上 下
5 / 59

しおりを挟む

「当時、十三歳の私は適性検査で治療師と結果が出たので、ここで研修を始めた初日でした」

 何時までも立っている訳にもいかず、深呼吸をして溢れだした魔力を抑え込んで椅子に座り直した。事故現場を思い出して震える手を握り締め、出来るだけ感情的にならない様に話した。

「両親が帰りに迎えに来て家族全員で歩いていた時です。脇道から突然飛び出してきた魔道馬車に跳ねられました。兄妹は両親が庇い無事でしたが……両親は……」

「すまぬ。辛いことを聞いた」

「いえ、知らぬなら仕方の無いことです。犯人は貴族で罰金だけだったと聞いています」

「慰謝料等は支払いは?」

「いいえ、そういった支払いは一度もございません」

 一度、言葉を切った私は陛下に改めて視線を向けると、はっきりと言う事にした。

「私達から両親を奪った貴族が嫌いです。命を粗末にする人はもっと嫌いです。そこの王子の様に簡単に人を傷つける人は二度と目の前に現れないで欲しいわ」

「貴様!治療師だからって」

 ドン!

 大きな音と共にクソガキの身体が大きく吹き飛んだ。陛下の拳が腹に命中したらしい。腹部を抑えて踞った。

「本当に愚息が申し訳なかった。お前は一歩間違えば団長は死んでいた。その事を理解しているのか!」

「は?剣で切ったぐらいで?」

「岩を飛ばしたのも貴方でしょう?」

「岩?私は知らない。剣で切った後で護衛の者と一緒に逃げた」

 目を丸くしながら答えるクソガキは嘘をついている様には見えなかった。……これはまだ何かあるのかしら?場所が場所だけに慎重にならざる得ないけど……誰かが森に何かしたのなら、魔物が溢れる……冗談じゃないわ!

「本当に王子が知らないのでしたら団長さんの命が狙われたか、もしくは森に何かを仕掛けたかのどちらかになります」

「森が目的なら危険だ。サージス、急ぎ騎士団を向かわせ調査せよ」

「は!」

 短い返事と共に団長さんの部下は目の前で消えた。え?走るとかのレベルじゃないけど?え?どう言うこと?

「そなたは巻き込んでしまったので話そう。彼らはただの騎士団ではない」

 陛下の説明では騎士団は街の治安を守る治安維持部隊と、城や王族を守る国防部隊の二つからなり団長さんやその部下は国防部隊に入るとか。

「彼らは剣も魔法も実力が無いと出来ない。……彼が重症で入院したと報告を受け不思議だった」

 そこで言葉を切った陛下は、未だに痛みで床に踞る王子へ射るような視線を向けた。

「まさか身内が重要な彼らの信頼を裏切り罠に嵌めるとは……こやつは廃嫡する」

「「え?」」

 王子と私の驚いた声が重なった。罪に問われても再教育とかかと勝手に考えていたわ。

「民あっての国。貴族だから偉いのではない。我々は民に生かされておる。何度も言ったはずだが……理解しておらんのだろうな」

「父上……じ、冗談ですよね?」

「私は本気だ。国防の要の彼らからの信頼を失ったお前は上に立つ事は出来ん。辺境の叔父上の所で一般兵として働け」

 陛下の止めの言葉を聞いて茫然自失になった王子を騎士が連れて退出すると、陛下の後ろに控えていた一人が魔法で床のシミを消した。わぁお、一瞬で消えるなんて、これで家を掃除したら楽そうね。後で教えて欲しいわ。

「して、話しは変わるが団長の容態はどうだ?」

「記憶の混濁と貧血。斬られた右腕のリハビリが必要ですが、貧血さえ治れば全て問題無いと思われます」

「そうか……良かった。見舞って帰りたいが大丈夫か?」

「はい、ご案内致します」

 陛下を連れて病棟内を歩くと自然と注目が集まる。私はいたたまれない気持ちになりながら、団長さんがいる個室へと案内した。

「団長さん、起きてる?」

「ルーシー、昼からリハビリじゃないのか?」

「お客様よ」

 ベッドで寝ている団長さんに声を掛けて身体をずらすと、私の後ろにいた陛下に気付いて慌てて身体を起こそうとして踞った。

「もう!貧血だからゆっくり動いてと言ったじゃないの!」

 おそらく目を回しただろう団長さんに軽い治療魔法を掛けると、小さな声でお礼の言葉が聞こえた。

「無理をするな。愚息がすまなかった」

「陛下!頭を上げて下さい。油断した自分の落ち度です!」

 陛下に頭を下げられて慌てふためく団長さんは面白いけど、これ以上、お偉いさんと一緒にいるのはごめんだわ。さて、私は仕事に戻ろう。

「それでは、私は仕事がありますので失礼致します」

 頭を下げて退出するとさっさと診察治療室に戻って仕事を始めた。あー、緊張して肩が凝ったわ……治療魔法は自分に掛けられないから不便よね。

「遅くなってごめんなさい。患者さんをお通ししてくれる」

「はーい」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...