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レイの過去
3.レイの出生
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緊張感の漂う部屋で、ジーナさんは向かいあうように座ってくれた。
「レイの魔力が普通の悪魔族よりも高いことは知ってるかしら?」
「はい…。でも、身体に魔力がついて行かないから、小さな頃はよく暴発させてたって…」
ジーナさんは「レイの生い立ちは何も聞いてないのね?」と呟くと、長くなるけどいいかしら?と、レイの出生について語りだした。
レイの父親であるオスカは悪魔族の中でも純血種と呼ばれる『魔王』だった。
魔力の高さは悪魔族の最上位。希少で誰も見たことの無い。伝説の中にしかいないんじゃないか?と言われる存在だ。
その高い魔力から寿命も長くて老けない。
「私が出会った時…オスカはすでに150歳を超えていたそうよ?」
「え…?150歳って…?」
悪魔族は長命だと言うことは知っていたけれど、まさか100歳を超えて生きるなんて思ってもいなかった。
見た目は20代~30代位に見えるし全然老けない。だから私だけ年を取ってるみたいですごく嫌だ。なんてジーナさんは笑って見せた。
「まぁ…数えるのが面倒になって、100歳を超えた辺りから数えてないらしいから…どこまで本当かは謎だけど」
オスカは魔王の中でも魔力が高く、更に希少だった。その魔力を保つ為に、子孫は残さないという選択をしてずっと1人で生きてきた。
「知ってると思うけれど…悪魔族は子供が出来るとその親が弱体化するからね?」
(知らなかった…)
言い出せる雰囲気ではなくて、青ざめてテルの顔を見た。表情で気付いたのか、テルはため息を吐いた。
「子供に親の魔力の2割~7割が移行して、その分親は弱体化する。移行する魔力はランダムだって…種族学で習ったはずだけど?」
分かっていない私の為に説明を付け足してくれる所が、バカにしているようでお兄ちゃん気質。ありがとうと、小さく頭を下げた。
「そうなの。だからオスカは150年間ずっと1人で生きてきた。自分の存在意義や、いつまで続くのか分からない底知れぬ孤独に彼はずっと悩んでいた。そんな時に私と出会って…まぁ、この話はいいか」
咳払いをして話を元に戻すわね?と、ジーナさんは呟いた。
「私は少し身体が強いだけの普通の人。それが魔王の子供を宿すと、どうなるかなんて分からなかったの…」
子供がどれ程の魔力を持って産まれてくるのか?そして、どんな弊害があるのか。怖くなかったと言ったら嘘になる。
「悪魔族の妊娠期間は通常4ヶ月。…でも、レイは異常だった…。産まれたのは、臨月から更に4ヶ月後だった」
普通の人に近いのかもね?なんて、あの時私たちは気に留めていなかったの。親が異種同士の場合、出産日の予測が難しいって言われているし、大きく外れることも良くあるから。
それより気になったのは…オスカの異様な弱体化だった。弱体化といっても、オスカの魔力が普通より高い事には変わりない。けれど、魔法の威力が落ちていることには、私を含めて全員気付いた。
「オスカ本人はそれ程気にして無かったけどね」
崇められる必要が無くなって清々してる。なんて、オスカらしいことを言って笑ってた。
「そして…レイが産まれたの」
レイは産まれた時から異様に体温が高かった。でも、それ以外は普通の赤ちゃん。特に何の問題も無かった。
その後直ぐにアスカを妊娠したんだけど、アスカは4ヶ月で産まれたから、不思議だった。
「5歳を過ぎた辺りで魔力が安定してきて、魔法を使えるようになる。それからは、身体の成長と共に魔力が高まり、魔法の威力も上がる。それまではレイが異常かどうかは分からない」
悪魔族のことに疎かった私に、オスカはそう教えてくれた。一抹の不安はあったけれど今の時点では大丈夫だろうなんて、安心していた。
「でもね…2歳の頃。初めての魔力の『暴発』が起きたの」
レイとアスカを公園で遊ばせているときだった。何の前触れも無く、レイは自然発火してしまった。炎は近くにいたアスカや、子供達にも燃え移った。それでもその炎は止まらなかった。
レイの周りは一瞬にして炎の海になってしまった。焦っている私をよそにオスカは冷静だった。
オスカはすぐさま魔法で炎を消して、イリヤに連絡をしてくれた。たまたま近くにいた、ミーナが駆けつけてくれたの。
「あの時のことは…よく思い出せない」
私は何も出来なかった。ミーナは火傷を負ってしまった子の治療をすぐに行なってくれた。もちろんアスカも…。
オスカはまるこげになってしまった、レイを抱いてイリヤの元へ運んでくれた。
「オスカは魔王だから飛べるの。レイは一刻を争う状態だったから…」
レイは3日間の昏睡の末、何とか一命を取り留めた。けれど、どうしてこんなことが起きたのか分からなくて。オスカに何でこうなるのか問いただした。
「そしたら、オスカに言われたの。レイは異様に魔力が高いって…。その魔力量に身体が合って」
オスカが言うには、レイの魔力はすでに悪魔族の大人の魔力を超えてしまってる。そう言って困った顔を見せた。
「…魔王の魔力を抑えられる身体じゃない」
そう言ってから「しまった」と、口を覆った。遠回しに『私のせいだ』って、言っているようなものだから。
「でもね。…受け入れるしか無いじゃない?そこを嘆いても仕方がないから」
苦しいのは私じゃなくてレイだから。対処法はあるのか?どうすれば魔力が安定するのか?それだけ2人で考えていこう。そう結論を出した。
「乗り越えられると思ってたの。でも…そんな簡単な問題じゃなかった…。レイは笑わなくなったし、部屋から出なくなってしまったの」
(…子供の頃のレイはきっと孤独だった)
魔力の暴発がいつ起こるかは分からない。命の危険と隣合わせ。それに、暴発で誰かを巻き込んでしまうかも知れない恐怖。
優しいから…。周りの人を巻き込んでしまうのは嫌で…。頭のいいレイだから、両親の苦悩も後悔も全部解っていたから。
だからこそあえて『孤独』でいることを選んだんだと思う。
何も出来なくてもそばにいてあげたかった。私は平気だよ。暴発しても…何が起きても大丈夫。私はそんなに弱くない。そう言って抱きしめてあげたいと思った。
考えても仕方ないことだけれど、涙が溢れて止まらない。そんな私にジーナさんは、微笑みかけて話を続けた。
「レイは私のことも避けるようになっていたの。それなのに…ユリアちゃんだけは受け入れてた。…あなたがレイの支えだったの」
(違う…。きっとレイは子供の時から私を支えてくれてた)
私が初めてアンデットと戦った時もそうだ。セイレーンがいるせいでイーターがこの国を狙ってる。だから目の前で人が死んでしまったと思った。
私のせいだと思うと、血の気が引いて立てなくなったそんな私を「守る」と言って支えてくれたのは、レイだった。
「支えてもらっていたのは…きっと…私です。だってレイは…出会った時から優しかった…」
そう言葉にした途端に泣いてしまった。ジーナさんも泣きながら手を握ってくれた。
「ありがとう。記憶は無いはずなのに…ユリアちゃんは、昔と全く変わらないわね?」
頭を強めに撫でなでると、しばらくしてジーナさんはその手を止めた。
「……レイが今まで生きて来れたのは、間違いなくユリアちゃんのおかげなの。…暴発する魔力とは別にもう一つ…私たちが想像しなかった問題があったの」
ジーナさんの声のトーンが低くなる。空気感が変わった。
「もう一つの…問題…?」
シュウとテルはその問題を知っているようだった。シュウは何も言わずに、青い顔をしているし、テルはあからさまに目を背けている。
不安が押し寄せる。問いかけた声は震えていた。
「…サキュバスよ…」
ジーナさんは意を決してユリアと目を合わせると、強い口調でその名を告げた。
「レイの魔力が普通の悪魔族よりも高いことは知ってるかしら?」
「はい…。でも、身体に魔力がついて行かないから、小さな頃はよく暴発させてたって…」
ジーナさんは「レイの生い立ちは何も聞いてないのね?」と呟くと、長くなるけどいいかしら?と、レイの出生について語りだした。
レイの父親であるオスカは悪魔族の中でも純血種と呼ばれる『魔王』だった。
魔力の高さは悪魔族の最上位。希少で誰も見たことの無い。伝説の中にしかいないんじゃないか?と言われる存在だ。
その高い魔力から寿命も長くて老けない。
「私が出会った時…オスカはすでに150歳を超えていたそうよ?」
「え…?150歳って…?」
悪魔族は長命だと言うことは知っていたけれど、まさか100歳を超えて生きるなんて思ってもいなかった。
見た目は20代~30代位に見えるし全然老けない。だから私だけ年を取ってるみたいですごく嫌だ。なんてジーナさんは笑って見せた。
「まぁ…数えるのが面倒になって、100歳を超えた辺りから数えてないらしいから…どこまで本当かは謎だけど」
オスカは魔王の中でも魔力が高く、更に希少だった。その魔力を保つ為に、子孫は残さないという選択をしてずっと1人で生きてきた。
「知ってると思うけれど…悪魔族は子供が出来るとその親が弱体化するからね?」
(知らなかった…)
言い出せる雰囲気ではなくて、青ざめてテルの顔を見た。表情で気付いたのか、テルはため息を吐いた。
「子供に親の魔力の2割~7割が移行して、その分親は弱体化する。移行する魔力はランダムだって…種族学で習ったはずだけど?」
分かっていない私の為に説明を付け足してくれる所が、バカにしているようでお兄ちゃん気質。ありがとうと、小さく頭を下げた。
「そうなの。だからオスカは150年間ずっと1人で生きてきた。自分の存在意義や、いつまで続くのか分からない底知れぬ孤独に彼はずっと悩んでいた。そんな時に私と出会って…まぁ、この話はいいか」
咳払いをして話を元に戻すわね?と、ジーナさんは呟いた。
「私は少し身体が強いだけの普通の人。それが魔王の子供を宿すと、どうなるかなんて分からなかったの…」
子供がどれ程の魔力を持って産まれてくるのか?そして、どんな弊害があるのか。怖くなかったと言ったら嘘になる。
「悪魔族の妊娠期間は通常4ヶ月。…でも、レイは異常だった…。産まれたのは、臨月から更に4ヶ月後だった」
普通の人に近いのかもね?なんて、あの時私たちは気に留めていなかったの。親が異種同士の場合、出産日の予測が難しいって言われているし、大きく外れることも良くあるから。
それより気になったのは…オスカの異様な弱体化だった。弱体化といっても、オスカの魔力が普通より高い事には変わりない。けれど、魔法の威力が落ちていることには、私を含めて全員気付いた。
「オスカ本人はそれ程気にして無かったけどね」
崇められる必要が無くなって清々してる。なんて、オスカらしいことを言って笑ってた。
「そして…レイが産まれたの」
レイは産まれた時から異様に体温が高かった。でも、それ以外は普通の赤ちゃん。特に何の問題も無かった。
その後直ぐにアスカを妊娠したんだけど、アスカは4ヶ月で産まれたから、不思議だった。
「5歳を過ぎた辺りで魔力が安定してきて、魔法を使えるようになる。それからは、身体の成長と共に魔力が高まり、魔法の威力も上がる。それまではレイが異常かどうかは分からない」
悪魔族のことに疎かった私に、オスカはそう教えてくれた。一抹の不安はあったけれど今の時点では大丈夫だろうなんて、安心していた。
「でもね…2歳の頃。初めての魔力の『暴発』が起きたの」
レイとアスカを公園で遊ばせているときだった。何の前触れも無く、レイは自然発火してしまった。炎は近くにいたアスカや、子供達にも燃え移った。それでもその炎は止まらなかった。
レイの周りは一瞬にして炎の海になってしまった。焦っている私をよそにオスカは冷静だった。
オスカはすぐさま魔法で炎を消して、イリヤに連絡をしてくれた。たまたま近くにいた、ミーナが駆けつけてくれたの。
「あの時のことは…よく思い出せない」
私は何も出来なかった。ミーナは火傷を負ってしまった子の治療をすぐに行なってくれた。もちろんアスカも…。
オスカはまるこげになってしまった、レイを抱いてイリヤの元へ運んでくれた。
「オスカは魔王だから飛べるの。レイは一刻を争う状態だったから…」
レイは3日間の昏睡の末、何とか一命を取り留めた。けれど、どうしてこんなことが起きたのか分からなくて。オスカに何でこうなるのか問いただした。
「そしたら、オスカに言われたの。レイは異様に魔力が高いって…。その魔力量に身体が合って」
オスカが言うには、レイの魔力はすでに悪魔族の大人の魔力を超えてしまってる。そう言って困った顔を見せた。
「…魔王の魔力を抑えられる身体じゃない」
そう言ってから「しまった」と、口を覆った。遠回しに『私のせいだ』って、言っているようなものだから。
「でもね。…受け入れるしか無いじゃない?そこを嘆いても仕方がないから」
苦しいのは私じゃなくてレイだから。対処法はあるのか?どうすれば魔力が安定するのか?それだけ2人で考えていこう。そう結論を出した。
「乗り越えられると思ってたの。でも…そんな簡単な問題じゃなかった…。レイは笑わなくなったし、部屋から出なくなってしまったの」
(…子供の頃のレイはきっと孤独だった)
魔力の暴発がいつ起こるかは分からない。命の危険と隣合わせ。それに、暴発で誰かを巻き込んでしまうかも知れない恐怖。
優しいから…。周りの人を巻き込んでしまうのは嫌で…。頭のいいレイだから、両親の苦悩も後悔も全部解っていたから。
だからこそあえて『孤独』でいることを選んだんだと思う。
何も出来なくてもそばにいてあげたかった。私は平気だよ。暴発しても…何が起きても大丈夫。私はそんなに弱くない。そう言って抱きしめてあげたいと思った。
考えても仕方ないことだけれど、涙が溢れて止まらない。そんな私にジーナさんは、微笑みかけて話を続けた。
「レイは私のことも避けるようになっていたの。それなのに…ユリアちゃんだけは受け入れてた。…あなたがレイの支えだったの」
(違う…。きっとレイは子供の時から私を支えてくれてた)
私が初めてアンデットと戦った時もそうだ。セイレーンがいるせいでイーターがこの国を狙ってる。だから目の前で人が死んでしまったと思った。
私のせいだと思うと、血の気が引いて立てなくなったそんな私を「守る」と言って支えてくれたのは、レイだった。
「支えてもらっていたのは…きっと…私です。だってレイは…出会った時から優しかった…」
そう言葉にした途端に泣いてしまった。ジーナさんも泣きながら手を握ってくれた。
「ありがとう。記憶は無いはずなのに…ユリアちゃんは、昔と全く変わらないわね?」
頭を強めに撫でなでると、しばらくしてジーナさんはその手を止めた。
「……レイが今まで生きて来れたのは、間違いなくユリアちゃんのおかげなの。…暴発する魔力とは別にもう一つ…私たちが想像しなかった問題があったの」
ジーナさんの声のトーンが低くなる。空気感が変わった。
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シュウとテルはその問題を知っているようだった。シュウは何も言わずに、青い顔をしているし、テルはあからさまに目を背けている。
不安が押し寄せる。問いかけた声は震えていた。
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