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幕間1
エリート広報官の独り言
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新人の妄想記事ではない。
大変残念だが、ここに書かれていることは事実だ。
新聞の一面に煽るような大きな見出しが踊っている。
世間を驚かせたいという意思表示だろうが、違う意味で皇太子付きの広報官の心を揺さぶる。
あの夜。
オリバーは通報を受け、子飼いの騎馬警官と共に現場へ急いだ。
ならず者に襲われている男女がいるということらしい。
ああ、知っているさ。
噴水広場に逃げ込んだのは予想外だったが。
これで少しは懲りるだろう、とほくそ笑みながら、現場である噴水広場にたどり着くとそこには予想していなかった光景が待っていた。
当の本人達の姿はどこにもない。
代わりに落ちているといったら、ならず者たちの呻き声だった。
無表情に捕縛を指示する。
しかし、頭ではどうやってこのならず者たちを切り抜けたのだろうかだとか、これほどまでに痛めつけられるはずがないと、いつもなら正確な計算機のような頭脳がパニックに陥っていた。
あのエリシオのことだから、あることないこと書き立てるだろうと思って第三帝国新聞を取り寄せてみれば、なんのことない。一面記事で帝都の夜に現れた救いの炎と題して、自分自身の体験談を記事として盛り上げている。
オリバーは眉をひそめる。
低俗さではない、その内容だ。
深夜の暗がりから当社記者に襲いかかる暴漢を撃退したのは……某王国の姫君。
その剣には炎が宿る。古代五大王家に伝わる不思議な力の一つ、炎を操るロイヤルフレア。
オリバーは舌を巻いた。
記事の前段はともかく、ロイヤルフレアのいきさつは預かり知らぬところ。
何も知らない大衆なら、それこそ都市伝説の一つ程度の読み捨て記事かもしれない。
第三帝国新聞がまた何か陰謀説を唱えていると揶揄されて終わるのが関の山だ。
それこそ都市伝説の一つ程度の読み捨て記事かもしれない。
第三帝国新聞がまた何か陰謀説を唱えていると揶揄されて終わるのが関の山だ。
しかし、今は苦笑するだけでは終われない。
フィーナル王国のフィン王女というのは、先日皇太子殿下へ挨拶に訪れたばかりだ。
背が高く、腰まで伸びた艶やかな赤い髪に意思の強そうな瞳。ドレスを着ていなかった。シャツにパンツのスタイルで男の騎士のような出立ちで、謁見した。
女はドレスでスカート丈は足元を隠すという皇太子殿下謁見の際の暗黙のルールがある。そしてフィンという名前は本来なら男に使われるのではないか。見た目も軍服ならともかく男装の麗人を地でいくよう格好は見ている側の肝が冷える。
異色の姫の挨拶に、辺境にある田舎王国の娘が男のなりをしている、程度の評価ですんだのが幸いだ。
堅物のようにみえて女にはうるさい。
好色とは違う意味で面倒臭いのだ、あの皇太子という偏屈男は。
と、愚痴るように思い出す。
一面記事を切り離された第三帝国新聞には、アイアンブルー、またも姫と王子を捨てるという見出しが目に留まる。
ため息をつくほど、厄介な汚れ仕事だ。目の下にクマをつくり、あちこちに頭を下げながら、後処理をやらなければならない。
ロイヤルブルーを継げない王子に価値はないとか、下っ端が他国から嫁入りしてきて姫に言う残念な役回りだ。
ついにそんなかわいそうな姫が今回で九人目。
記念すべき十人目はどんな姫かと自嘲気に考えていたところに、フィーナル王国のフィン王女が現れた。
きっと彼女は何も知らないのだろう。
だから、のこのこと挨拶に現れる。
フィーナル王国は辺境にあれど古代から続く家柄。文明レベルは低く、山を越えないとたどり着けず、侵略価値は低い。
鉄道敷設がなければ誰も知らないような田舎の国だ。
ただ一つ、古代から続く王国だけに秘匿されていることがあるのはオリバーは知っていた。
エリシオも知っていたのは驚きだが、彼は学生時代から本の虫だったから、知っていてもおかしくないだろう。
本当にロイヤルフレアの炎であのならず者を焼いたのかどうかはわからないが、フィーナル王国で炎といえばロイヤルフレアと紐づけるのは当然であり、その方が記事としては魅力だろう。
秘匿された幻の能力、ロイヤルフレア。
帝国皇室はほぼ誰も秘匿された能力は使えない。
ロイヤルブルーでただ一人能力を持っているのは皇女ミスティリア。
しかも炎ではなく氷。
あのアイアンブルーでさえ、能力は継いでいない。それがあの男のコンプレックスにならないはずがない。
そのフィン王女は皇太子からやはりロイヤルフレアのことを尋ねられた時、なんて答えたか。
「ロイヤルフレアは滅んだ能力。帝国のロイヤルブルーが受け継いできた氷を操る能力のように」
と、説明していたのを思い出した。
やつれた顔でフフッと笑う。
「エリシオ。なかなか良いスクープを書くじゃないか」
顔を歪ませて、残りの新聞をくしゃくしゃにした。
きっとあの男はロイヤルフレアを欲しがるだろう、ロイヤルブルーを継いだ王子が幻の能力ロイヤルフレアを扱うだなんて、あの男にとっては最高のシナリオだ。
食いつかないはずがない。
帝国包囲網は多い方がいい。
ファイナリアのフィーナル王国、炎の国というが火付け役になってもらうのも悪くない。計画が前倒しできる。
襲わせた甲斐があったよ、と夜の闇の先を見つめながら、オリバーはつぶやいた。
大変残念だが、ここに書かれていることは事実だ。
新聞の一面に煽るような大きな見出しが踊っている。
世間を驚かせたいという意思表示だろうが、違う意味で皇太子付きの広報官の心を揺さぶる。
あの夜。
オリバーは通報を受け、子飼いの騎馬警官と共に現場へ急いだ。
ならず者に襲われている男女がいるということらしい。
ああ、知っているさ。
噴水広場に逃げ込んだのは予想外だったが。
これで少しは懲りるだろう、とほくそ笑みながら、現場である噴水広場にたどり着くとそこには予想していなかった光景が待っていた。
当の本人達の姿はどこにもない。
代わりに落ちているといったら、ならず者たちの呻き声だった。
無表情に捕縛を指示する。
しかし、頭ではどうやってこのならず者たちを切り抜けたのだろうかだとか、これほどまでに痛めつけられるはずがないと、いつもなら正確な計算機のような頭脳がパニックに陥っていた。
あのエリシオのことだから、あることないこと書き立てるだろうと思って第三帝国新聞を取り寄せてみれば、なんのことない。一面記事で帝都の夜に現れた救いの炎と題して、自分自身の体験談を記事として盛り上げている。
オリバーは眉をひそめる。
低俗さではない、その内容だ。
深夜の暗がりから当社記者に襲いかかる暴漢を撃退したのは……某王国の姫君。
その剣には炎が宿る。古代五大王家に伝わる不思議な力の一つ、炎を操るロイヤルフレア。
オリバーは舌を巻いた。
記事の前段はともかく、ロイヤルフレアのいきさつは預かり知らぬところ。
何も知らない大衆なら、それこそ都市伝説の一つ程度の読み捨て記事かもしれない。
第三帝国新聞がまた何か陰謀説を唱えていると揶揄されて終わるのが関の山だ。
それこそ都市伝説の一つ程度の読み捨て記事かもしれない。
第三帝国新聞がまた何か陰謀説を唱えていると揶揄されて終わるのが関の山だ。
しかし、今は苦笑するだけでは終われない。
フィーナル王国のフィン王女というのは、先日皇太子殿下へ挨拶に訪れたばかりだ。
背が高く、腰まで伸びた艶やかな赤い髪に意思の強そうな瞳。ドレスを着ていなかった。シャツにパンツのスタイルで男の騎士のような出立ちで、謁見した。
女はドレスでスカート丈は足元を隠すという皇太子殿下謁見の際の暗黙のルールがある。そしてフィンという名前は本来なら男に使われるのではないか。見た目も軍服ならともかく男装の麗人を地でいくよう格好は見ている側の肝が冷える。
異色の姫の挨拶に、辺境にある田舎王国の娘が男のなりをしている、程度の評価ですんだのが幸いだ。
堅物のようにみえて女にはうるさい。
好色とは違う意味で面倒臭いのだ、あの皇太子という偏屈男は。
と、愚痴るように思い出す。
一面記事を切り離された第三帝国新聞には、アイアンブルー、またも姫と王子を捨てるという見出しが目に留まる。
ため息をつくほど、厄介な汚れ仕事だ。目の下にクマをつくり、あちこちに頭を下げながら、後処理をやらなければならない。
ロイヤルブルーを継げない王子に価値はないとか、下っ端が他国から嫁入りしてきて姫に言う残念な役回りだ。
ついにそんなかわいそうな姫が今回で九人目。
記念すべき十人目はどんな姫かと自嘲気に考えていたところに、フィーナル王国のフィン王女が現れた。
きっと彼女は何も知らないのだろう。
だから、のこのこと挨拶に現れる。
フィーナル王国は辺境にあれど古代から続く家柄。文明レベルは低く、山を越えないとたどり着けず、侵略価値は低い。
鉄道敷設がなければ誰も知らないような田舎の国だ。
ただ一つ、古代から続く王国だけに秘匿されていることがあるのはオリバーは知っていた。
エリシオも知っていたのは驚きだが、彼は学生時代から本の虫だったから、知っていてもおかしくないだろう。
本当にロイヤルフレアの炎であのならず者を焼いたのかどうかはわからないが、フィーナル王国で炎といえばロイヤルフレアと紐づけるのは当然であり、その方が記事としては魅力だろう。
秘匿された幻の能力、ロイヤルフレア。
帝国皇室はほぼ誰も秘匿された能力は使えない。
ロイヤルブルーでただ一人能力を持っているのは皇女ミスティリア。
しかも炎ではなく氷。
あのアイアンブルーでさえ、能力は継いでいない。それがあの男のコンプレックスにならないはずがない。
そのフィン王女は皇太子からやはりロイヤルフレアのことを尋ねられた時、なんて答えたか。
「ロイヤルフレアは滅んだ能力。帝国のロイヤルブルーが受け継いできた氷を操る能力のように」
と、説明していたのを思い出した。
やつれた顔でフフッと笑う。
「エリシオ。なかなか良いスクープを書くじゃないか」
顔を歪ませて、残りの新聞をくしゃくしゃにした。
きっとあの男はロイヤルフレアを欲しがるだろう、ロイヤルブルーを継いだ王子が幻の能力ロイヤルフレアを扱うだなんて、あの男にとっては最高のシナリオだ。
食いつかないはずがない。
帝国包囲網は多い方がいい。
ファイナリアのフィーナル王国、炎の国というが火付け役になってもらうのも悪くない。計画が前倒しできる。
襲わせた甲斐があったよ、と夜の闇の先を見つめながら、オリバーはつぶやいた。
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