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#5 Save the Princess
ep.38 演じているのは誰?
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苦労して、たどり着いたド田舎の古城はハズレであった。
丁寧な執事の対応が余計に頭に来た。
正確に言えば、ハズレではなく、アタリであった。
にもかかわらず、遅かった、のである。
すでに姫様は他の場所に移られた。
そう執事は静かに語る。
調べさせろと詰め寄ってもダメだと言わない。確かに古城の塔に女が住んでいた形跡がある。書きかけのメモはあの手紙と筆跡が同じ。嫌みったらしいまでに美しい筆記。ポエムのような日記。
若い部下が古城の住人が匿っているに違いないと意見する。
だが、この特別隊をたまわった女隊長はここには皇女がいないと確信があった。素直に引き上げを命じ、立ち去ってしまった。
なんの手土産もなく、地方本部に引き返し、この地域の統括に怒鳴られる。
「なんたるザマだ、中央から鳴り物入りで派遣されてきたと思えば成果ナシ。給料泥棒もいいところではないか!」
背の低い中年の男がにらみつけてくる。
だが、このような叱責を受けるために帰ってきたのではない。
「なにか情報はありませんか」
「そんなもの、自分の足で探せ!」
「そうさせていただきます、同志部長殿」
踵を返して、本部長室を出る。
止めようとする声が聞こえてくるが、従うだけ無意味だと部下にも伝え、たった五人の特殊部隊は駅に向かった。
革命軍の調査隊だと駅員に名乗ると、露骨にいやな顔をする。
若い青年とはいえ、カートよりも年上だろうと隊長帽をかぶったローズは推測した。まるで彼に嫌われているようだ。すぐに重ねてしまう自分に不満を抱きながらも、淡々と質問を重ねる。
「特別な列車が走らなかったか」
「定刻通りの運行ですが」
「組織の幹部らしい男たちは見なかったか」
「身なりの良いお客様はいらっしゃいましたが、そこまでは」
「青い髪の女を見なかったか」
「特定のお客様を覚えているかと言われても、わかりかねます」
知っていても同じ答えを返すだろう。協力的ではないのなら、アテにはできない。
「協力感謝する」
軍票を押しつけて、改札を通る。
「いやあの、これは当駅では有効になりません」
「なにをいうか、ここは我々の拠点だ」
駅員を押し切り、旅客鉄道に乗る。
革命軍の地方拠点があるのは間違いなかった。
だが、軍票がつかえないといわれるのは我慢ならない。鉄道は革命軍の支配下にないと言われているようなものだ。
つまり、もう、鉄道公社は革命軍に肩入れしないと言うことだ。
部下の一人が怒りだした。一部の資本家による公共機関の独占を許すなと声高に叫ぶ。
――影響力がこんなにも弱まっている。
帝政から解放すると標榜して、革命は成功した。だが、結果として、大資本に再占領されそうになっている。
――この闘いはなんのためにおこなっているの。
大資本によるレコンキスタ・メンバーズの設立。それは反革命政府側による統一戦線の確立である。それに政府包囲網はメンバーズの武力だけではない。鉄道という新しい物流をも裏から手を回し、金のチカラで経済を操る。
――私たち、下っ端は無力だわ。
革命政府はなにをやってるのだろう。軍があちこちで負けているのは情報として入ってきているが、支配下においていたはずの鉄道でさえ、この有様である。
――指導部として責任、いえ、能力の問題?
ファイナリアでマーカスとの仕事を思い出す。マーカスの影響力がどの程度かはよくわからないが、少なくとも、慕われていただろう。人間的にも悪くない、話の分かる人だった。もし、人の上に立つ人物がわからずやであって、周りに敵をつくるだけだったりしたらどうなるだろう。
熱狂で革命は成功したが、地道な政治は熱狂だけでは出来ない。秩序だけでは人は動かないと、帝政を倒した革命がその証拠であるはずなのに、失敗や取り締まりがキツくなるばかりだ。励ましの言葉など最近では聞かない。理想のためにがんばろうではない、ノルマをこなす責任を果たせである。
――考え方が変わった?
結局、鉄道の切符を買い、一般客に混じって席に座る。机を叩いて駅員を恫喝する方法もあるにはあるが、暴力的になる気がなかった。部下に情けないとつぶやかれようが、ルールに従う。
士気が下がるというのをおもむろに感じるが、それは自分自身の考え方から来てるとわかっている。
なんのために、革命軍に参加したか。なぜ続けているか。
「部隊は解散ですかねえ、軍本部のお偉いさんになんて言い訳しましょうか」
若い部下から苦笑混じりの意見を受け取る。
「本部には寄らない」
はっきりと答えた。思わず、部下はきょとんとする。
「確かに独自行動を許可されてはいますが」
「どうせ罰せられるなら、思い切った行動をしてからでもいいとは思わない?」
「なにか策でも?」
策なんてなかった。
頼みのメリーの居所さえわからないのに、どうにも動けるわけがない。
それでも出来ることをやらないと。
執念といえばいいのか、下がれない以上は進むしかない。
幸い、マーカスの知り合いが革命政府側にもいる。その人への手紙を秘書として書いたこともあった。思い出しながら、訪ねていこう。使えるコネはなんでも使い、情報を辿らないと。
もう、革命軍がどうとかではなかった。
メリーを確保すればすべてが解決する――そう信じて、突き進んだ。
首都までたどり着いて、まずは私服を買い、情報を集めるために安酒場に通うように部下に命じた。
一方、ローズはマーカスの知り合いを早速訪ねることにした。
身なりに気をつけようとスーツを新調する。出来るだけピリっとした格好の方が箔がつくと思い切ってブランド店で物色する。そういえばお金がないとポケットを探っていたら、軍票が出てきた。躊躇せず、軍票で支払った。
会計監査がなんと言おうが、これも任務だと言い切りたい。
よれよれになっていた軍服ともおさらばして、少し胸元をあけた真っ白なシャツで襟も美しくなった。ジャケットとパンツも黒で揃えた。裾に目立たない程度に模様が入っているものにした。香水も振って、何日もまともなベッドで寝ていないのをごまかした
用意した甲斐あって、マーカスとともに蒔いた種は育っていた。刈り取るところまでいけたのは僥倖だった。
ファイナリアで名を馳せたフレア=ランスがわざわざ訪ねてきてくれたと彼は喜んだ。薄茶色の髪でオールバックをきめた壮年の男だった。しばし、年寄りの思い出話につきあったあと、ローズは最高のネタを切り出した。
マーカスはレコンキスタ・メンバーズを支援するだろう、とありもしない話を伝える。
目の前の男は武器商人だった。特に火器、弾薬を扱う。
一瞬で商売人の顔になる。ぎらりとした目つき。
「戦争になるのかね?」
あまりに唐突に核心をつく言葉に、二の句が出てこない。
「いや、結論を急いでしまった」
実は、と切り出してくる。
レコンキスタ・メンバーズと鉄道会社から大成功した大資本家である新世紀財団が一体化する動きがあるという。
新しい情報にローズは内心の驚きを隠すのに一苦労した。結果、無表情になってしまったのはよかったのかもしれない。
「元々、ウラオモテの組織では?」
レコンキスタ・メンバーズは財団の私兵部隊がメリーを迎えて旧帝国軍を取り込んだ勢力のはずだ。
「だが、代表はあくまで帝国の生き残りである皇女だ」
「一枚岩ではないから、それを解消するには」
「うむ、マーカス殿のところにはまだ案内が届いていなかったか。得意先の方からは招待状が来ているとの話がある」
「招待状? それは初耳ですね。私と入れ違いでマーカスのところに届いているかも知れません」
「そうか、あれを見てメンバーズへの加勢を決定したわけではないか。いや、マーカス殿のことだ、わかっていて、こちら側の動きを見るためにフレア殿を派遣したのかもしれんな。相変わらずのとぼけたやり口だが、懐かしいな」
「教えていただけますか」
「……財団のドラ息子と、皇女の結婚だ」
なるほど、ローズの中で納得がいった。隔離先を変えたという理由に合点がいく。
「正式に裏と表の組織になるわけですね」
自分の中にある知識を総動員して、情勢を語る。
「そうだ。帝政を復活させて、子供を皇帝にしようというシナリオまで透けてみえる」
「わかりやすいですね」
「……マーカス殿に伝えてほしい。ファイナリアは今しばらく動くのは待った方がいいと。それに、動くときのバックアップの用意もあるともな」
その言葉にはいくつかの意味も含まれているのだろう。だが、今はそれが本題ではない。
「わかりました。今後の情勢次第ではマーカスからのやりとりも控えた方がお互いのためかもしれません」
「うむ、なにしろここは革命政府の中心地だからな、肩身が狭いものだ」
「そんなところで敵味方両方に商売をなさるというのだから、頼りになりますね」
「商売は命がけでこそだ」
男は笑ってみせるので、合わせて笑顔を作る。
男の考え方が正しいか間違っているかはローズには判断がつかない。これ以上、深い話は危ないと直感的に悟る。そろそろ切り上げる頃合いだ。
「そうそう、くれぐれも私がここにいたことは内密に」
チャーミングにウインクしてみる。
出来るだけ感情を出さないように、驚いたことが伝わらないように、そして怪しまれないように。
フレア=ランスを演じているというより、初代フレアであるフィンのつもりで仕草を真似てみた。
試しに握手を求めてみた。
秘書のくせに偉そうだと思われても、それはそれと割り切った。
「美人で有能と噂を聞いていたが……思っていた以上だ。今日はお会い出来てよかった。マーカス殿はフレアさんのような方のサポートがあるからこそ、世の中を動かせることもあるだろう。マーカス殿にお互いの健勝を祈ると伝えてくれ」
ニコニコと握手を返してくれた。
まじめな表情を崩さないように退出した。
会社から出て、角を曲がり、やっと息を入れる。
今更心臓が高鳴る。
思っていた以上にフレアになりきっていた自分も可笑しかったが、それで通用してしまったことに予想以上に驚いた。軍服よりも似合っている仕事かも知れないと一人でほくそ笑んだ。
ともあれ、もう一人合わないといけない人物を捜そうと思った。
シエロ――彼は本部に戻ってきているだろうか。
丁寧な執事の対応が余計に頭に来た。
正確に言えば、ハズレではなく、アタリであった。
にもかかわらず、遅かった、のである。
すでに姫様は他の場所に移られた。
そう執事は静かに語る。
調べさせろと詰め寄ってもダメだと言わない。確かに古城の塔に女が住んでいた形跡がある。書きかけのメモはあの手紙と筆跡が同じ。嫌みったらしいまでに美しい筆記。ポエムのような日記。
若い部下が古城の住人が匿っているに違いないと意見する。
だが、この特別隊をたまわった女隊長はここには皇女がいないと確信があった。素直に引き上げを命じ、立ち去ってしまった。
なんの手土産もなく、地方本部に引き返し、この地域の統括に怒鳴られる。
「なんたるザマだ、中央から鳴り物入りで派遣されてきたと思えば成果ナシ。給料泥棒もいいところではないか!」
背の低い中年の男がにらみつけてくる。
だが、このような叱責を受けるために帰ってきたのではない。
「なにか情報はありませんか」
「そんなもの、自分の足で探せ!」
「そうさせていただきます、同志部長殿」
踵を返して、本部長室を出る。
止めようとする声が聞こえてくるが、従うだけ無意味だと部下にも伝え、たった五人の特殊部隊は駅に向かった。
革命軍の調査隊だと駅員に名乗ると、露骨にいやな顔をする。
若い青年とはいえ、カートよりも年上だろうと隊長帽をかぶったローズは推測した。まるで彼に嫌われているようだ。すぐに重ねてしまう自分に不満を抱きながらも、淡々と質問を重ねる。
「特別な列車が走らなかったか」
「定刻通りの運行ですが」
「組織の幹部らしい男たちは見なかったか」
「身なりの良いお客様はいらっしゃいましたが、そこまでは」
「青い髪の女を見なかったか」
「特定のお客様を覚えているかと言われても、わかりかねます」
知っていても同じ答えを返すだろう。協力的ではないのなら、アテにはできない。
「協力感謝する」
軍票を押しつけて、改札を通る。
「いやあの、これは当駅では有効になりません」
「なにをいうか、ここは我々の拠点だ」
駅員を押し切り、旅客鉄道に乗る。
革命軍の地方拠点があるのは間違いなかった。
だが、軍票がつかえないといわれるのは我慢ならない。鉄道は革命軍の支配下にないと言われているようなものだ。
つまり、もう、鉄道公社は革命軍に肩入れしないと言うことだ。
部下の一人が怒りだした。一部の資本家による公共機関の独占を許すなと声高に叫ぶ。
――影響力がこんなにも弱まっている。
帝政から解放すると標榜して、革命は成功した。だが、結果として、大資本に再占領されそうになっている。
――この闘いはなんのためにおこなっているの。
大資本によるレコンキスタ・メンバーズの設立。それは反革命政府側による統一戦線の確立である。それに政府包囲網はメンバーズの武力だけではない。鉄道という新しい物流をも裏から手を回し、金のチカラで経済を操る。
――私たち、下っ端は無力だわ。
革命政府はなにをやってるのだろう。軍があちこちで負けているのは情報として入ってきているが、支配下においていたはずの鉄道でさえ、この有様である。
――指導部として責任、いえ、能力の問題?
ファイナリアでマーカスとの仕事を思い出す。マーカスの影響力がどの程度かはよくわからないが、少なくとも、慕われていただろう。人間的にも悪くない、話の分かる人だった。もし、人の上に立つ人物がわからずやであって、周りに敵をつくるだけだったりしたらどうなるだろう。
熱狂で革命は成功したが、地道な政治は熱狂だけでは出来ない。秩序だけでは人は動かないと、帝政を倒した革命がその証拠であるはずなのに、失敗や取り締まりがキツくなるばかりだ。励ましの言葉など最近では聞かない。理想のためにがんばろうではない、ノルマをこなす責任を果たせである。
――考え方が変わった?
結局、鉄道の切符を買い、一般客に混じって席に座る。机を叩いて駅員を恫喝する方法もあるにはあるが、暴力的になる気がなかった。部下に情けないとつぶやかれようが、ルールに従う。
士気が下がるというのをおもむろに感じるが、それは自分自身の考え方から来てるとわかっている。
なんのために、革命軍に参加したか。なぜ続けているか。
「部隊は解散ですかねえ、軍本部のお偉いさんになんて言い訳しましょうか」
若い部下から苦笑混じりの意見を受け取る。
「本部には寄らない」
はっきりと答えた。思わず、部下はきょとんとする。
「確かに独自行動を許可されてはいますが」
「どうせ罰せられるなら、思い切った行動をしてからでもいいとは思わない?」
「なにか策でも?」
策なんてなかった。
頼みのメリーの居所さえわからないのに、どうにも動けるわけがない。
それでも出来ることをやらないと。
執念といえばいいのか、下がれない以上は進むしかない。
幸い、マーカスの知り合いが革命政府側にもいる。その人への手紙を秘書として書いたこともあった。思い出しながら、訪ねていこう。使えるコネはなんでも使い、情報を辿らないと。
もう、革命軍がどうとかではなかった。
メリーを確保すればすべてが解決する――そう信じて、突き進んだ。
首都までたどり着いて、まずは私服を買い、情報を集めるために安酒場に通うように部下に命じた。
一方、ローズはマーカスの知り合いを早速訪ねることにした。
身なりに気をつけようとスーツを新調する。出来るだけピリっとした格好の方が箔がつくと思い切ってブランド店で物色する。そういえばお金がないとポケットを探っていたら、軍票が出てきた。躊躇せず、軍票で支払った。
会計監査がなんと言おうが、これも任務だと言い切りたい。
よれよれになっていた軍服ともおさらばして、少し胸元をあけた真っ白なシャツで襟も美しくなった。ジャケットとパンツも黒で揃えた。裾に目立たない程度に模様が入っているものにした。香水も振って、何日もまともなベッドで寝ていないのをごまかした
用意した甲斐あって、マーカスとともに蒔いた種は育っていた。刈り取るところまでいけたのは僥倖だった。
ファイナリアで名を馳せたフレア=ランスがわざわざ訪ねてきてくれたと彼は喜んだ。薄茶色の髪でオールバックをきめた壮年の男だった。しばし、年寄りの思い出話につきあったあと、ローズは最高のネタを切り出した。
マーカスはレコンキスタ・メンバーズを支援するだろう、とありもしない話を伝える。
目の前の男は武器商人だった。特に火器、弾薬を扱う。
一瞬で商売人の顔になる。ぎらりとした目つき。
「戦争になるのかね?」
あまりに唐突に核心をつく言葉に、二の句が出てこない。
「いや、結論を急いでしまった」
実は、と切り出してくる。
レコンキスタ・メンバーズと鉄道会社から大成功した大資本家である新世紀財団が一体化する動きがあるという。
新しい情報にローズは内心の驚きを隠すのに一苦労した。結果、無表情になってしまったのはよかったのかもしれない。
「元々、ウラオモテの組織では?」
レコンキスタ・メンバーズは財団の私兵部隊がメリーを迎えて旧帝国軍を取り込んだ勢力のはずだ。
「だが、代表はあくまで帝国の生き残りである皇女だ」
「一枚岩ではないから、それを解消するには」
「うむ、マーカス殿のところにはまだ案内が届いていなかったか。得意先の方からは招待状が来ているとの話がある」
「招待状? それは初耳ですね。私と入れ違いでマーカスのところに届いているかも知れません」
「そうか、あれを見てメンバーズへの加勢を決定したわけではないか。いや、マーカス殿のことだ、わかっていて、こちら側の動きを見るためにフレア殿を派遣したのかもしれんな。相変わらずのとぼけたやり口だが、懐かしいな」
「教えていただけますか」
「……財団のドラ息子と、皇女の結婚だ」
なるほど、ローズの中で納得がいった。隔離先を変えたという理由に合点がいく。
「正式に裏と表の組織になるわけですね」
自分の中にある知識を総動員して、情勢を語る。
「そうだ。帝政を復活させて、子供を皇帝にしようというシナリオまで透けてみえる」
「わかりやすいですね」
「……マーカス殿に伝えてほしい。ファイナリアは今しばらく動くのは待った方がいいと。それに、動くときのバックアップの用意もあるともな」
その言葉にはいくつかの意味も含まれているのだろう。だが、今はそれが本題ではない。
「わかりました。今後の情勢次第ではマーカスからのやりとりも控えた方がお互いのためかもしれません」
「うむ、なにしろここは革命政府の中心地だからな、肩身が狭いものだ」
「そんなところで敵味方両方に商売をなさるというのだから、頼りになりますね」
「商売は命がけでこそだ」
男は笑ってみせるので、合わせて笑顔を作る。
男の考え方が正しいか間違っているかはローズには判断がつかない。これ以上、深い話は危ないと直感的に悟る。そろそろ切り上げる頃合いだ。
「そうそう、くれぐれも私がここにいたことは内密に」
チャーミングにウインクしてみる。
出来るだけ感情を出さないように、驚いたことが伝わらないように、そして怪しまれないように。
フレア=ランスを演じているというより、初代フレアであるフィンのつもりで仕草を真似てみた。
試しに握手を求めてみた。
秘書のくせに偉そうだと思われても、それはそれと割り切った。
「美人で有能と噂を聞いていたが……思っていた以上だ。今日はお会い出来てよかった。マーカス殿はフレアさんのような方のサポートがあるからこそ、世の中を動かせることもあるだろう。マーカス殿にお互いの健勝を祈ると伝えてくれ」
ニコニコと握手を返してくれた。
まじめな表情を崩さないように退出した。
会社から出て、角を曲がり、やっと息を入れる。
今更心臓が高鳴る。
思っていた以上にフレアになりきっていた自分も可笑しかったが、それで通用してしまったことに予想以上に驚いた。軍服よりも似合っている仕事かも知れないと一人でほくそ笑んだ。
ともあれ、もう一人合わないといけない人物を捜そうと思った。
シエロ――彼は本部に戻ってきているだろうか。
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