踏切のキリコさん

さとのいなほ

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踏切のキリコさん

踏切のキリコさん

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取材を受けて頂いてありがとうございます。『雑誌フォビア』編集のAです。よろしくお願いします。
──よろしくお願いします。
早速ですが、投稿頂いた体験談についてお話を聞かせて頂きたいと思います。
──はい。投稿にも書いたのですがあれは私が小学生の頃の話です。

「ねえ、キリコさんって知ってる?」
「なにそれ」
「踏切に現れるお化け!キリコさんに会うと踏切に引き込まれて電車に轢かれちゃうんだって」
「……へえ」
「会いに行ってみようよ!」

──彼女は男の私よりよほど活発でいつも私の腕を引いて探検だの何だと連れていかれたものです。
成程。その時もまた“探検”に連れていかれたのですね。
──はい。キリコさんが現れる夕暮れ時を待って件の踏切へ行きました。

「ここの踏切だよ! キリコさーん!いますかーーー!」
「おい、やめろって」
「なに?男のクセにビビってるの?」

なかなかお転婆な子だったんですね。
──ええ。彼女に連れていかれた先で迷子になってよく2人で怒られたものです。……話を戻します。不気味なほど真っ赤な夕陽が脳に焼き付いています。踏切には1人の少女が佇んでいました。
それがキリコさんだった、と……。

「な、あ……あの人」
「うん、キリコさんだよ。ホントにいたんだ……」
「あっ、こっちむいて……ひっ」
「あ…ああ……!」

──ニタリと笑っている彼女には眼球が無かったんです。そして血なのかなんなのか、ドロドロとした何かを顔から体中からだらだらと垂れ流していました。一刻も早く逃げ出したいのに足が言うことを聞かないんです。まるで根でも生えてしまったみたいに、ビクともしない。

「やばいって、逃げないと…おい……?」
「キリコさんが呼んでる」
「は? 何言ってんだよ」
「おいでって、遊ぼって。 ねえ、キリコさんワタシと遊ぼう?」
「な、に言って」

──この時の彼女は少し様子がおかしかった。まるで彼女の口を借りて別の人間が話しているような、そんな違和感がありました。

「ずっと1人だった。みんなをキリコさんワタシ無視するの」
「おい?」
「寂しい。 どうして? キリコさんワタシは悪いことしてないのに……ねえ、君も一緒に遊ぼう? 一緒にいこうよ」
「い、行くってどこに」
「ナイショ」
「それじゃあ嫌だよ」
「じゃあコノコだけ先に遊びにいくねツレテイクネ。 後から必ず来てね。約束よ」

──彼女はふらふらと踏切へ歩きだしました。踏切の真ん中に座ってニコニコと何かを話しているようでした。彼女はキリコさんと会話をしているつもりだったのでしょうが、その時私にはキリコさんの姿は見えませんでした。彼女が1人で話しているようにしか見えなくて、それを見ていることしか出来なくて……そうしているうちに遮断機が降りて警報器が鳴って、電車が近付いて来ました。

「おい、電車来てる! なあ、おいって!!」

──そう叫んでも彼女に私の声は届きませんでした。ふっと体が動くようになったので踏切の非常ボタンを押しました。ですが間に合いませんでした。最期の彼女の表情、今でも忘れられません。
どんな表情でしたか?
──笑顔です。まるで花畑で花を摘んで遊んでいるような、そんな無垢であどけない顔でした。

『危険です 列車が来ます 早く踏切から出てください』

──ぐしゃっと何かが潰れる音がしました。そして電車のけたたましいブレーキ音が止むと警報器の無機質な音声だけが響いていて、そこからのことはよく覚えていません。
なるほど……ありがとうございます。顔色がよろしくないようですが大丈夫ですか?
──ええ。あの、今日の予定としてはこの後例の踏切へ行くんですよね?
はい、その予定ですが……。
──でしたら早い方が良い。私も夕方に約束があるのを思い出したので。

彼に踏切へ案内をしてもらい、いくつか写真を撮った。約束があるのだという彼とはそこで別れ、私は編集室へと戻った。

ボイスレコーダーで録音していた音声を再生しながら今日の取材内容をまとめる。次号の締切までそう時間は無いから今日は泊まり込みで作業をする予定だ。
先輩から譲り受けたボイスレコーダーはだいぶガタが来ていたらしく後半はノイズ混じりとなっていた。手元のメモとノイズの合間に聞こえる彼の声を合わせてなんとか形にしていく。
文を考える作業にも飽き、写真の確認に移る。取材用のデジカメからメモリーカードを抜き取り、パソコンで読み取る。最初は踏切を様々な角度から撮影したもの。残りは彼に踏切付近や踏切の中に立ってもらって撮影したものだった。
後者を見ているとおかしな点に気づいた。彼の下半身が歪んでいるのだ。彼の写っていない写真をもう一度見てみるが、異変はない。カメラの不具合では無いようだ……。

ぞわぞわと全身が粟立つのを感じながら写真の確認を進めていく。最後の1枚を見た瞬間、ひっと声が漏れた。
彼の歪んだ足元に赤いランドセルを背負った少女がしがみついていたのだ。そしてその奥にはセーラー服の少女が佇んでいる。
ぞくぞくと全身が震える。心臓の音はうるさいくらいに激しいのに体がどんどん冷えていく。これは見てはいけないモノだ。本能がそう告げる。だが目線をそらすことが出来ずモニターの写真を、セーラー服の少女を、キリコさんを凝視してしまう。
ピリリリリとスマホが鳴った。自分でも大袈裟だと思うくらい体が跳ね、震える手で電話に出る。

「○○署のものですが……」

それは取材現場で別れた彼が件の踏切で亡くなったことを知らせる電話だった。夕暮れ時に踏切にうずくまっていた所をそのまま轢かれたのだという。
ニタリ、と写真の中のキリコさんが笑った気がした。
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