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第四章 誓いをもう一度
卒業前は告白ラッシュ2
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どうやらメアリーは学園内にある礼拝堂に向かっているようだった。
「──っ」
「あれは」
礼拝堂には魔法部の制服を着た男子生徒が立っていた。
おもわずキールが剣の柄に手をかけるのを、ユアンが慌てて止める。まだあの生徒がメアリーと関係してるとは限らない。しかし
メアリーの姿を見た生徒が明らかにソワソワしだす。そしてメアリーも彼の前で歩みを止めた。
もう少し近づきたいが身を隠す場所がない。
「おい、ユアン、やっぱりあいつがメアリーを呼びつけたっぽいぞ」
「とりあえず、もう少し近くで様子を見たい」
今にも飛び出しそうなキールをなだめつつ、前にメアリーを助ける時にもらった認識阻害魔法の込められてあ魔法石を握りしめる。
あれから第二王子派も静かになっているが、念のためにといつもいくつかの魔法石を持ち歩いているのだ。
「ユアン、俺も」
少し迷ったが、キールと手を繋ぐ。手を繋いでいる間は、キールにもこの魔法の恩恵がある。
「勝手に手を放すなよ」
そうしてメアリーたちの声が届くところまで二人で近づく。
☆──☆
「僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」
男がそうメアリーに言うのが聞こえた。
思わずキールの手を強く握りしめるユアン。
「ごめんなさい。いまお付き合いしている人がいるの」
「でも、婚約はしてませんよね」
「…………」
その一言でメアリーが俯く。何か言いたげな顔のキールを無視してユアンも視線を伏せる。
「学園に残るならまだしもメアリーさんは卒業すると聞きました。それなのに婚約の約束もまだなんて、僕には相手の方が本当にあなたのことを思っているとは到底おもえません」
確かに男性は高等学園卒業後、だいたい二年間、学園に残り学問を学ぶなりどこかの見習い弟子になったり奉公や修業をおえようやく一人前と認められ結婚をする。
そして女性は、同じように学園に残り学業を学ぶ者もいるが、だいたいが学園で婚約者を見つけ、男性が一人前になるまでの二年間を、その婚約者の家やどこかの貴族に侍女として花嫁修業や奉公に出るのが普通だった。
メアリーの場合魔力があるので学園に残るのならまだ慌てて婚約をする必要はないが、そうではなく平民たちのように街で働くというのだ。それでも結婚が決まっているならまだ結婚前の最後の貴族令嬢の我儘で済むが、婚約もせず、もし別れることになったら、メアリーは平民と同じように街で働いている下級貴族の娘という最終履歴だけが残るのだ。
「今なら、あなたはまだこの学園の聖女様です。両親にも地方の下級貴族だからと馬鹿にされることなく胸を張って紹介できます」
そうなのだ今なら魔力を持った娘。学園で聖女とまで呼ばれる娘。そういう肩書がついているのだ。婚約して学園を卒業して花嫁修業をするというのなら、ある程度の貴族の家でも喜んで迎えてもらえるだろう。
「そうですね」
メアリーは小さく微笑んだ。
「なら──」
「それでも、私は彼を信じています」
男子生徒の言葉を遮ってメアリー言った。
「どうして、この先捨てられるかもしれないんですよ。言っては何ですが、あなたと彼とは身分に違いがありすぎます。学園にいる間はあなたの価値は高いですが、卒業後あなたには地方貴族の娘としての価値しかなくなるんですよ、それも街で平民と一緒に働くなんて馬鹿なことを言っている変わった娘というレッテルまで──」
「そうです。私は少し変わった貴族らしくない貴族なんです。あなたの言うように、家でただニコニコして、社交界に顔を出して愛想を振りまいているような良い夫人にはなれません」
メアリーは続けた。
「聖女だなんだと皆さんは私を、ただ優しく微笑んでいるだけの人形のような娘だと思っていらしゃるようですが。私結構我儘で、自分勝手なんです」
「えっ」
物腰は柔らかいが、その瞳はこの太陽の下でもどこか深く暗い光を放っているように見えた。
「皆さん口では身分は関係ないというけれど、いざ料理が趣味だと話すと、そんな平民がやることをと陰で笑ったりしますよね、あなたも今、平民と一緒に働くなんて馬鹿で変わっているといいましたよね」
男子生徒が顔をそらす。
「でも彼は私のこの夢を素敵だといってくれます。私の料理をおいしそうに食べてくれます。料理のことに没頭しすぎて周りが見えない私を可愛いと微笑んでくれるんです」
「でも婚約をしようとしないじゃないですか、そういってご機嫌だけ取るのは責任を持つつもりがないからかもしれないじゃないですか」
「それでも」
メアリーがふわりと笑った。
「私は彼が好きなんです」
そう言い切ると。メアリーはペコリと頭を下げてその場を後にした。
『ユアン』
メアリーと男が去ってからキールが小声で話しかけてくる。
『キールごめん。僕いかなくちゃ』
『あぁ、がんばれよ』
そう言ってキールはポンとユアンの背中を押した。
「──っ」
「あれは」
礼拝堂には魔法部の制服を着た男子生徒が立っていた。
おもわずキールが剣の柄に手をかけるのを、ユアンが慌てて止める。まだあの生徒がメアリーと関係してるとは限らない。しかし
メアリーの姿を見た生徒が明らかにソワソワしだす。そしてメアリーも彼の前で歩みを止めた。
もう少し近づきたいが身を隠す場所がない。
「おい、ユアン、やっぱりあいつがメアリーを呼びつけたっぽいぞ」
「とりあえず、もう少し近くで様子を見たい」
今にも飛び出しそうなキールをなだめつつ、前にメアリーを助ける時にもらった認識阻害魔法の込められてあ魔法石を握りしめる。
あれから第二王子派も静かになっているが、念のためにといつもいくつかの魔法石を持ち歩いているのだ。
「ユアン、俺も」
少し迷ったが、キールと手を繋ぐ。手を繋いでいる間は、キールにもこの魔法の恩恵がある。
「勝手に手を放すなよ」
そうしてメアリーたちの声が届くところまで二人で近づく。
☆──☆
「僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」
男がそうメアリーに言うのが聞こえた。
思わずキールの手を強く握りしめるユアン。
「ごめんなさい。いまお付き合いしている人がいるの」
「でも、婚約はしてませんよね」
「…………」
その一言でメアリーが俯く。何か言いたげな顔のキールを無視してユアンも視線を伏せる。
「学園に残るならまだしもメアリーさんは卒業すると聞きました。それなのに婚約の約束もまだなんて、僕には相手の方が本当にあなたのことを思っているとは到底おもえません」
確かに男性は高等学園卒業後、だいたい二年間、学園に残り学問を学ぶなりどこかの見習い弟子になったり奉公や修業をおえようやく一人前と認められ結婚をする。
そして女性は、同じように学園に残り学業を学ぶ者もいるが、だいたいが学園で婚約者を見つけ、男性が一人前になるまでの二年間を、その婚約者の家やどこかの貴族に侍女として花嫁修業や奉公に出るのが普通だった。
メアリーの場合魔力があるので学園に残るのならまだ慌てて婚約をする必要はないが、そうではなく平民たちのように街で働くというのだ。それでも結婚が決まっているならまだ結婚前の最後の貴族令嬢の我儘で済むが、婚約もせず、もし別れることになったら、メアリーは平民と同じように街で働いている下級貴族の娘という最終履歴だけが残るのだ。
「今なら、あなたはまだこの学園の聖女様です。両親にも地方の下級貴族だからと馬鹿にされることなく胸を張って紹介できます」
そうなのだ今なら魔力を持った娘。学園で聖女とまで呼ばれる娘。そういう肩書がついているのだ。婚約して学園を卒業して花嫁修業をするというのなら、ある程度の貴族の家でも喜んで迎えてもらえるだろう。
「そうですね」
メアリーは小さく微笑んだ。
「なら──」
「それでも、私は彼を信じています」
男子生徒の言葉を遮ってメアリー言った。
「どうして、この先捨てられるかもしれないんですよ。言っては何ですが、あなたと彼とは身分に違いがありすぎます。学園にいる間はあなたの価値は高いですが、卒業後あなたには地方貴族の娘としての価値しかなくなるんですよ、それも街で平民と一緒に働くなんて馬鹿なことを言っている変わった娘というレッテルまで──」
「そうです。私は少し変わった貴族らしくない貴族なんです。あなたの言うように、家でただニコニコして、社交界に顔を出して愛想を振りまいているような良い夫人にはなれません」
メアリーは続けた。
「聖女だなんだと皆さんは私を、ただ優しく微笑んでいるだけの人形のような娘だと思っていらしゃるようですが。私結構我儘で、自分勝手なんです」
「えっ」
物腰は柔らかいが、その瞳はこの太陽の下でもどこか深く暗い光を放っているように見えた。
「皆さん口では身分は関係ないというけれど、いざ料理が趣味だと話すと、そんな平民がやることをと陰で笑ったりしますよね、あなたも今、平民と一緒に働くなんて馬鹿で変わっているといいましたよね」
男子生徒が顔をそらす。
「でも彼は私のこの夢を素敵だといってくれます。私の料理をおいしそうに食べてくれます。料理のことに没頭しすぎて周りが見えない私を可愛いと微笑んでくれるんです」
「でも婚約をしようとしないじゃないですか、そういってご機嫌だけ取るのは責任を持つつもりがないからかもしれないじゃないですか」
「それでも」
メアリーがふわりと笑った。
「私は彼が好きなんです」
そう言い切ると。メアリーはペコリと頭を下げてその場を後にした。
『ユアン』
メアリーと男が去ってからキールが小声で話しかけてくる。
『キールごめん。僕いかなくちゃ』
『あぁ、がんばれよ』
そう言ってキールはポンとユアンの背中を押した。
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