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サディスト

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「さて、娘たちの様子は」

 地下に掘られた秘密の通路で男はふと足をとめた。そしてあたりを警戒するようにキョロキョロと見渡す。

「おかしい、今朝様子を見に来た時と何かが違う」

 野生の勘に近い何かを感じながら、それでも奥へと足早に進む。

「なに!」

 そしてもぬけの殻になっている牢獄を見て男は今度こそ本当に驚きの声をあげた。

「ネズミ小僧の奴は、金だけ盗むんじゃなかったのか」

 聞いてないと言わんがりにグッとこぶしを握り締めながら文句を吐く。その時男は背後に気配を感じハッと腰の刀を抜きながら反対側に飛びのいた。

「本当はここには用事はなかったんだけど、今回は可愛い子猫の頼みでね」

 いつからそこにいたのか、ここまで一方通行のはずの出口側に、目元だけ面で隠している男が立っていた。

「お前がネズミ小僧か!?」

 男の問いに、冷笑で答える。
 ギリリと殺気を放つ男を前に、すました様子でネズミ小僧が話を続ける。

「娘たちと子供たちはかえしてもらうよ。それと、この帳簿。これは偽物だね。本物と女たちの借用書はどこだい」
「いうわけないだろ」

 不敵に笑う。先ほど屋敷でやられていた部下たちは、みな麻酔のようなもので眠らされているだけのようだった。
 彼らが目を覚ましここに来るまで時間を稼ぐか、または、ジリジリと少しづつ男は壁際に下がる。

 ネズミ小僧は出口を塞いでいるつもりだろうが、こんなこともあろうかと、実は外に出れる隠し通路がもう一か所あるのだ、もし飛び掛かってきたら、罠を発動してその間に自分はそこから逃げ出せば済むことだ、そして二か所の出入り口をふさいでしまえばネズミ小僧はまさに袋のネズミ。

「それは困った」

 お手上げというように、ネズミ小僧が肩をすくめる。

 刹那。ドクンと男の心臓が突然悲鳴を上げた。

「貴様何をした」

 胸を押さえながら男が怒鳴った。

「ちょっと毒を入れただけさ」
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