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「本当にやるのか?」

 治療院の庭に移動しても、団長さんはまだ納得していのか戸惑っていた。……何か煩いわね。

「ギルマス、結界を張って貰える?」

「本気でヤるのか?」

 私が黙って頷くとギルマスは面白そうに笑った後、一瞬で庭全体に結界を張った。

「これで良いか?」

「ありがとう……全解放フルオープン

 普段は体内に貯めている魔力を解放すると、私の回りの草が揺れ視界に入る自分の髪が徐々に赤く染まる。

「は?……どうなってんだよ……髪も目も色が変わったぞ。しかも、魔力が……上がった?」

「私の魔力、多すぎるのよ。普段は身体の中に閉じ込めないと危険なの。だから上がった訳じゃないのよ」

 驚き過ぎて口が開いたままの団長さんを置いて、私はリハビリ用の木剣から自分の得意武器の双剣を手に取った。

「レッドデビルって知ってる?」

「レッド……あぁ、子供なのに大人より強く双剣……って、まさか……君が?」

 木剣を持って振り返ると、さっきまでの戸惑いの表情が消えて真剣な眼差しの団長さんがいた。やっとヤる気になったかしら?

「本気でヤらねぇとマジで死ぬぞ」

「メイソン……お前、楽しそうだな」

「そりゃなぁ。俺はルーシーに期待しってからな」

 そうかと団長さんは一言だけ返すと、木剣の中から長剣を選んでから私の前で構えた。弟の時とは違う本気の殺気と闘気に私の身体はゾクリと震えた。……この感じ懐かしいわ……

「そう来なくっちゃねぇ……ふふふ、楽しいわ団長さん」

「そうか……俺は楽しくないな」

 団長さんは苦虫を噛み潰したような表情で私を睨む。さぁて、行くわよ。


 私は無言のまま走り出すと、団長さんは右足を軸に身体を少しずつ回しならか私の動きを視線で追う。回転するように走りながら、更にスピードを上げて団長さんの側を駆け抜け挑発すると、眉がピクリと動いただけだった。

 冷静ね。団長の名は伊達じゃ無いのね~

 私の動きを警戒して攻撃しない団長さんに向かって、改めて駆け寄ると私は木剣に雷を纏わせて振り抜いた。二本の木剣の斬撃と共に、雷が交差しながら団長さんに向かって飛んで行くと、彼は木剣で切り裂いて消した。

「……ダイ以上ね……でもねぇ……」

 高く飛び上がり団長さんの頭上から氷の塊を落として目眩まししながら、彼の背中に向かって風を纏わせ斬撃と共に飛ばす。背後からの攻撃も横にずれて躱した後、私の方を見ずに針の様に鋭い何かで攻撃してきた。
 ジャンプで空中に浮いている私は、防御壁を展開しながら次は炎を飛ばして針の様な物を燃やし尽くした。

「まさか全属性か?」

「いいえ、光と闇は使えないわ」

「他は?」

 団長さんの質問に思わず首を傾げると、ギルマスから自分の属性くらい覚えとけって怒鳴られた。えー、覚えてなくても困らないわよ。

「仕事出来るんだから良いじゃない」

 団長さんに背中を向けてギルマスに言い返すと、背後から何か来る気配がして振り向きざまに切り落とす。切った物を拾い上げると、植物のトゲが大きくなった物だった。え?どうやったら出来るの?

「……植物?」

「あぁ、俺は土と水なんでね」

「へぇ……面白いわね……こうかしら?」

 土に水をやって全身トゲだらけの植物が育つ姿をイメージすると、私の目の前にトゲの塊が現れた。

「あら?絡まっちゃったわ」

「一度、見ただけで出来るのか……はぁ、降参だ」

 そう言って団長さんは剣を足元に置いて両手を上げた。私が驚いているとギルマスが舌打ちした。

「マーク、早いぞ」

「あのなぁ、このままやった所で俺の魔力が先に尽きる。どうやっても勝てる気がせん」

 私は団長さんの言葉に納得して剣を下ろすと、ギルマスは不満気に腕を組んでいる。“先をみて引く”大勢の命を預かる団長ならではの判断だわ。そう思いながら目を閉じて解放していた魔力を、心臓から血液の流れに乗せて閉じ込めた。

「その通りね。貧血が治ればまた違う結果になるわ。力技で来られると私が不利だもの」

 魔力を完全に閉じ込めると、髪が元のブラウンを戻る。木剣を元の場所に片付けていると、ギルマスが結界を解かずに団長さんと話をしている。何かしらチラチラと二人でこっちを見ながら話をしているけど……

「ルーシー」

 ギルマスに呼ばれて側に行くと、何故かポンと肩に手を置かれる。うん?何よ、そのニヤニヤした笑いわ。

「お前達、今日からマークの家に泊まれ」

「へ?」

「こいつの家には俺が結界を張ってやる。マーシャの夜泣きの事も話したから大丈夫だ」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!二人に何も話していないわよ!」

 ギルマスが今から学校に行って二人に事情を話すって言うし、団長さんは入院に飽きたから早く家で休みたいって言うし、しかも……



「ルーシーに纏まった休みをくれ?」

 部下さんと話をする団長さんを置いて庭を出て、ギルマスの後に付いて一緒に移動すると院長の部屋についた。何を話すのかと思えば、私を勝手に仕事を休ませようとしている。

「ギルマス、何、言ってんのよ。急に休める訳無いでしょ!」

「いや、良いぞ。そうじゃなぁ……取り敢えず一月でどうじゃ?」

「院長は、話が分かるじゃねぇか。マーシャの為にもお前は暫く休め」

「妹の為って……急に何よ」

 ギルマスが休めと言い出した事も院長が了承した事にも驚いたけど、妹の為と言われて私は混乱した。

「何で妹の為か分からねぇか?」

 ギルマスの言葉に素直に頷くと、彼は腕を組んでため息を漏らした。

「恐らく、マーシャの夜泣きの原因の半分はお前だ。只でさえ両親が亡くなって寂しい所に頼れる姉は仕事で忙しい。昼間に我慢してきた寂しさからじゃねぇのか」

「それは……」

 それは考えなかった訳ではないけど、仕事しないと生活もあるし両親が亡くなってから院長には迷惑掛けてるから恩返しもしたいし……

「最近、休日返上で仕事しておったじゃろう」

「院長」

「他の者からも心配の声が届いてる。この際じゃ、ダイの件が片付くまで休みなさい」

 ダイの事まで出されると拒否出来ず、私は渋々、休みを取ることを承諾した。


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