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壁 side 晶

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 目の前で、静かに涙を流しながら語る彼女の言葉が胸に刺さる。熱が高い彼女が現実と理解しているかは微妙であるが……だからこその本音。自分は彼女を大切にしたいと守っているつもりで……傷つけていたのか……?

「アキ兄さん、彼女はどう?」

「一度、起きたが……また、寝ましたよ」

 妹が心配そうに彼女の顔を覗く。目元が濡れている事に気付き、タオルでソッと拭いた。熱が上がったのか少し息が荒い。

「どうするの?彼女の家族に来て貰わないと、仕事先への連絡も出来ないわよ」

 妹の冷静な判断に、そうだなと一言返す。実家の電話番号は聞いていたので、そこに掛けると直ぐに繋がった。
 電話に出たのは母親だった。彼女が倒れて我が家で看病している事、仕事先への連絡をして欲しい事を伝えると、母親から了承された。
 市販薬はあるがアレルギーがあれば迂闊に飲ませる訳にもいかない。熱が下がらなければ病院に連れて行く事も考えないといけない。そう考えながら額に触れると、彼女が身動みじろぎ再び目を開いた。

「……あきらさん?」

「はい」

「……どうして……?」

 少し舌足らずな声で端的に話す。熱で状況を理解していない彼女が、額に置いたままの手に触れた。ただ触れただけで身体が熱くなる。このまま彼女を搔き抱いて、自分の腕に閉じ込めたくなる。

「……倒れた事を覚えてますか?今は自分の家ですよ」

「たおれた?……あきらさんのいえ?……ゆめ……だ」

 夢と勘違いしている?頭に浮かぶ疑問は、次の言葉で消し去った。

「……こわい……さ……みしい」

「触れても良いですか?」

 意識が朦朧もうろうとしている相手に何を聞いてる。一度、触れれば抑えられないと分かっているのに、それでも彼女の答えが知りたかった。

「……さ……って……そばに……いて」

 そこまで話すと、彼女は再び眠りに落ちた。腹の底から沸き上がる暗い欲望を、息と共に吐き出して彼女から手を離す。汗で気持ち悪いかもしれない。妹に着替えの準備を頼む為、一度部屋から出た。

「陽菜、彼女に着替え準備出来ますか?」

 妹は頷くと仕事場にしている部屋から、未使用のバスローブを持ってきた。

「これ、フリーサイズだから彼女に使って。私は邪魔だろうから一度、家に帰るわ」

 そう言って荷物片手に家を出ようとした妹が、立ち止まると自分に向けて珍しく真剣な表情を見せる。

「兄さん、彼女とちゃんと話して……上手く言えないけど……あの娘、苦しいそうだわ」

 黙って頷くと妹は安心したのか、笑顔で帰って行った。

話し……か……

情けない姿を見せたくなくて逃げていた自覚はある

自分の目の前に、同じ家に彼女が居る

それだけで幸せを感じると同時に

ほの暗い独占欲がこのまま閉じ込めて逃がすなと自分を惑わす


 彼女の全てを手にいれろと、腹の底から沸き出す衝動を抑える為、頭から冷たいシャワーを浴びて気持ちを切り換えた。


今は、彼女の体調だけを考えないと


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