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アリナ、考える4

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「そうなのよ。すごい人なのに。いい人すぎるのよ」

 金で爵位を買った平民風情と陰口をたたく者も中にはいるが、そんな貴族の中にいても、ライザは卑屈になったり怒ったりせず、母親譲りの美貌と父親ゆずりの有能さでその場を納めてしまうのだ。それにもとが平民でだからか、一族みな平民たちにも気兼ねなく接し、貴族にも平民にも信頼され愛される商団を拡大してっている。

「平民から貴族、宰相まで上り詰めた一族の娘というだけあって、平民からの指示は断トツトップよ」

 ただ、と続ける。

「昔ながらの貴族からは、成金、金で爵位をかったなど、酷い言われようよ。それでも三人の中では一番皇太子妃にふさわしい人物は彼女だと私も思っているわ」
「ならなぜ」
「だからこそなのよ。一番皇太子妃の有力候補だと言われていたのに、いきなり女神ご指定の本当の聖女が出てきたのよ」

 ローラはもともと聖女だったわけではない。最終皇太子妃候補になってしばらくして、神託が下りたのだ。

「なにが『ローラ・エルモレンコを聖女とする』よ! 私はそんなこと願ってもないのに」
「ローラは皇太子妃になりたくないの?」

 素朴な疑問を口にする。

「うーん。選ばれたのなら、貴族として責任は全うする覚悟はあるわ。でもできればそんな面倒なものになりたいとは思わないわね。それに今私がみんなから選ばれてる理由は、私の能力でなく、聖女という肩書でしょ」
「何言ってるの、ローラは聖女なんて肩書がなくても、十分綺麗で魅力的な女性よ」

 しかしローラはおせいじがうまいんだからと、まったく真に受けない。

「でも、皇太子妃が面倒って」

 皇帝の次に偉いとされる皇后の座を。面倒だからと嫌だという目の前の令嬢に思わず、笑ってしまう。

「笑ってるけど、アリナだって、そうでしょ」

 言われて、確かにアリナもいままで皇太子妃になれるわけないと思っていたから考えてもいなかったが、いざそう言われてみれば、アリナ自身なりたいと思ったこともないことに気がつく。

「ダニーがいるもんね」
「だから、そんなんじゃないから!」

 もう反論するのにも疲れて、諦めたようにため息をもらす。

「消去法っていったけど、リズ様はわかったけどディア様はなんでそうじゃないと思ったの」

 確かにライザが一番有力候補だという人たちもいるが、ディアこそが一番の本命だというものもすくなくないのだ。
 女騎士としてはリズに見劣りしてしまうし、美しさではローラに敵わない。学術面もライザを抜かしたことはない。他のメンバーと比べると卓越した能力はないのだが、その分多方面に程よく才能を持ち合わせていて、平均よりみな高評価をもらっている、何より女生徒からの人気は群を抜いている。

「総合的には一番優秀な人材よ」
「そうね、でもディア様は皇太子妃になりたくないと思っているからよ」

 流れから予想はしていたが、はっきりそう断言されて驚く。

「なんで、そういいきれるのよ」
「だって本人に昔聞いたんだもん。まあまだ皇太子妃に選ばれる前の話だけどね」

 同じ公爵家同志、こちらも多少交流があるようだった。

「じゃあ、選ばれて気が変わったかもよ」
「うーん。それはないとおもうわ」
「なんで」
「ディア様は騎士になりたいの、昔も今も」
「騎士」

 確かにこの国では女性の騎士も少しはいる。
 リズだって皇太子妃にならなければ、赤の騎士団を継ぐだけの実力の持ち主だし、それもあり得る話だ。
 でもディアは実力は高い方だといえるが、リズのような天才ではない。
 男に引けを取らない剣さばきは、ひとえに努力のたまものであった。
 それにディアには弟がいるので、実力が平行していた場合、実力主義とされている騎士団でも男が有利になってしまう。

「彼女は家の方針ですでに皇太子妃教育もうけてるみたいだけど、空いた時間は剣の鍛錬を欠かさないわ。だから騎士になることを諦めたとは思えない」
「そうなんだ」

 みんなの話を聞けば聞くほど、さすが皇太子妃候補に最後まで残っただけはあり、それぞれが優秀であることがよくわかる、そしてみんなローラを呪いにかけるような人物とは思えなかった。
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