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新しい魔法
10.ラストスパート(レイ)
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アスカがユリアに向かって魔法攻撃を仕掛けた。
「やっぱり下がってユリア。アスカの魔法は俺が止める」
ユリアを思いっきり引いて、雷の魔法を防いだ。
その瞬間、今度はゼルがユリアに向かって拳を振りかぶる。
ゼルの攻撃はユリアのカウンター魔法によって弾かれた。
雷に撃たれたゼルは、すぐさまシュウが治癒魔法で回復させる。それと同時に、また立ち向かって来る。
「…厄介…」
思わず舌打ちをしてしまった。ゼルには痛覚がないから。動けなくなる程の衝撃を与えない限り、怯むことなく臨戦体制に入る。
それにテルもだ。シュウを抱えたままで、魔法を避けながら距離を詰めてくる。
人一人を担いでいるくせに、動きが鈍くなることはない。
魔法を避けるスピードも、身のこなしも何も変わらない。
「化け物だろ…アイツ」
呟いた俺に向かって、ユリアは「レイも変わらない」と、青い顔を見せた。
「俺はあの二人みたいに、人外な動きはしないって…」
そんなことを話しながら地面に手をついて、シュウを狙ってストーン魔法を放った。
攻撃の手が止まない。四人の狙いはきっと、ユリアを包む魔力を消費させることだ。
「アスカが厄介だな…」
普通は他人の魔力の残量なんて見えないし、分かりようがないはずなんだ。それなのに、アスカはソレが当たり前のように出来てしまう。
更に言うと、俺自身もユリアを覆う魔力がどのくらいで無くなるのかは把握できていない。
つまり…自分の魔力なのに、ユリアを包む魔力の残量が俺には分からない。
けれどアスカも加わってユリアを攻撃するということは。
(多分…ユリアを包んでいる魔力の残量は残り僅か…)
それなら、攻撃を全てユリアに受けさせるわけにはいかない。もちろん、下手に攻撃することも避けないといけない。
(無駄にカウンター魔法が発動するから…)
ユリアを守らないとないといけない分、シュウだけを狙って攻撃することができなくなった。
(あと…気になるのは…)
「何だ…?あの武器」
テルの武器。刀身がアメジスト色に染まっている。あんな武器見たこと無い。
(…魔石…?じゃ無いな。しっかり刃がある)
魔石で作った剣は斬るというよりは、打撃攻撃だ。だから、刃がない。魔石は剣のように鋭利に研ぐことはできないから。
けれど、あのサーベルにはしっかり刃がある。
「シュウがテルに渡してたよね…?もしかしたら、付加効果があるのかも…」
どうやら、ユリアも気になっていたようだ。
「だよな?…注意深く見てて。アスカとテルの攻撃は俺が止めるから、ゼルの攻撃はなるべくユリアが…」
二人で話していたその時だった。アスカが不意に魔法攻撃をやめて、ゼルに属性の付与魔法を行った。
シュウに雷の属性を付けている今のタイミングで、ゼルに属性を付けるとしたら?
(多分『ストーン』だ)
マジックブレイクが凍りついてしまった今、その方法が一番早くユリアの魔法を枯渇させることができる。
(魂胆が見え見え)
アスカの付与魔法の効果で、ゼルの攻撃力を底上げして、ユリアを覆う魔力をより多く削ろうって戦略だ。
それと同時に、俺の広範囲のストーン魔法の乱れ撃ちをやめさせる魂胆だ。
雷属性を付けられたシュウにとって、ストーン魔法は大ダメージを与えられるけど、ゼルには効かない。
だからこそ広範囲の魔法は放たないと思ってる。
それなら、属性関係ない魔法を放つだけだ。
やり方なんていくらでもある。
「弱点属性の魔法を付けたからって、意味ないけど?」
わざと煽るように言ってから、アスカに向かって手を掲げた。
「ユリアは俺から離れないで。あと、出来るだけ息を殺して」
腕の中のユリアはおとなしく頷いている。
そういうところも従順で可愛い。なんて微笑んだ後、ユリアが口に手を当てて塞いだ瞬間、氷の魔法を放った。
冷たい旋風と共に、触れると一瞬にして凍りつく結晶が、広範囲に煌めきを放つ。
微細な氷の結晶を吸い込むと、たちまち肺が凍りつく。氷魔法の最上級魔法。
避けるのだって至難の技だ。
勝ちは確定している。シュウが凍りつくとまずいな。回復役がいなくなると死人がでるかもくらいに思っていた。
…それなのに。
「…は…?」
予想外の展開に、かざしていた手を下げた。
テルがサーベルを振るった途端に氷の結晶は、一粒も残らずアメジスト色の刀身に吸収されてしまった。
(なんだ…?あの剣は…)
テルを注視していた俺に隙ができた。
そこを二人が見逃すわけがない。アスカが手をかざし、ゼルが拳を振り上げた。
「レイ!!」
腕の中のユリアが、いきなり強く身体を押した。
よろけて倒れた瞬間に、ユリアが短剣を取り出して構えるのが見えた。
ストーンの属性を付けたゼルに、手をかざしたアスカ…。二人の魂胆が何となく分かった。
「ユリア!!待てっ…っ!」
二人はカウンター魔法の弱点を狙ってる。ゼルとアスカが攻撃のタイミングを合わせて、ユリアに襲いかかる。
アスカの魔法を打ち消そうと手をかざした…その時だった。
「ユリアのこと気にしてていいのかよ?」
声に顔を上げると、いつの間にかテルに間合いを詰められていた。
サーベルの特性も分からない。魔法の効果を打ち消すものなのか。それとも吸収するものなのか。
それを今考えている暇は無い。
すぐさまテルに向かって手をかざし、魔法を放った。
大抵の場合無自覚で即放てる魔法は『自分の属性の魔法』。つまり、炎の魔法だ。
最大級の炎魔法に向かって、テルがサーベルを振るうと、いきなり刀身から氷の魔法が放たれた。
これは俺の『氷』魔法だ……。
吸い込むとまずい氷の粒子。しかも…氷の魔法は炎に打ち勝ってしまう。
(更に言うと俺の魔法だ……!)
ユリアを守るためには氷を打ち消す必要がある。
出来るだけ火力を上げる。弱点魔法を上回る火力を作り出すためには、両手撃ちなんて悠長なこと言っていられない。
炎の渦が天井まで上がり、警報音が鳴り響く。
その音に気を取られた…。そのほんの僅かな隙に、俺の背後にテルが素早くまわる気配を感じた。
振り返る間もなく側頭部に打撃を受けて、ぶっ飛んだ。
「…っはぁ…やっと捉えた…」
起き上がる俺に向かって、テルは口の端を上げてそう呟いた。
「やっぱり下がってユリア。アスカの魔法は俺が止める」
ユリアを思いっきり引いて、雷の魔法を防いだ。
その瞬間、今度はゼルがユリアに向かって拳を振りかぶる。
ゼルの攻撃はユリアのカウンター魔法によって弾かれた。
雷に撃たれたゼルは、すぐさまシュウが治癒魔法で回復させる。それと同時に、また立ち向かって来る。
「…厄介…」
思わず舌打ちをしてしまった。ゼルには痛覚がないから。動けなくなる程の衝撃を与えない限り、怯むことなく臨戦体制に入る。
それにテルもだ。シュウを抱えたままで、魔法を避けながら距離を詰めてくる。
人一人を担いでいるくせに、動きが鈍くなることはない。
魔法を避けるスピードも、身のこなしも何も変わらない。
「化け物だろ…アイツ」
呟いた俺に向かって、ユリアは「レイも変わらない」と、青い顔を見せた。
「俺はあの二人みたいに、人外な動きはしないって…」
そんなことを話しながら地面に手をついて、シュウを狙ってストーン魔法を放った。
攻撃の手が止まない。四人の狙いはきっと、ユリアを包む魔力を消費させることだ。
「アスカが厄介だな…」
普通は他人の魔力の残量なんて見えないし、分かりようがないはずなんだ。それなのに、アスカはソレが当たり前のように出来てしまう。
更に言うと、俺自身もユリアを覆う魔力がどのくらいで無くなるのかは把握できていない。
つまり…自分の魔力なのに、ユリアを包む魔力の残量が俺には分からない。
けれどアスカも加わってユリアを攻撃するということは。
(多分…ユリアを包んでいる魔力の残量は残り僅か…)
それなら、攻撃を全てユリアに受けさせるわけにはいかない。もちろん、下手に攻撃することも避けないといけない。
(無駄にカウンター魔法が発動するから…)
ユリアを守らないとないといけない分、シュウだけを狙って攻撃することができなくなった。
(あと…気になるのは…)
「何だ…?あの武器」
テルの武器。刀身がアメジスト色に染まっている。あんな武器見たこと無い。
(…魔石…?じゃ無いな。しっかり刃がある)
魔石で作った剣は斬るというよりは、打撃攻撃だ。だから、刃がない。魔石は剣のように鋭利に研ぐことはできないから。
けれど、あのサーベルにはしっかり刃がある。
「シュウがテルに渡してたよね…?もしかしたら、付加効果があるのかも…」
どうやら、ユリアも気になっていたようだ。
「だよな?…注意深く見てて。アスカとテルの攻撃は俺が止めるから、ゼルの攻撃はなるべくユリアが…」
二人で話していたその時だった。アスカが不意に魔法攻撃をやめて、ゼルに属性の付与魔法を行った。
シュウに雷の属性を付けている今のタイミングで、ゼルに属性を付けるとしたら?
(多分『ストーン』だ)
マジックブレイクが凍りついてしまった今、その方法が一番早くユリアの魔法を枯渇させることができる。
(魂胆が見え見え)
アスカの付与魔法の効果で、ゼルの攻撃力を底上げして、ユリアを覆う魔力をより多く削ろうって戦略だ。
それと同時に、俺の広範囲のストーン魔法の乱れ撃ちをやめさせる魂胆だ。
雷属性を付けられたシュウにとって、ストーン魔法は大ダメージを与えられるけど、ゼルには効かない。
だからこそ広範囲の魔法は放たないと思ってる。
それなら、属性関係ない魔法を放つだけだ。
やり方なんていくらでもある。
「弱点属性の魔法を付けたからって、意味ないけど?」
わざと煽るように言ってから、アスカに向かって手を掲げた。
「ユリアは俺から離れないで。あと、出来るだけ息を殺して」
腕の中のユリアはおとなしく頷いている。
そういうところも従順で可愛い。なんて微笑んだ後、ユリアが口に手を当てて塞いだ瞬間、氷の魔法を放った。
冷たい旋風と共に、触れると一瞬にして凍りつく結晶が、広範囲に煌めきを放つ。
微細な氷の結晶を吸い込むと、たちまち肺が凍りつく。氷魔法の最上級魔法。
避けるのだって至難の技だ。
勝ちは確定している。シュウが凍りつくとまずいな。回復役がいなくなると死人がでるかもくらいに思っていた。
…それなのに。
「…は…?」
予想外の展開に、かざしていた手を下げた。
テルがサーベルを振るった途端に氷の結晶は、一粒も残らずアメジスト色の刀身に吸収されてしまった。
(なんだ…?あの剣は…)
テルを注視していた俺に隙ができた。
そこを二人が見逃すわけがない。アスカが手をかざし、ゼルが拳を振り上げた。
「レイ!!」
腕の中のユリアが、いきなり強く身体を押した。
よろけて倒れた瞬間に、ユリアが短剣を取り出して構えるのが見えた。
ストーンの属性を付けたゼルに、手をかざしたアスカ…。二人の魂胆が何となく分かった。
「ユリア!!待てっ…っ!」
二人はカウンター魔法の弱点を狙ってる。ゼルとアスカが攻撃のタイミングを合わせて、ユリアに襲いかかる。
アスカの魔法を打ち消そうと手をかざした…その時だった。
「ユリアのこと気にしてていいのかよ?」
声に顔を上げると、いつの間にかテルに間合いを詰められていた。
サーベルの特性も分からない。魔法の効果を打ち消すものなのか。それとも吸収するものなのか。
それを今考えている暇は無い。
すぐさまテルに向かって手をかざし、魔法を放った。
大抵の場合無自覚で即放てる魔法は『自分の属性の魔法』。つまり、炎の魔法だ。
最大級の炎魔法に向かって、テルがサーベルを振るうと、いきなり刀身から氷の魔法が放たれた。
これは俺の『氷』魔法だ……。
吸い込むとまずい氷の粒子。しかも…氷の魔法は炎に打ち勝ってしまう。
(更に言うと俺の魔法だ……!)
ユリアを守るためには氷を打ち消す必要がある。
出来るだけ火力を上げる。弱点魔法を上回る火力を作り出すためには、両手撃ちなんて悠長なこと言っていられない。
炎の渦が天井まで上がり、警報音が鳴り響く。
その音に気を取られた…。そのほんの僅かな隙に、俺の背後にテルが素早くまわる気配を感じた。
振り返る間もなく側頭部に打撃を受けて、ぶっ飛んだ。
「…っはぁ…やっと捉えた…」
起き上がる俺に向かって、テルは口の端を上げてそう呟いた。
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