上 下
122 / 147
第四章 誓いをもう一度

卒業前は告白ラッシュ2

しおりを挟む
 どうやらメアリーは学園内にある礼拝堂に向かっているようだった。

「──っ」
「あれは」

 礼拝堂には魔法部の制服を着た男子生徒が立っていた。
 おもわずキールが剣の柄に手をかけるのを、ユアンが慌てて止める。まだあの生徒がメアリーと関係してるとは限らない。しかし

 メアリーの姿を見た生徒が明らかにソワソワしだす。そしてメアリーも彼の前で歩みを止めた。
 もう少し近づきたいが身を隠す場所がない。

「おい、ユアン、やっぱりあいつがメアリーを呼びつけたっぽいぞ」
「とりあえず、もう少し近くで様子を見たい」

 今にも飛び出しそうなキールをなだめつつ、前にメアリーを助ける時にもらった認識阻害魔法の込められてあ魔法石を握りしめる。
 あれから第二王子派も静かになっているが、念のためにといつもいくつかの魔法石を持ち歩いているのだ。

「ユアン、俺も」

 少し迷ったが、キールと手を繋ぐ。手を繋いでいる間は、キールにもこの魔法の恩恵がある。

「勝手に手を放すなよ」

 そうしてメアリーたちの声が届くところまで二人で近づく。

☆──☆

「僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」

 男がそうメアリーに言うのが聞こえた。
 思わずキールの手を強く握りしめるユアン。

「ごめんなさい。いまお付き合いしている人がいるの」
「でも、婚約はしてませんよね」
「…………」

 その一言でメアリーが俯く。何か言いたげな顔のキールを無視してユアンも視線を伏せる。

「学園に残るならまだしもメアリーさんは卒業すると聞きました。それなのに婚約の約束もまだなんて、僕には相手の方が本当にあなたのことを思っているとは到底おもえません」

 確かに男性は高等学園卒業後、だいたい二年間、学園に残り学問を学ぶなりどこかの見習い弟子になったり奉公や修業をおえようやく一人前と認められ結婚をする。
 そして女性は、同じように学園に残り学業を学ぶ者もいるが、だいたいが学園で婚約者を見つけ、男性が一人前になるまでの二年間を、その婚約者の家やどこかの貴族に侍女として花嫁修業や奉公に出るのが普通だった。
 メアリーの場合魔力があるので学園に残るのならまだ慌てて婚約をする必要はないが、そうではなく平民たちのように街で働くというのだ。それでも結婚が決まっているならまだ結婚前の最後の貴族令嬢の我儘で済むが、婚約もせず、もし別れることになったら、メアリーは平民と同じように街で働いている下級貴族の娘という最終履歴だけが残るのだ。
 
「今なら、あなたはまだこの学園の聖女様です。両親にも地方の下級貴族だからと馬鹿にされることなく胸を張って紹介できます」

 そうなのだ今なら魔力を持った娘。学園で聖女とまで呼ばれる娘。そういう肩書がついているのだ。婚約して学園を卒業して花嫁修業をするというのなら、ある程度の貴族の家でも喜んで迎えてもらえるだろう。

「そうですね」

 メアリーは小さく微笑んだ。

「なら──」
「それでも、私は彼を信じています」

 男子生徒の言葉を遮ってメアリー言った。

「どうして、この先捨てられるかもしれないんですよ。言っては何ですが、あなたと彼とは身分に違いがありすぎます。学園にいる間はあなたの価値は高いですが、卒業後あなたには地方貴族の娘としての価値しかなくなるんですよ、それも街で平民と一緒に働くなんて馬鹿なことを言っている変わった娘というレッテルまで──」
「そうです。私は少し変わった貴族らしくない貴族なんです。あなたの言うように、家でただニコニコして、社交界に顔を出して愛想を振りまいているような良い夫人にはなれません」

 メアリーは続けた。

「聖女だなんだと皆さんは私を、ただ優しく微笑んでいるだけの人形のような娘だと思っていらしゃるようですが。私結構我儘で、自分勝手なんです」
「えっ」

 物腰は柔らかいが、その瞳はこの太陽の下でもどこか深く暗い光を放っているように見えた。

「皆さん口では身分は関係ないというけれど、いざ料理が趣味だと話すと、そんな平民がやることをと陰で笑ったりしますよね、あなたも今、平民と一緒に働くなんて馬鹿で変わっているといいましたよね」

 男子生徒が顔をそらす。

「でも彼は私のこの夢を素敵だといってくれます。私の料理をおいしそうに食べてくれます。料理のことに没頭しすぎて周りが見えない私を可愛いと微笑んでくれるんです」
「でも婚約をしようとしないじゃないですか、そういってご機嫌だけ取るのは責任を持つつもりがないからかもしれないじゃないですか」
「それでも」

 メアリーがふわりと笑った。

「私は彼が好きなんです」
 
 そう言い切ると。メアリーはペコリと頭を下げてその場を後にした。

『ユアン』

 メアリーと男が去ってからキールが小声で話しかけてくる。

『キールごめん。僕いかなくちゃ』
『あぁ、がんばれよ』

 そう言ってキールはポンとユアンの背中を押した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...