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しおりを挟む「直ぐにご飯出来るから手を洗ったら手伝って」
「「はーい」」
帰宅して直ぐに夕食を作ると言っても、今は便利な調理魔道具があるから、朝のうちに仕込んだシチューは味を整えるだけで完成。他にサラダとパンでおしまい。
「テーブル拭いて並べて」
食事を並べて全員が席に着くと食事前のお祈りをする。三人で神に恵みと感謝を捧げ食事が始まった。
「二人共、今日の授業はどうだった?」
「コーディーが意地悪するのよ!」
「僕は明日、適性検査だよ」
兄妹の話を交互に聴きながら頷く。マーシャに意地悪するコーディーは、担任から妹に好意があるが素直じゃ無いと聞いていた。でも、やり過ぎれば嫌われるだけなんだけどね。
「マーシャ、今度、コーディーが何かしてきたらお姉ちゃんに言うのよ。お姉ちゃんが懲らしめてやるからね」
「お姉ちゃんがやったらやり過ぎるからダメなの。私がやるわ!」
「そうだよな。姉さん、加減を知らないからなぁ」
「ちょっと貴方達酷くない?」
何でもない家族の夕食。ただ、両親がいない。両親を魔道馬車に跳ねられ貴族は捕まったが罰金を払っただけだったらしい。貴族ってだけで優遇される世の中に腹が立つけど、直接文句を言って私に何かあれば兄妹は路頭に迷う。今は二人が笑顔で生活出来る様に守らなくちゃ。
「テリーは適性検査だけど、将来の目標はあるの?」
「将来……うーん、治療師も良いけど騎士も気になるかなぁ」
「騎士って急にどうしたの?」
今まで一度も言った事の無い職業が出てきて驚いた私は弟に理由を尋ねた。どう言う心境の変化かしら?
「今日、剣術の授業があったんだけど筋が良いから選択授業でもやらないかって先生に誘われたんだ」
「あら、凄い。良いじゃない」
兄妹が通うギルド運営の平民用の学校は初等科、高等科の二部に分かれている。二人が通う初等科は基礎学習で文字の読み書きや計算に簡単な歴史。それと護身用の剣術と魔法。剣術と魔法は適性があれば初等科在籍中から高等科の授業へ参加が認められる。
テリーが誘われたのは高等科との合同授業だ。歳上と授業をするから余程の腕が無いと誘われない。本物だけが許される授業。でも、何処か迷っている弟にその理由を尋ねた。
「先生を信用してない訳じゃないけど自信がなくて……他の誰かにも見て貰いたいんだ」
「先生、一人の意見だけじゃ不安なのね」
「……うん……」
これは困った。確かに先生の見込み違いで授業について行けなければ、テリーが怪我するし回りにも迷惑が掛かる。実践では無いけど足手まといにはなりたくないのね……あら、丁度良い人が居るじゃない。
「明日、早めに治療院に来れる?」
「適性検査の後は話だけだから大丈夫だけど何?」
「今日、騎士団の団長さんが入院したのよ」
「え!!団長って……本当に?」
驚いて食べる手を止める弟に笑みが溢れる。普通なら近付く事すら出来ない団長に会えるのだから当然かしら。
「リハビリも兼ねて見て貰えないか明日、聞いてみるわ。断られたらごめんね」
「ううん!それでも良い!断られても会えるなら良い!」
「気付かなかった?今日、会ったじゃない」
兄妹が二人揃って同じ方向に首を傾げる。その姿が可愛くて写真を撮りたくなった。もー家の子達、どうしてこんなに可愛いのかしら!
「帰りに私の名前を尋ねた人が居たでしょ」
「あ!怖い人!」
「怖い?……そうかしら?」
怖いと聞いて今度は私が首を傾げる。別に彫りが深いだけで顔は怖くは無いと思うのだけど……雰囲気?確かに目付きは悪いわね。濃い緑の意思の強さが伺える瞳を思い出したけど、どこが怖いのか私には分からないわね。
「お姉ちゃんは怖くないの?」
妹にも言われて驚いて頷くと、二人はコソコソと内緒になっていない内緒話を始める。
『これは姉さんにチャンスじゃないか?』
『チャンス?』
『団長さんは女の人から怖がられるから結婚してないって話を聞いた事あるよ』
『本当!?じゃあ、団長さんが怖くないお姉ちゃんに結婚のチャンスがあるの!』
待ちなさい二人共。誰が結婚相手を治療院で探すなんて言った。結婚のチャンス?団長さんと?……貴族でしょう?却下ね。
「貴方達が一人前になるまで私は結婚しないわよ」
「なんで!自分の幸せも考えてよ」
目に涙を溜めた妹の叫びに苦笑しながら彼女の頭を撫でる。私が結婚したくないのは貴方達のせいじゃないのよ。
「ありがとう。でもね、今の仕事、気に入ってるのよ。結婚しても続けて良いって言う旦那様が居たら結婚するわ」
「……」
私の言葉に二人は何も言えなかった。私達の住む国では女性は結婚と同時に退職する事が多い。他所の国では結婚処か出産しても子育てしながら働けるらしい。治療師の仕事に誇りを持っている私は、結婚して辞めるくらいなら、しない方を選択するわ。
あーあ、何処かに兄妹も私の仕事も受け入れてくれる理解ある人いないかしら?……まぁ、いてもきっと結婚しないわね~仕事が楽しいし、二人が心配だしね。
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