セイレーンのガーディアン

桃華

文字の大きさ
上 下
9 / 235
編入試験

5.再会(ユリア)

しおりを挟む
  ユリアは手を引かれながら、校舎を歩いた。レイが歩き出すとすぐユリアの鞄を持ってくれた。もちろん断ったけれど、半ば強引に奪い取られた。自分の荷物を持たせる、テルとは大違いで優しい。そんな事を考えていると、いきなりレイが立ち止まった。

「緊張してる?」

「えっ!?」

「…顔…強張ってる」

「か…顔!?良かった…手汗がすごいからかと思った」

 繋いだ手のことばかり考えていたから、また余計なことを言ってしまったようだ。
 ハッと気付いた時には、レイが顔を隠しながらも肩を震わせて笑っている。

(…笑ってるの見えてるんだけどな…)

 クールな感じかと思ったけれど、こんな風に笑うんだ。と思いながらその様子を見つめた。レイが「待って?」と言いながらポケットに手を入れて何かを探しだすと、赤面しているユリアに向かってその手を突き出した。

「手、出して。良い物あげるから」

 何をくれるんだろう?なんて思いながら、手を出すと小さなチョコを一つ渡された。苺の味の丸くて小さな、苺の包みに入っているチョコレート。小さな時から大好きで、良く食べてるやつだった。

「!!これ、良いんですか?私の好きなやつ!」

「好きなやつで良かった」

 そう言って、レイが微笑みかけてきた。子供っぽく喜んでしまった事を恥ずかしく思いつつ、何でこんなに優しいんだろ?とか考えながら歩いた。

「着いた。思ったよりも早かったな」

 時計を見ると試験10分前。だけどテルの姿は当然まだ見えない。

(相当怒ってるだろうな…連絡は付かないし…どうしようかな)

「構内放送をかけてみる?」

 悩んでいるユリアに、レイが提案してくれた。そうしてもらおうと思ったけれど、少し離れた所からテルの声が聞こえてきた。女の子の声もするから、多分何処かで捕まえた娘に案内を頼んだんだろう。

「テルの声が聞こえたんで、もうすぐ着くと思います。ありがとうございます」

 そう言うと、レイは驚いた顔をしてユリアを見た。

(しまった…)

 レイの表情で顔が青ざめた。耳がいいから、普通の人には聞こえない音も聞こえてしまう。それがセイレーンの特徴でもあった。私がということは、絶対に隠さないといけない。
 どう言い訳しようか考えていると、レイは優しく微笑んだ。

「耳…良いんだな。俺には聞こえ無かったけど。まぁ、そもそもユリアの兄の声は知らないからな」

 話しを即座に変える為に、鞄をガサガサと漁ってみた。

「そうだね。あ、そうだ!私も何かお礼を…」

 お腹空くかもと思って、お菓子を仕込んできたはず…。片手だと探し辛くて、中々取り出せない。手間取りながらも鞄の底のポーチを開けて、その中の一つを取り出し手渡した。

「ハイ!…お礼です!」

 レイが手渡されたお菓子の包み紙を見て、また笑っている。何でだろう?とレイの手の中を見て、青ざめた。さっきレイがくれた物と全く同じ苺の包みを渡していた。

「!!貰ったやつは、ポケットにあって、これは私が持って来たやつなんです!でも…別のやつと交換しますね!」

「本当に『好きなやつ』なんだな」

 レイが笑いながらチョコをポケットに戻すと、優しく髪を撫でてくれた。何故か、私を見つめる視線は優しくて今度は赤面して俯く。
 
「これでいいよ」

 そう言って更に強く手を握り締められた。心なしかレイの手も熱い気がする。そんなことを考えながら、吸い込まれそうに紅い瞳を見つめ返した。

「何?知り合い?手繋いで楽しそうだな?俺の鞄持ったまま…お前どこいってんの?」

 声に驚いて振り向くと、テルが仁王立ちで立っていた。かなり怒っているのが、その表情だけでわかる。慌てて手を放すと、テルに深々と頭を下げた。

「ご、ゴメンなさい!」

(謝ったけれど、よくよく考えるとテルが私に鞄を持たせるのが悪いじゃん)考え直して顔をあげるとまた驚いた。

 テルの着ていた白いシャツは血まみれになっていたし、背中は切り裂かれたかのように破れてしまっている。

(でも、テルの背中に傷は無い。…てことは?)

 テルは今までの学校では敵なしに強かったし、目立つからケンカをふっかけられることが多かった。まさか試験当日に、こんなことになるとは思っては見なかったけど。

「やめなよ。こんな日にケンカするなんて…」

「何勘違いしてるんだよ。お前こそ、ケンカ売ってるのか?」

「あの…すみません。私を庇って怪我をしてしまったんです」

 テルの後ろから、女の子が申し訳なさそうに顔を出した。可憐という言葉がしっくりくる子で、思わず見惚れてしまった。もしこんな子を庇ってケンカになったなら仕方ない。私でも助ける。

「お前、俺をなんだと思ってるんだよ」

 テルに小突かれてハッとした。女の子はその様子に微笑みながら、ユリアの前へと歩み寄って深く頭を下げた。

「テルさんに怪我を負わせてしまって…すみませんでした」

 慌てて「顔を上げて下さい」と言うと、テルもしゃしゃり出てきた。

「シュウが謝ることは無いよ。当然の事をしただけだし。何より、怪我…治してくれたし」

「私は天使族ですし…それこそ当然のことをしたまでです」

 そう言って身長170近くあるユリアを上目遣いで見上げるシュウに心を射抜かれた。天使族の子は色素が薄くて美しい人が多いけれど、この子はその中でもずば抜けて綺麗だと、ドキドキしながらシュウを見つめてニヤけてしまった。

(可愛すぎる…)

「シュウはいいけど…そちらは?」

「迷子になってたところ、助けてくれたレイさんです…?」

 和やかな雰囲気の流れる3人を横目に、レイは立ち去ろうとしていた。まだありがとうも言っていないのに。
 大きな声でありがとうと叫ぶと、レイは振り返って笑顔で手を振ってくれた。

(手を振り払ったみたいになったから、気分悪かったよね?)

 怒っていた訳じゃ無くてホッとしながら時計を見ると、試験開始の5分前となっていた。

「それじゃあ、私も行きますね。試験頑張って下さい」

 シュウもそう言って頭を下げると、その場を離れた。

「…お互い色々あったけど、試験頑張るか」

 テルの言葉に頷きながら、教室の扉をあけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

処理中です...