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『はいチーズ……ごめんハルカ、写真じゃなくてビデオになってた』
画面の中で二人の女性が笑っている。
『もう、ミキしっかり、キャー』
しかし言葉は途中で悲鳴に変わった。ビデオボタンが押されたままの画面が真っ白な光と映し出す。
『なに!?』
怯えたような声と共に、唸るような地響きとけたたましい動物たちの鳴き声が聞こえた。
放りだされたのだろうか画面が大きく揺れ次に映し出されたのはしっかりとお互いを抱きしめあったまま地面にしゃがみ込んでいる二人の姿だった。
『今の揺れ震度6はあったんじゃない!』
画面の中で、ハルカと呼ばれていた女性がカバンから取り出した四角い何かを食い入るように見つめて声をあげる。
『だめだ、電波届いてない、ミキのは?』
『そういえば、私のスマホ──』
キョロキョロとミキと呼ばれた女性が何かを探すようにあたりを見渡している、そしてスマホというものを見つけたのだろう、すっと画面に向かって手が伸びてきた。そこで映像はぶつりと途切れた。
次に映し出されたのは、先ほどのような動く映像ではなかった。音声もなにもない静止画。たぶんこれが写真と呼ばれるものなのだろう。そこに映し出されたものは今までのものとは違いけっして見ていて楽しい気分になるようなものではなかった。
崩れた建物。燃える木々。
何を思ってこれを撮ったのか。それを確かめることはできない。
そんな写真が何枚か続いたあと、再び映像が流れる。
『お母さん、お父さん大丈夫ですか?』
画面いっぱいに映し出されたのはミキだった。彼女は淡々とした口調でまるで誰かに話しかけるように言葉を続けた。
『どうやら私たちはこの温泉街の山に閉じ込められてしまったようです。幸いなことに、ここにはあの地震で壊れず雨風をしのげる建物と食料の備蓄がありました。ソーラーパネルを使った蓄電器や湧き水もでてるので私とハルカは大丈夫です。宿の人や近くの村の人たちも一緒です。外と連絡が通じ出ないのが不安ですが。心配しないでください』
映像はまたそこで一度切れる。
建物の中で身を寄せ合う人々。
食べ物を配る人々。
不安な大人たちの顔とは対照にふざけあっているのか笑顔の子供たち。
温泉につかる動物たち。
【SOS】と書かれた紙と地図と住所らしきものを書いた紙を持って笑顔で映る、ミキとハルカ写真。
次に映像が映し出されたのはそれからいったい何日過ぎたものなのだろうか、ふっくらとしていた頬は、あきらかにこけ艶もなくうっすら汚れていた、その瞳も最初のころと違いどこか暗い影を落としている。
『お母さん、お父さん、生きているよね?』
一瞬グッと何かを飲み込むようにうつむくと、再び淡々を語り出した。
『一週間以上たちましたが救助どころか、ヘリコプター1台見ていません。先に数人で山を下りた男の人たちも帰って来ません。日本は今どうなっちゃたの? ラジオも無線も何も通じません。不安です』
それからまた次の映像に切り替わる。
『さっきここにいる人たちと激しい光と爆音を聞きました。それから山の上から遠くの方にいくつものキノコ雲がたちのぼるのが見えました』
画面の中のミキの唇がプルプルと震えている。
『まさか戦争? ……ママ、パパ会いたいよ』
絞り出すような苦し気な表情でミキは誰に問いかけるでもなくそう言い残し映像は切れた。
季節が変わったのだろうか、マメに残された写真の、緑の草木がまぶしかった背景が、白い綿に覆われたようなものに変わっていく。
『救助を呼びに行った男の人達が帰って来ました……』
そこで画面が切り替わる。たぶん別の人がとった写真なのだろう。
初めにミキがとった崩れた建物の比でない惨状がそこには映し出されていた。
どんよりとした空に届くばかりの高い鉄の塊は途中で手を伸ばすのをあきらめたかのように、ぐにゃりと途中から下に向かって曲がり。周りの建物も、ひびが入っていたり崩れていたりと、ほとんど原型をとどめていないものばかりだった。
次に映し出されたのももとは綺麗な住宅街だったのかもしれない。崩れた人工物に藻のようなものがまとわりついた家、こんもりと土の山のように盛り上がっている場所には沢山の小さな虫が飛んでいるのがわかった。
見ているだけで背中がひんやりとしてくるような写真が何枚も何千枚も続いた。
青い空の写真もある。カラフルな屋根も映っている。なのに全てが灰色の見える世界がそこにはあった。
このままずっとそんな写真ばかりが続くかに思われた時、急に一枚の写真が目に止まった。
それは赤ん坊の写真だった。
いままで灰色だったものに突然色が付いたそんな写真だった。
うっすらと赤みのある肌。ほとんど目をつぶっている、たまに違うものはあくびをしていたり、泣いていたり、乳を飲んでいる写真だった。
それから久しぶりにミキの音声が入った映像が映った。
『ハルカが赤ちゃんを産みました。名前はミライ。みんなで付けました。あれから飛行機やヘリコプターはやはり一度も飛んでいるのを見ていません。もしかして日本だけでなく、世界中こんなふうになってしまっているのかもしれないと考えるととても怖いです。でも私たちは生きています。今世界がどうなっているかわかりません。でもきっと同じようにどこかで人々は生きてると信じています。だからできる限り私は記録を残していきたいと思います。いつか誰かが見つけてくれた時のために。私たちがここで精一杯生きた証をメッセージをここに残していきたいと思います』
それからは皆で畑を耕す姿や。そこで取れたものを笑いながら食べる人々の姿。
ハイハイからつかまり立ちをするミライの姿や。真っ黒になって何か鉄の塊を繋げている人たちの姿が映し出された。
崩れかけた建物に草のツタが絡まる風景など、どこか寂し写真がなくなったわけではない、でもミライの周りの人たちはどんよりとしたあの日の空のような目はもうしていなかった。
なにかまぶしいものを見るように、ミライを見詰めてほほ笑んでいる。
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
「以上が、このスマホと呼ばれていたものに込められていた念波です」
宇宙の彼方。念波とたどり地球にたどり着いた異星人は、そこで真っ黒な石の塊のようになったそれを見つけた。そして科学力とテレパシーの融合によって、そこに残っていた想いというデータを映像として再現することに成功したのだ。
「他にも、沢山のこのような念波を発する物質が見つかっています」
科学者らしき異星人がそういって、念波の主ミキがスマホと呼んでいた黒い塊を掲げる。
「で、結局この星の生き物たちはどうなったんだね」
「今、色々な念波を解析してますが、どうやらゆるやかに滅んでいったようです」
「戦争? って言われていたもののせいか?」
「いや、正確には違います」
科学者が言った。
「まず初めに見た光」
ミキが間違えて録画ボタンを押してしまった時に映ったものだ。
「あれは隕石の光です。しかし隕石自体はそんな大きなものではありませんでした。この星の一部を海に沈めるぐらいの大津波を起こす程度の大きさしかありませんでした」
「ならなぜ?」
「こちらを見てください」
そういって科学者が別の映像をつける。
『えー日本のみなさん。こんにちは』
血の気は失せ、ただ淡々と原稿を読み上げるだけの人形のような男が映る。
『先日落ちた隕石による津波の影響で、水位の低い土地はほとんど水没してしまいました。そして、さらに悪いお知らせです。大国の核ミサイルがなんらかの誤作動を起こし世界中に向けて発射されました。それにともない、迎撃機能、報復機能をもった他の国の核とミサイルも打ちあがりました。今から30分後世界は滅びるでしょう。どうか、最後の30分を大切な人と過ごしてください』
そこで映像が切れる。
「戦争ではなく、誤作動のようです。でもそのミサイル発射後もミキたちは生きていてハルカはミライという赤ん坊を生んでいます」
科学者が言葉を切る。
「ただ、推測ですが、この核ミサイルというものは、爆撃に巻き込まれなくてもこの星の生き物たちに大きな影響を及ぼしたようです。その後人類の寿命は半分以下になり、子供も生まれにくくなっていきます。他の生き物たちも変異を繰り返しています。その結果静かにこの星の生き物たちは滅びていったものと思われます」
「ここまで発展した人類はなぜそんな危険なものを作ったのかね」
「さぁ、そこまではわかりません」
科学者は首を振ると、静かに研究ノートを閉じた。
画面の中で二人の女性が笑っている。
『もう、ミキしっかり、キャー』
しかし言葉は途中で悲鳴に変わった。ビデオボタンが押されたままの画面が真っ白な光と映し出す。
『なに!?』
怯えたような声と共に、唸るような地響きとけたたましい動物たちの鳴き声が聞こえた。
放りだされたのだろうか画面が大きく揺れ次に映し出されたのはしっかりとお互いを抱きしめあったまま地面にしゃがみ込んでいる二人の姿だった。
『今の揺れ震度6はあったんじゃない!』
画面の中で、ハルカと呼ばれていた女性がカバンから取り出した四角い何かを食い入るように見つめて声をあげる。
『だめだ、電波届いてない、ミキのは?』
『そういえば、私のスマホ──』
キョロキョロとミキと呼ばれた女性が何かを探すようにあたりを見渡している、そしてスマホというものを見つけたのだろう、すっと画面に向かって手が伸びてきた。そこで映像はぶつりと途切れた。
次に映し出されたのは、先ほどのような動く映像ではなかった。音声もなにもない静止画。たぶんこれが写真と呼ばれるものなのだろう。そこに映し出されたものは今までのものとは違いけっして見ていて楽しい気分になるようなものではなかった。
崩れた建物。燃える木々。
何を思ってこれを撮ったのか。それを確かめることはできない。
そんな写真が何枚か続いたあと、再び映像が流れる。
『お母さん、お父さん大丈夫ですか?』
画面いっぱいに映し出されたのはミキだった。彼女は淡々とした口調でまるで誰かに話しかけるように言葉を続けた。
『どうやら私たちはこの温泉街の山に閉じ込められてしまったようです。幸いなことに、ここにはあの地震で壊れず雨風をしのげる建物と食料の備蓄がありました。ソーラーパネルを使った蓄電器や湧き水もでてるので私とハルカは大丈夫です。宿の人や近くの村の人たちも一緒です。外と連絡が通じ出ないのが不安ですが。心配しないでください』
映像はまたそこで一度切れる。
建物の中で身を寄せ合う人々。
食べ物を配る人々。
不安な大人たちの顔とは対照にふざけあっているのか笑顔の子供たち。
温泉につかる動物たち。
【SOS】と書かれた紙と地図と住所らしきものを書いた紙を持って笑顔で映る、ミキとハルカ写真。
次に映像が映し出されたのはそれからいったい何日過ぎたものなのだろうか、ふっくらとしていた頬は、あきらかにこけ艶もなくうっすら汚れていた、その瞳も最初のころと違いどこか暗い影を落としている。
『お母さん、お父さん、生きているよね?』
一瞬グッと何かを飲み込むようにうつむくと、再び淡々を語り出した。
『一週間以上たちましたが救助どころか、ヘリコプター1台見ていません。先に数人で山を下りた男の人たちも帰って来ません。日本は今どうなっちゃたの? ラジオも無線も何も通じません。不安です』
それからまた次の映像に切り替わる。
『さっきここにいる人たちと激しい光と爆音を聞きました。それから山の上から遠くの方にいくつものキノコ雲がたちのぼるのが見えました』
画面の中のミキの唇がプルプルと震えている。
『まさか戦争? ……ママ、パパ会いたいよ』
絞り出すような苦し気な表情でミキは誰に問いかけるでもなくそう言い残し映像は切れた。
季節が変わったのだろうか、マメに残された写真の、緑の草木がまぶしかった背景が、白い綿に覆われたようなものに変わっていく。
『救助を呼びに行った男の人達が帰って来ました……』
そこで画面が切り替わる。たぶん別の人がとった写真なのだろう。
初めにミキがとった崩れた建物の比でない惨状がそこには映し出されていた。
どんよりとした空に届くばかりの高い鉄の塊は途中で手を伸ばすのをあきらめたかのように、ぐにゃりと途中から下に向かって曲がり。周りの建物も、ひびが入っていたり崩れていたりと、ほとんど原型をとどめていないものばかりだった。
次に映し出されたのももとは綺麗な住宅街だったのかもしれない。崩れた人工物に藻のようなものがまとわりついた家、こんもりと土の山のように盛り上がっている場所には沢山の小さな虫が飛んでいるのがわかった。
見ているだけで背中がひんやりとしてくるような写真が何枚も何千枚も続いた。
青い空の写真もある。カラフルな屋根も映っている。なのに全てが灰色の見える世界がそこにはあった。
このままずっとそんな写真ばかりが続くかに思われた時、急に一枚の写真が目に止まった。
それは赤ん坊の写真だった。
いままで灰色だったものに突然色が付いたそんな写真だった。
うっすらと赤みのある肌。ほとんど目をつぶっている、たまに違うものはあくびをしていたり、泣いていたり、乳を飲んでいる写真だった。
それから久しぶりにミキの音声が入った映像が映った。
『ハルカが赤ちゃんを産みました。名前はミライ。みんなで付けました。あれから飛行機やヘリコプターはやはり一度も飛んでいるのを見ていません。もしかして日本だけでなく、世界中こんなふうになってしまっているのかもしれないと考えるととても怖いです。でも私たちは生きています。今世界がどうなっているかわかりません。でもきっと同じようにどこかで人々は生きてると信じています。だからできる限り私は記録を残していきたいと思います。いつか誰かが見つけてくれた時のために。私たちがここで精一杯生きた証をメッセージをここに残していきたいと思います』
それからは皆で畑を耕す姿や。そこで取れたものを笑いながら食べる人々の姿。
ハイハイからつかまり立ちをするミライの姿や。真っ黒になって何か鉄の塊を繋げている人たちの姿が映し出された。
崩れかけた建物に草のツタが絡まる風景など、どこか寂し写真がなくなったわけではない、でもミライの周りの人たちはどんよりとしたあの日の空のような目はもうしていなかった。
なにかまぶしいものを見るように、ミライを見詰めてほほ笑んでいる。
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
「以上が、このスマホと呼ばれていたものに込められていた念波です」
宇宙の彼方。念波とたどり地球にたどり着いた異星人は、そこで真っ黒な石の塊のようになったそれを見つけた。そして科学力とテレパシーの融合によって、そこに残っていた想いというデータを映像として再現することに成功したのだ。
「他にも、沢山のこのような念波を発する物質が見つかっています」
科学者らしき異星人がそういって、念波の主ミキがスマホと呼んでいた黒い塊を掲げる。
「で、結局この星の生き物たちはどうなったんだね」
「今、色々な念波を解析してますが、どうやらゆるやかに滅んでいったようです」
「戦争? って言われていたもののせいか?」
「いや、正確には違います」
科学者が言った。
「まず初めに見た光」
ミキが間違えて録画ボタンを押してしまった時に映ったものだ。
「あれは隕石の光です。しかし隕石自体はそんな大きなものではありませんでした。この星の一部を海に沈めるぐらいの大津波を起こす程度の大きさしかありませんでした」
「ならなぜ?」
「こちらを見てください」
そういって科学者が別の映像をつける。
『えー日本のみなさん。こんにちは』
血の気は失せ、ただ淡々と原稿を読み上げるだけの人形のような男が映る。
『先日落ちた隕石による津波の影響で、水位の低い土地はほとんど水没してしまいました。そして、さらに悪いお知らせです。大国の核ミサイルがなんらかの誤作動を起こし世界中に向けて発射されました。それにともない、迎撃機能、報復機能をもった他の国の核とミサイルも打ちあがりました。今から30分後世界は滅びるでしょう。どうか、最後の30分を大切な人と過ごしてください』
そこで映像が切れる。
「戦争ではなく、誤作動のようです。でもそのミサイル発射後もミキたちは生きていてハルカはミライという赤ん坊を生んでいます」
科学者が言葉を切る。
「ただ、推測ですが、この核ミサイルというものは、爆撃に巻き込まれなくてもこの星の生き物たちに大きな影響を及ぼしたようです。その後人類の寿命は半分以下になり、子供も生まれにくくなっていきます。他の生き物たちも変異を繰り返しています。その結果静かにこの星の生き物たちは滅びていったものと思われます」
「ここまで発展した人類はなぜそんな危険なものを作ったのかね」
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