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魔王様はまだ起きない
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「起きてください魔王様」
長身の魔族の男がベッドに横たわる魔王と呼ばれる人物を揺り起こしている。
「もうすぐ1000年になりますよ」
「むにゅ、むにゅ、後、100年……ズー──」
そう言い残し魔王は毛布を頭まで被るとそのままスーと寝息を立てる。
「────」
「あれ、宰相様また魔王様起こしているのですか?」
宰相と呼ばれて、長身の魔族が振り返る。
「約束の1000年まで、あと500年は残ってますぜ」
大きな牛のような見た目で二本足で立つ魔物がお盆を両手に携えて扉の前に立っていた。
「わかってる。だがもう起こしておかなくては」
宰相はそういうと、ベッドの脇から離れて牛の魔物の方に歩いてくる。そして牛の魔物が手に持っているお盆を差し出せとばかりに手を伸ばす。
「いや、これはあっしの仕事ですので」
「牛男」
牛の魔物が『牛男』とはあっしのことですか? とばかりに周りを見渡してから宰相を見る。
「そうだ、お前のことだ牛男、それを渡せ」
牛男と呼ばれた魔物が宰相にお盆を渡していいものかどうか躊躇う。
「今日からは、私がやる」
「えっ、でも……」
お盆の上には湯を張った桶と真新しいタオルが数枚乗っている。
この500年食事もとらずずっと眠り続けている魔王様の体を拭くためのものだ。
「さっき、魔王様が初めて一瞬だが意識を取り戻された」
それは宰相様が魔王様を起こしたからでは。そう言いたげな目を無視して続ける。
「お前はまだ生まれていなかったから知らないだろうが、魔王様の寝起きはすーーーーっごく悪い」
「へぇ」
何を言わんとしているか牛男が小首をかしげる。
「ここ100年毎日魔王様を起こそうと声をかけてきたが、魔王様が反応したのは今日が初めてだ、きっと意識がお戻りになる前兆だ」
「へぇ」
牛男は間抜けな返事を繰り返す。宰相がイラっとした表情を一瞬だけ見せた。
「意識が一瞬でも戻ったということは、いつ寝ぼけられるかわからないということだ」
「寝ぼける……」
「あぁ、そうだ、魔王様は寝ぼけて国をつぶすこともある」
その言葉を繰り返すようにつぶやいて、ようやく意味を理解したのか牛男の顔がサッと青ざめる。
「わかったようだな。魔王様は覚醒時は、その頭脳も判断力も懐の大きさもすべてにおいてパーフェクトなお方だ。しかし寝ぼけている魔王様はただの子供、少しでも気に障ることがあれば即座に消される。それに夢見が浅いと眠ったまま暴れることもある」
そういえば、昔牛男がまだ幼い時、祖父から山一つが突然消滅した話を聞いたことを思い出した。原因は魔王様が耳元で飛ぶ虫を追い払おうと魔力を放ったせいだと聞いた。
「……」
ならなぜ宰相様はわざわざ魔王様を無理に起こそうとなさったのだ。1000年間しっかり寝かせてあげれば、寝ぼけることなく起きるのでは。
そんな言葉が顔にでていたのだろう。
「私だって、1000年しっかり休んでもらいたい。しかし前の時も500年経ったら起こせと言われてきっかり500年後に起こしにいったら、あと100年、また100年と二度寝を繰り返し結局800年も寝てしまったうえ、予定より寝すぎたせいで、ずいぶん若くなってしまわれた、起きた後もしばらく覚醒できずボーとしている間に、勇者に攻め込まれて、深い傷を受け再び眠りにつくことになってしまったのだ」
宰相が悔しそうにこぶしを握る。
「へぇ」
牛男は頷きながらも、心の中で再び首を傾げる。
「今お前、魔王様をバカにしただろう」
「いや、そんな、めっそうもねぇ」
牛男が慌てて首を振る。宰相の冷たい眼差しで足が硬直したように動かない。カタカタとお盆が音をたてお湯が今にもこぼれそうだ。
「魔王様は特殊な一族で、眠った分だけ若返るのだ」
長身の魔族の男がベッドに横たわる魔王と呼ばれる人物を揺り起こしている。
「もうすぐ1000年になりますよ」
「むにゅ、むにゅ、後、100年……ズー──」
そう言い残し魔王は毛布を頭まで被るとそのままスーと寝息を立てる。
「────」
「あれ、宰相様また魔王様起こしているのですか?」
宰相と呼ばれて、長身の魔族が振り返る。
「約束の1000年まで、あと500年は残ってますぜ」
大きな牛のような見た目で二本足で立つ魔物がお盆を両手に携えて扉の前に立っていた。
「わかってる。だがもう起こしておかなくては」
宰相はそういうと、ベッドの脇から離れて牛の魔物の方に歩いてくる。そして牛の魔物が手に持っているお盆を差し出せとばかりに手を伸ばす。
「いや、これはあっしの仕事ですので」
「牛男」
牛の魔物が『牛男』とはあっしのことですか? とばかりに周りを見渡してから宰相を見る。
「そうだ、お前のことだ牛男、それを渡せ」
牛男と呼ばれた魔物が宰相にお盆を渡していいものかどうか躊躇う。
「今日からは、私がやる」
「えっ、でも……」
お盆の上には湯を張った桶と真新しいタオルが数枚乗っている。
この500年食事もとらずずっと眠り続けている魔王様の体を拭くためのものだ。
「さっき、魔王様が初めて一瞬だが意識を取り戻された」
それは宰相様が魔王様を起こしたからでは。そう言いたげな目を無視して続ける。
「お前はまだ生まれていなかったから知らないだろうが、魔王様の寝起きはすーーーーっごく悪い」
「へぇ」
何を言わんとしているか牛男が小首をかしげる。
「ここ100年毎日魔王様を起こそうと声をかけてきたが、魔王様が反応したのは今日が初めてだ、きっと意識がお戻りになる前兆だ」
「へぇ」
牛男は間抜けな返事を繰り返す。宰相がイラっとした表情を一瞬だけ見せた。
「意識が一瞬でも戻ったということは、いつ寝ぼけられるかわからないということだ」
「寝ぼける……」
「あぁ、そうだ、魔王様は寝ぼけて国をつぶすこともある」
その言葉を繰り返すようにつぶやいて、ようやく意味を理解したのか牛男の顔がサッと青ざめる。
「わかったようだな。魔王様は覚醒時は、その頭脳も判断力も懐の大きさもすべてにおいてパーフェクトなお方だ。しかし寝ぼけている魔王様はただの子供、少しでも気に障ることがあれば即座に消される。それに夢見が浅いと眠ったまま暴れることもある」
そういえば、昔牛男がまだ幼い時、祖父から山一つが突然消滅した話を聞いたことを思い出した。原因は魔王様が耳元で飛ぶ虫を追い払おうと魔力を放ったせいだと聞いた。
「……」
ならなぜ宰相様はわざわざ魔王様を無理に起こそうとなさったのだ。1000年間しっかり寝かせてあげれば、寝ぼけることなく起きるのでは。
そんな言葉が顔にでていたのだろう。
「私だって、1000年しっかり休んでもらいたい。しかし前の時も500年経ったら起こせと言われてきっかり500年後に起こしにいったら、あと100年、また100年と二度寝を繰り返し結局800年も寝てしまったうえ、予定より寝すぎたせいで、ずいぶん若くなってしまわれた、起きた後もしばらく覚醒できずボーとしている間に、勇者に攻め込まれて、深い傷を受け再び眠りにつくことになってしまったのだ」
宰相が悔しそうにこぶしを握る。
「へぇ」
牛男は頷きながらも、心の中で再び首を傾げる。
「今お前、魔王様をバカにしただろう」
「いや、そんな、めっそうもねぇ」
牛男が慌てて首を振る。宰相の冷たい眼差しで足が硬直したように動かない。カタカタとお盆が音をたてお湯が今にもこぼれそうだ。
「魔王様は特殊な一族で、眠った分だけ若返るのだ」
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