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緊急で運び込まれたパーティーは、A級の四人だった。魔物に襲われただけで全滅はあり得ないと考えていたけど、診察して分かった事が一つ。団長さんと同じ内臓破裂の症状。四人の内、一人は既に亡くなっていた。院長とアンバーと私が各一人を受け持ち緊急手術と治療魔法を掛けていく。全員の治療が終わる頃には日付が変わろうとしていた。
疲れて廊下の椅子に座ると動けなくなった。あー、疲れた。二日続けて緊急手術は流石に魔力が減るわ……こんな時間だしテリーとマーシャは寝てるわね……何処で寝ているのかしら迎えに行かなくちゃ。
「治療は終わったのか?」
ぼんやりとやる事を考えていた時、不意に声を掛けられた。重い頭を動かせば団長さんが暗い廊下の奥から姿を現した。
「患者の就寝時間は、とっくに過ぎてるわよ」
「君の兄妹にベッドを盗られたんだ」
「盗られたって……え?団長さんの横で寝たの?」
「あぁ、暇潰しに話をしている途中で寝たぞ」
団長さんの言葉に驚いて次の言葉が出来なかった。両親を亡くしてから何処か人間不振になった兄妹は、他人がいると緊張するのか全く寝ない。そんな二人がいくら遅い時間だからって、怖いと言っていた団長さんの横で寝た事が信じられない。
「ルーシー?」
「あ!ごめんなさい、迷惑掛けたわね。今から迎えに行くわ」
黙っていた事を疑問に思ったのか、団長さんに名前を呼ばれて思考の中から戻ると立ち上がった。いけない、考えている場合じゃ無いわね。早く帰って休まなきゃ。
「迎えにって一人でどうやって連れて帰るんだ?」
「あぁ、私、人より魔力が多いのよ。身体強化して抱えて帰るから大丈夫よ」
手を振ってそう答えると団長さんを残して、私は急いで病室に向かった。テリーは団長さんに稽古して貰ったから分かるけど、マーシャが泣かなかったねぇ……なんか複雑な気分だわ。
薄暗い廊下を歩きながら両親が亡くなった後の日々を思い出していた。
『パパ……ママ……』
『マーシャ』
『お姉ちゃん……パパとママは?』
夜中に泣きながら両親を探すマーシャに首を横に振りながら抱き締めると、大きな声で泣き崩れる。幼いながらも昼間は泣かないように必死に耐えてはいても夜の闇に心細くなる。毎晩、妹は夜中に起きては泣き崩れていた。
『マーシャ、我慢しないで泣きなさい。我慢は体に悪いわ』
『うぁぁぁん……お姉ちゃん……どうして……どうして……』
理不尽に奪われた命。幼い妹の心をズタズタに引き裂いた相手を憎むのにそんなに時間は掛からなかった。
嫌い……大嫌い……自分勝手で傲慢な貴族なんか居なくなればいい。
「テリー、マーシャ」
病室に着くと二人がお互いを抱き締めながら眠っていたけど、よく見ると妹の目には涙の痕があった。また泣いたのね。
「遅くなってごめんね……さぁ、帰るわよ」
声を掛けたけど起きない二人を身体強化してから抱き上げる。あら、両手が塞がっちゃう……まぁ、ドアは足で開ければ良いか。
「本当に抱えて帰る気か?」
「あら、団長さん、丁度良かった。ドアを開けて頂戴」
「このまま泊まれば良いだろう」
呆れたようにため息を吐く団長さんには悪いけど仕方ないのよね。マーシャが起きた時に、また泣き出すかもしれないから迷惑がかかるもの。まぁ、この人には関係ない話ね。
「そう言う訳にはいかない理由があるのよ。じゃあね」
理由は話さず団長さんを振り返る事もなく病室を出た。さて、人気の少ない職員用通路を通って帰った方が良いわね。
「う……う……」
職員用通路に入る直前、マーシャが呻き声を出した。起きそうだわ。急いだ方が良さそうね。
「マーシャ、マーシャ。お姉ちゃんが直ぐに連れて帰るからね」
寝ている妹に宥める様に語り掛けながら治療院の外に出ると、辺りに人が居ない事を確認して走り出した。職場と家が近くて本当に良かったわ。身体強化中なら直ぐに着くもの。
数分後には家の前に着いていた。魔法で鍵を開けて玄関を足で開けると、そのまま奥の寝室に二人を寝かせる。玄関の鍵を確認してから寝室に戻ると妹がベッドの上に座っていた。
「マーシャ、起きたの?」
「……」
「寝ぼけているのね。さぁ、お姉ちゃんと一緒に寝ましょう」
こくりと頭を縦に動かした妹が私に抱き付くと再び寝息をたて始める。そんな妹の背中を軽く叩きながら、昔、母が歌った子守唄を歌う。夜中に何度も目を覚ましては寝かせるを繰り返して、何時もの様に夜が明けてきた頃、私は短い眠りについた。
疲れて廊下の椅子に座ると動けなくなった。あー、疲れた。二日続けて緊急手術は流石に魔力が減るわ……こんな時間だしテリーとマーシャは寝てるわね……何処で寝ているのかしら迎えに行かなくちゃ。
「治療は終わったのか?」
ぼんやりとやる事を考えていた時、不意に声を掛けられた。重い頭を動かせば団長さんが暗い廊下の奥から姿を現した。
「患者の就寝時間は、とっくに過ぎてるわよ」
「君の兄妹にベッドを盗られたんだ」
「盗られたって……え?団長さんの横で寝たの?」
「あぁ、暇潰しに話をしている途中で寝たぞ」
団長さんの言葉に驚いて次の言葉が出来なかった。両親を亡くしてから何処か人間不振になった兄妹は、他人がいると緊張するのか全く寝ない。そんな二人がいくら遅い時間だからって、怖いと言っていた団長さんの横で寝た事が信じられない。
「ルーシー?」
「あ!ごめんなさい、迷惑掛けたわね。今から迎えに行くわ」
黙っていた事を疑問に思ったのか、団長さんに名前を呼ばれて思考の中から戻ると立ち上がった。いけない、考えている場合じゃ無いわね。早く帰って休まなきゃ。
「迎えにって一人でどうやって連れて帰るんだ?」
「あぁ、私、人より魔力が多いのよ。身体強化して抱えて帰るから大丈夫よ」
手を振ってそう答えると団長さんを残して、私は急いで病室に向かった。テリーは団長さんに稽古して貰ったから分かるけど、マーシャが泣かなかったねぇ……なんか複雑な気分だわ。
薄暗い廊下を歩きながら両親が亡くなった後の日々を思い出していた。
『パパ……ママ……』
『マーシャ』
『お姉ちゃん……パパとママは?』
夜中に泣きながら両親を探すマーシャに首を横に振りながら抱き締めると、大きな声で泣き崩れる。幼いながらも昼間は泣かないように必死に耐えてはいても夜の闇に心細くなる。毎晩、妹は夜中に起きては泣き崩れていた。
『マーシャ、我慢しないで泣きなさい。我慢は体に悪いわ』
『うぁぁぁん……お姉ちゃん……どうして……どうして……』
理不尽に奪われた命。幼い妹の心をズタズタに引き裂いた相手を憎むのにそんなに時間は掛からなかった。
嫌い……大嫌い……自分勝手で傲慢な貴族なんか居なくなればいい。
「テリー、マーシャ」
病室に着くと二人がお互いを抱き締めながら眠っていたけど、よく見ると妹の目には涙の痕があった。また泣いたのね。
「遅くなってごめんね……さぁ、帰るわよ」
声を掛けたけど起きない二人を身体強化してから抱き上げる。あら、両手が塞がっちゃう……まぁ、ドアは足で開ければ良いか。
「本当に抱えて帰る気か?」
「あら、団長さん、丁度良かった。ドアを開けて頂戴」
「このまま泊まれば良いだろう」
呆れたようにため息を吐く団長さんには悪いけど仕方ないのよね。マーシャが起きた時に、また泣き出すかもしれないから迷惑がかかるもの。まぁ、この人には関係ない話ね。
「そう言う訳にはいかない理由があるのよ。じゃあね」
理由は話さず団長さんを振り返る事もなく病室を出た。さて、人気の少ない職員用通路を通って帰った方が良いわね。
「う……う……」
職員用通路に入る直前、マーシャが呻き声を出した。起きそうだわ。急いだ方が良さそうね。
「マーシャ、マーシャ。お姉ちゃんが直ぐに連れて帰るからね」
寝ている妹に宥める様に語り掛けながら治療院の外に出ると、辺りに人が居ない事を確認して走り出した。職場と家が近くて本当に良かったわ。身体強化中なら直ぐに着くもの。
数分後には家の前に着いていた。魔法で鍵を開けて玄関を足で開けると、そのまま奥の寝室に二人を寝かせる。玄関の鍵を確認してから寝室に戻ると妹がベッドの上に座っていた。
「マーシャ、起きたの?」
「……」
「寝ぼけているのね。さぁ、お姉ちゃんと一緒に寝ましょう」
こくりと頭を縦に動かした妹が私に抱き付くと再び寝息をたて始める。そんな妹の背中を軽く叩きながら、昔、母が歌った子守唄を歌う。夜中に何度も目を覚ましては寝かせるを繰り返して、何時もの様に夜が明けてきた頃、私は短い眠りについた。
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