の出発時刻やメンバーの確認もしなくちゃいけないわね。ギルドからも応援がくるのかしら?足手纏いは要らないのよねぇ……
そんな事を考えながらドアを叩いて声を掛けると、中から大きな物音が聞こえて一歩後ろに下がる。えっと……前にもあったわねぇ、こんな事……
返事が聞こえず首を傾げながらも、もう一度ドアを叩いた。
「団長さん、ギルマス。入るわよ」
そっとドアを開けると頭を抱える団長さんとニヤニヤと笑うギルマスがいて、何となく嫌な予感がしてそのままドアを閉めたくなる。こんな顔のギルマスは碌でもない事を考えている顔だわ。
「ルーシー」
ギルマスは団長さんから視線を離さずに私の名前を呼んだ。
「な、何かしら?」
「マークと毎日、模擬戦したのか?」
「えぇ、そうよ。私も体が鈍っていたから助かったわ」
「どっちが勝った?」
勝敗を聞くギルマスの意図が分からなかったけど、素直に一勝一敗と答えると何に納得したのか何度も頷いている。
「やっぱり、ルーシーと組めるのはマークしかいないな」
「は?何の話よ」
「今、ギルドにいる動ける人間で強えヤツがいねぇ。俺とマーク以外に一緒に行くヤツがいねぇんだよね」
「だから何なのよ。今更、足手纏いなんか要らないわよ」
「ほらみろ。ルーシーもそう言っているじゃねぇか」
ギルマスの言葉の意味を理解して、思わず吐いたため息が部屋に大きく響いた。誰を連れて行きたい訳?
「まさか団長さん、団体で行くつもりだったのかしら?」
「いや、団体とかではなくて……後方支援の確保を考えていたんだよ」
「ギルマスが一人いれば十分じゃないかしら?結界張れて遠距離魔法使えるじゃないの」
「いや、だから回復をルーシーに頼りきりになるのは……」
言葉を濁す団長さんに、何となく言いたい事を理解した。私の負担を減らす為にも回復系を連れて行きたい様ね……でも、現実的な問題があるのよね。
「私以上の回復系は今のギルドにいないわよ」
「……メイソンにも言われた」
「でしょうね。私だけじゃ心配でしょうけど諦めて頂戴」
団長さんから見たら私だけじゃ心配でしょうね。でも、個人的な問題に騎士団を動かす訳にもいかないわよね。
「違う。そうじゃないんだ!」
大声で言い返す団長さんに驚いていると、団長さんは頭を掻きながら俯いてしまった。え?本当にどうしたのかしら?ギルマスはニヤニヤして何も言わないし困ったわ。
「大きな声をだしてすまない。気にしないでくれ」
「……そう、分かったわ。時間は何時、運動する時間で良いのよね?」
「あぁ、その頃に出発すれば森に着く頃には朝日も昇っているな」
ギルマスも頷いた事を確認すると、明日に備えて休む事になった。ギルマスもこのまま泊まるのね。団長さんの様子が気になったけど、明日に備えて妹と休む事にした。
明日、ダイと決着をつける。
人としての心を忘れた彼と決着しなくちゃ……
今度こそ彼と決別しなくちゃね
「姉さん、訓練は良いの?それにその髪は……」
「話が済んだら訓練出来るわ。二人共、聞いて頂戴。私達の家が壊れちゃったのよ」
「「え!?」」
妹は涙を溜め弟は無言のまま私の次の言葉を待っている。微かに震える妹を抱き締めながら続きを話始めた。
「ギルドで確認したって……もしかしたらダイが壊したかもしれないの」
「また、ダイなの?どうして意地悪するの?」
“ダイ”の名前を聞いた妹は、私から一歩離れると、両手を硬く握り締め目から一粒の涙を溢す。そんな妹にハッキリと言って良いものか躊躇った私は、“心臓”とは言わずに用事と言い換えて伝える事にした。
「多分、私だけに用事があるみたいなの」
「姉さん、本当の事を言って」
「テリー」
「僕達は本当の事が知りたいんだ」
弟が真剣な表情で真っ直ぐに私を見詰めていて、嘘や誤魔化しは無意味な気がして私も覚悟を決めた。
「ダイは魔力を上げる為に、私の心臓が欲しいのよ」
「心臓?」
私の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げる妹と、意味を理解して真っ青な表情の弟。遅れて妹も意味を理解して震え出した。
「ど、どうして!ダイはお姉ちゃんの仲間じゃないの!!」
「そうね……元仲間かな。もう仲間じゃないわ。敵よ」
私がハッキリ『敵』と言うと、妹は再び俯いてしまった。ショックを受けたのかも……ごめんなさい。
「姉さん、これからどうするの?」
黙ってしまった妹とは逆に、弟はグッと手を握り締め顔を上げていた。強くなったのね。
「団長さんやギルマスと明日の朝、魔物の森に行って決着をつけてくるわ」
「一人で行かないんだよね?」
「一人じゃないから安心して頂戴。今度こそ、ちゃんと潰して皆でのんびり暮らすわよ」
私が“潰す”と言うと弟が眉を下げて微妙な表情に変わった。俯いていた妹も顔を上げて残念な表情で私を見ている。……ちょっと二人共。その反応は何よ。
「姉さん……普通、潰すとは言わないんじゃない?」
「お姉ちゃん、美人なのに何処か残念よね。その赤い髪も素敵なのに……潰すって……」
妹の言葉に弟も腕を組んで頷いていた。残念って何よ!
「その髪は前に言っていた魔力のせいなんでしょう?」
「そうよ。ちょっと腹が立っているからかしらねぇ。話を聞いた後から変わったままなのよ」
赤い髪を指に絡ませていると、妹が下から私の目をジッと見詰めてきた。
「目の色は茶色なのね……両方とも赤い方が綺麗だと思うわ」
「そう?ありがとうマーシャ」
兄妹の反応が心配だったけど、二人はすんなり受け入れてくれてホッとした。きっと心の何処かで嫌われたらと怖かったかのかもしれない。
その後、弟の訓練にはギルマスも一緒に参加して、弟はクタクタになっていた。今日はギルマスも一緒に夕食を食べると、団長さんと話があるからと二人は書斎に籠った。残された私達はお風呂を先に済ませ兄妹に明日の予定を説明した。
「非常事態宣言が出たから学校は休みよ」
「姉さん達は何時頃、出発するの?」
「早朝、空が明るくなる頃ね。二人はここで留守番をよろしくね」
「美味しいご飯を二人で作って待ってるよ。な、マーシャ」
「私も頑張るわ!お姉ちゃん、怪我に気をつけてね」
「勿論よ。二人共、必ず帰ってくるから待っていて頂戴」
大きく頷く二人の頭を撫でると、私も書斎に向かった。明日の出発時刻やメンバーの確認もしなくちゃいけないわね。ギルドからも応援がくるのかしら?足手纏いは要らないのよねぇ……
そんな事を考えながらドアを叩いて声を掛けると、中から大きな物音が聞こえて一歩後ろに下がる。えっと……前にもあったわねぇ、こんな事……
返事が聞こえず首を傾げながらも、もう一度ドアを叩いた。
「団長さん、ギルマス。入るわよ」
そっとドアを開けると頭を抱える団長さんとニヤニヤと笑うギルマスがいて、何となく嫌な予感がしてそのままドアを閉めたくなる。こんな顔のギルマスは碌でもない事を考えている顔だわ。
「ルーシー」
ギルマスは団長さんから視線を離さずに私の名前を呼んだ。
「な、何かしら?」
「マークと毎日、模擬戦したのか?」
「えぇ、そうよ。私も体が鈍っていたから助かったわ」
「どっちが勝った?」
勝敗を聞くギルマスの意図が分からなかったけど、素直に一勝一敗と答えると何に納得したのか何度も頷いている。
「やっぱり、ルーシーと組めるのはマークしかいないな」
「は?何の話よ」
「今、ギルドにいる動ける人間で強えヤツがいねぇ。俺とマーク以外に一緒に行くヤツがいねぇんだよね」
「だから何なのよ。今更、足手纏いなんか要らないわよ」
「ほらみろ。ルーシーもそう言っているじゃねぇか」
ギルマスの言葉の意味を理解して、思わず吐いたため息が部屋に大きく響いた。誰を連れて行きたい訳?
「まさか団長さん、団体で行くつもりだったのかしら?」
「いや、団体とかではなくて……後方支援の確保を考えていたんだよ」
「ギルマスが一人いれば十分じゃないかしら?結界張れて遠距離魔法使えるじゃないの」
「いや、だから回復をルーシーに頼りきりになるのは……」
言葉を濁す団長さんに、何となく言いたい事を理解した。私の負担を減らす為にも回復系を連れて行きたい様ね……でも、現実的な問題があるのよね。
「私以上の回復系は今のギルドにいないわよ」
「……メイソンにも言われた」
「でしょうね。私だけじゃ心配でしょうけど諦めて頂戴」
団長さんから見たら私だけじゃ心配でしょうね。でも、個人的な問題に騎士団を動かす訳にもいかないわよね。
「違う。そうじゃないんだ!」
大声で言い返す団長さんに驚いていると、団長さんは頭を掻きながら俯いてしまった。え?本当にどうしたのかしら?ギルマスはニヤニヤして何も言わないし困ったわ。
「大きな声をだしてすまない。気にしないでくれ」
「……そう、分かったわ。時間は何時、運動する時間で良いのよね?」
「あぁ、その頃に出発すれば森に着く頃には朝日も昇っているな」
ギルマスも頷いた事を確認すると、明日に備えて休む事になった。ギルマスもこのまま泊まるのね。団長さんの様子が気になったけど、明日に備えて妹と休む事にした。
明日、ダイと決着をつける。
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