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レイの過去
10.あの日のこと①(テル)
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「ごめんなさい」と何度も叫んで泣き崩れてしまったユリアの肩を抱いた。
ジーナさんは「抱えきれないわよね?混乱するよね?」と、声をかけている。
でもその声はユリアには届いてなんて無くて…。荒い息を繰り返しながら、身体を震わせている。
俺もかける言葉が見つからない。何も言えずユリアが倒れないように支えることしか出来なかった。
シュウはそんな俺たちとは違った。パニックで震えるユリアの手を握って「合わせるように呼吸して?」と、深呼吸してみせたり、背中を撫でて落ち着かせたり。
「…ゆっくり息を吐いて?吸ってるだけだと苦しくなるから…」
その光景に既視感を覚えた。それと同時に不意にあの日…レイとユリアを助け出した情景を鮮明に思い出した。
「…ジーナさん…あの日…ユリアとレイを1番に見つけたのは…俺とシュウですよね?」
頭を抱えているジーナさんが「…そうよ?」と呟いた。驚いているのはシュウの方だった。
「レイ君を助けた記憶はあるんだけど…。そこにユリアとテル君がいたことは…覚えてないの…ごめんなさい」
(そうだ…シュウは俺とユリアの記憶はないのか…)
でも、シュウがいたことは確かだった。俺はあの日…。シュウのようになりたいと思ったから。
***
シュウはいつも冷静な対処ができるやつだった…。
あの日ユリアが城を抜け出して…、レイはそれを追ってすぐに出て行った。
両親がユリアを追わなかったのは、動揺してしまっていたから。母さんはユリアの放った『呪われた力』という言葉と、ユリアの頬を叩いてしまった自分に泣き崩れてしまっていたし、父さんはそれを慰めていた。
ジーナさんやイリヤ国王は「レイも帰って来ないから…いつものように二人でいるから大丈夫だろう?」なんて、あまり心配していなかった。
みんな、すぐに頭を冷やして帰ってくるだろうと思っていたから。
それなのに…2人は夕方近くなっても帰って来なかった。俺は嫌な予感がしたんだ。双子独特のテレパシーとか…?そんな感じ。
(ユリアが…危ない…?)
とりあえず探そうとお城の門を開いた時、静かに声をかけてきたのがシュウだった。
「…ユリアを探しに行くの?」
あの頃のシュウは、その立ち振る舞いも性格も全て洗練された『物語の中の王子』だった。髪も短くて、背も体型も当時の俺と似てた。視線も同じくらいだった。
聡明で誰にでも優しい。女性を虜にする、中性的な顔立ち。目が大きくて色白で、その笑顔はみんなを虜にした。女の子みたいだなって思ったことも…なかった訳じゃない。
俺とは剣術も体術も互角だった。それに加えてシュウは頭も良かった。柔らかい雰囲気だと思ったら、以外と頑固。だけどいつも冷静で…。二人で手合わせする時は、負けた理由を分析して教えてくれたり(太刀筋のくせとか)自分が負けた時は、素直に褒めてくれたりしてた。
「俺も行くよ…。煽ったのは俺だしさ…」
申し訳無さそうにシュウは言った。別にシュウが悪い訳じゃないと言ったけれど、頑として「行く!!」と言って聞かなかった。
一度決めたことは何があっても曲げない。その性格は子供の時から変わらない。
「怪我してる場合を考えたら、俺もいた方がいいよ。そんなことより、双子の力で早くユリアを見つけよう!」
言い争ってる時間ないし…。なんて考えながら二人で城を抜け出したんだ。
しばらくお城周辺を探していたけど見つからなくて…。路地裏を通りかかった時に、微かにユリアの『歌声』が聞こえた。
俺もセイレーンの血を引くから、普通の人間よりは耳もいい。
聞こえる音は『ユリアが危ない』ことを示していた。
「…近くにいる!!でも…まずい気がする!」
そうシュウに声をかけて走った。俺は、助けなくちゃ!と、焦るばかりだった。
そんなおれとは違ってシュウは冷静だった。
「ユリアを見つけたよ?テルと今向かってる…。お父様!すぐにきて!」
俺の後を追いながらも後ろから連絡を取っているシュウの声が聞こえた。
必死に音をたどった。ユリアの声は聞こえない。警告音…何かが崩れ落ちる音。怒鳴り声。そして何かが燃える音。全部くぐもって聞こえる。
(どの建物のだ?…音が下から響いてくる。地下…?地下がある建物だ…)
音が近い…『見つけた!!』ここだと確信して、アクセサリーショップの扉を蹴破った。
「ちょっ…テル!蹴破るのはダメだよ?もし違ってたら不法侵入に…」
後ろでごちゃごちゃ言ってるシュウを無視して、店の中に入った。
「ユリアー!!もう、母さん達怒ってないって言ってるから、出てこいよ!」
「本当にいるのか…?」
なんだかんだ言いながら、シュウもしっかり中に入って来てくれた。異変に気づいたのは、シュウだった。焦げ臭いにおいに気づいて、地下に繋がる隠し扉を見つけた。
その扉を開けた瞬間レイの叫び声が聞こえた。
煙に撒かれた階段を駆け降りていくと、意識を失っているユリアを抱いたレイを見つけた。
2人は傷だらけだったから…。レイからユリアを受けとって、レイの手を無理矢理引いて階段を駆け上がった。
何があったのかは分からなかった。店の外へ二人を連れ出すと、シュウはユリアの手当を初めた。
レイは地上に出た途端に、嘔吐を繰り返してしまってた。流石に息切れしてその場に蹲った。
「…っ…まだ…地下に人がいる…。そいつらも助けて…」
吐きながらもそう伝えてきた。
(…聞こえてた音からして、この傷は明らかにそいつらにつけられたものだろ…?)
あの部屋に戻ったら俺も危ない。だけど、もし助けなかったら…?
(後悔しそうだ…)
「~~っ!分かった!!行けばいいんだろ?」
混乱する俺とは違ってシュウは俺の手を引いて「行かなくていい」と、首を振ったんだ。
「レイ君落ち着いて?テルが戻るのは危険だよ。お父様に連絡してあるから。みんな助ける。安心して!」
シュウがそう言ってレイを落ち着かせた。まだ吐き続けるレイの背中を撫でながら、ユリアにも治癒魔法をかける。
そしてシュウの言う通り…。その後で直ぐに国王と父さんが駆けつけてくれたんだ。
(あの日…。あの時…。シュウが居てくれて本当によかった)
全てがシュウの言う通りになった。何も考えずに突っ走った自分が情けなかった。
同じ年なのに…。俺なんかよりずっと大人びていて、誰かを助けることのできるシュウを心から尊敬した。
それに…。俺もシュウのようになりたいって、心の底から思ったんだ。
ジーナさんは「抱えきれないわよね?混乱するよね?」と、声をかけている。
でもその声はユリアには届いてなんて無くて…。荒い息を繰り返しながら、身体を震わせている。
俺もかける言葉が見つからない。何も言えずユリアが倒れないように支えることしか出来なかった。
シュウはそんな俺たちとは違った。パニックで震えるユリアの手を握って「合わせるように呼吸して?」と、深呼吸してみせたり、背中を撫でて落ち着かせたり。
「…ゆっくり息を吐いて?吸ってるだけだと苦しくなるから…」
その光景に既視感を覚えた。それと同時に不意にあの日…レイとユリアを助け出した情景を鮮明に思い出した。
「…ジーナさん…あの日…ユリアとレイを1番に見つけたのは…俺とシュウですよね?」
頭を抱えているジーナさんが「…そうよ?」と呟いた。驚いているのはシュウの方だった。
「レイ君を助けた記憶はあるんだけど…。そこにユリアとテル君がいたことは…覚えてないの…ごめんなさい」
(そうだ…シュウは俺とユリアの記憶はないのか…)
でも、シュウがいたことは確かだった。俺はあの日…。シュウのようになりたいと思ったから。
***
シュウはいつも冷静な対処ができるやつだった…。
あの日ユリアが城を抜け出して…、レイはそれを追ってすぐに出て行った。
両親がユリアを追わなかったのは、動揺してしまっていたから。母さんはユリアの放った『呪われた力』という言葉と、ユリアの頬を叩いてしまった自分に泣き崩れてしまっていたし、父さんはそれを慰めていた。
ジーナさんやイリヤ国王は「レイも帰って来ないから…いつものように二人でいるから大丈夫だろう?」なんて、あまり心配していなかった。
みんな、すぐに頭を冷やして帰ってくるだろうと思っていたから。
それなのに…2人は夕方近くなっても帰って来なかった。俺は嫌な予感がしたんだ。双子独特のテレパシーとか…?そんな感じ。
(ユリアが…危ない…?)
とりあえず探そうとお城の門を開いた時、静かに声をかけてきたのがシュウだった。
「…ユリアを探しに行くの?」
あの頃のシュウは、その立ち振る舞いも性格も全て洗練された『物語の中の王子』だった。髪も短くて、背も体型も当時の俺と似てた。視線も同じくらいだった。
聡明で誰にでも優しい。女性を虜にする、中性的な顔立ち。目が大きくて色白で、その笑顔はみんなを虜にした。女の子みたいだなって思ったことも…なかった訳じゃない。
俺とは剣術も体術も互角だった。それに加えてシュウは頭も良かった。柔らかい雰囲気だと思ったら、以外と頑固。だけどいつも冷静で…。二人で手合わせする時は、負けた理由を分析して教えてくれたり(太刀筋のくせとか)自分が負けた時は、素直に褒めてくれたりしてた。
「俺も行くよ…。煽ったのは俺だしさ…」
申し訳無さそうにシュウは言った。別にシュウが悪い訳じゃないと言ったけれど、頑として「行く!!」と言って聞かなかった。
一度決めたことは何があっても曲げない。その性格は子供の時から変わらない。
「怪我してる場合を考えたら、俺もいた方がいいよ。そんなことより、双子の力で早くユリアを見つけよう!」
言い争ってる時間ないし…。なんて考えながら二人で城を抜け出したんだ。
しばらくお城周辺を探していたけど見つからなくて…。路地裏を通りかかった時に、微かにユリアの『歌声』が聞こえた。
俺もセイレーンの血を引くから、普通の人間よりは耳もいい。
聞こえる音は『ユリアが危ない』ことを示していた。
「…近くにいる!!でも…まずい気がする!」
そうシュウに声をかけて走った。俺は、助けなくちゃ!と、焦るばかりだった。
そんなおれとは違ってシュウは冷静だった。
「ユリアを見つけたよ?テルと今向かってる…。お父様!すぐにきて!」
俺の後を追いながらも後ろから連絡を取っているシュウの声が聞こえた。
必死に音をたどった。ユリアの声は聞こえない。警告音…何かが崩れ落ちる音。怒鳴り声。そして何かが燃える音。全部くぐもって聞こえる。
(どの建物のだ?…音が下から響いてくる。地下…?地下がある建物だ…)
音が近い…『見つけた!!』ここだと確信して、アクセサリーショップの扉を蹴破った。
「ちょっ…テル!蹴破るのはダメだよ?もし違ってたら不法侵入に…」
後ろでごちゃごちゃ言ってるシュウを無視して、店の中に入った。
「ユリアー!!もう、母さん達怒ってないって言ってるから、出てこいよ!」
「本当にいるのか…?」
なんだかんだ言いながら、シュウもしっかり中に入って来てくれた。異変に気づいたのは、シュウだった。焦げ臭いにおいに気づいて、地下に繋がる隠し扉を見つけた。
その扉を開けた瞬間レイの叫び声が聞こえた。
煙に撒かれた階段を駆け降りていくと、意識を失っているユリアを抱いたレイを見つけた。
2人は傷だらけだったから…。レイからユリアを受けとって、レイの手を無理矢理引いて階段を駆け上がった。
何があったのかは分からなかった。店の外へ二人を連れ出すと、シュウはユリアの手当を初めた。
レイは地上に出た途端に、嘔吐を繰り返してしまってた。流石に息切れしてその場に蹲った。
「…っ…まだ…地下に人がいる…。そいつらも助けて…」
吐きながらもそう伝えてきた。
(…聞こえてた音からして、この傷は明らかにそいつらにつけられたものだろ…?)
あの部屋に戻ったら俺も危ない。だけど、もし助けなかったら…?
(後悔しそうだ…)
「~~っ!分かった!!行けばいいんだろ?」
混乱する俺とは違ってシュウは俺の手を引いて「行かなくていい」と、首を振ったんだ。
「レイ君落ち着いて?テルが戻るのは危険だよ。お父様に連絡してあるから。みんな助ける。安心して!」
シュウがそう言ってレイを落ち着かせた。まだ吐き続けるレイの背中を撫でながら、ユリアにも治癒魔法をかける。
そしてシュウの言う通り…。その後で直ぐに国王と父さんが駆けつけてくれたんだ。
(あの日…。あの時…。シュウが居てくれて本当によかった)
全てがシュウの言う通りになった。何も考えずに突っ走った自分が情けなかった。
同じ年なのに…。俺なんかよりずっと大人びていて、誰かを助けることのできるシュウを心から尊敬した。
それに…。俺もシュウのようになりたいって、心の底から思ったんだ。
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