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11 何言ってんですか、ふざけないでください
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殿下の必死な形相を見ているとなんだかおかしくなってきた。
「話…?」
思わず乾いた笑いが漏れた。まるで本当に心を痛めているかのような殿下の顔を見ていると、どちらが被害者なのか分からなくなってくる。この人は、この期に及んで話をすれば私が聞き分けよく理解するとでも思っているのだろうか。
「私は何もお話しすることなんてありませんわ。殿下もそうではなくて?私に飽きたのならそうおっしゃってくださいな。もっとも、幼い頃から婚約者であるだけの私たちの関係に、飽きたなんて言葉が適切かは分かりませんが」
声が震える。飽きたと思われている、そう想像するだけでも胸がきしむ。ガーネット様の顔がちらついて、うまく話せない。ガーネット様に向けた殿下の顔が思い浮かんで、考えがうまくまとまらない。私は自分が何を言っているかもよく分からないまましゃべり続けた。
「ああ、それは当たり前ですよね。もしかしておっしゃるまでもなかった?だって殿下には、素敵なご側室がいらっしゃるんですものね。ガーネット様はお美しくて、社交界でももてはやされるお方ですもの。私などと比べるなんて失礼でしたわね」
「リリア、」
「殿下はよろしいですわよね、あんなに外見だけは美しいガーネット様とよろしくなさって。あの方のいやなところなんて少しもご存じないんでしょうね。本当に羨ましいですわ。殿下は誰とでも仲良くなれてしまわれるのですもの」
「リリア、やめるんだ」
「殿下は私との婚約を破棄できないからガーネット様とご婚約できませんでしたのよね?ご安心ください、私が婚約を破棄―」
「リリア!」
殿下が大声を出したので、私はようやくしゃべるのをやめた。
「何ですか、違うとでもおっしゃりたいのですか?違うというなら…」
「そうじゃない、君が、つらそうな顔をしているから…もうそれ以上、自分で自分を傷つけないでくれ」
その言葉を聞いた瞬間、私は頭が沸騰するかと思うほど熱くなった。頭に血が上るってほんとなのね、なんてのんきなことを考える自分を感じながら感情のままに叫ぶ。
「私を傷つけたのは殿下ではありませんか!?婚約者がいながら側室を持つくらいなら、婚約を破棄してその方と結婚すればよいのです!そういう…そういう殿下の不誠実な態度が私を傷つけているのだと、なぜ分からないのですか!?」
初めて、殿下にこんなに感情をぶつけた。殿下はもちろん、お父様たちや使用人も目を丸くして私を凝視している。やってしまった、もう終わりだと考える自分とは裏腹に、ああスッキリした、と安堵のため息をつく自分もいた。こうなった以上、もう後には引けない。殿下が何と返すのか楽しみですらあった。殿下は目を伏せて視線をそらす。そして、か細い声で言った。
「すまない、婚約破棄は…できない。ガーネットを側室から外すこともない」
「…っ」
それをきいた瞬間、心臓のあたりが氷漬けにされたように冷えていった。もうこれ以上傷つくことなんて無いと思っていたのに。彼は、まだ私を苦しめる。
「話…?」
思わず乾いた笑いが漏れた。まるで本当に心を痛めているかのような殿下の顔を見ていると、どちらが被害者なのか分からなくなってくる。この人は、この期に及んで話をすれば私が聞き分けよく理解するとでも思っているのだろうか。
「私は何もお話しすることなんてありませんわ。殿下もそうではなくて?私に飽きたのならそうおっしゃってくださいな。もっとも、幼い頃から婚約者であるだけの私たちの関係に、飽きたなんて言葉が適切かは分かりませんが」
声が震える。飽きたと思われている、そう想像するだけでも胸がきしむ。ガーネット様の顔がちらついて、うまく話せない。ガーネット様に向けた殿下の顔が思い浮かんで、考えがうまくまとまらない。私は自分が何を言っているかもよく分からないまましゃべり続けた。
「ああ、それは当たり前ですよね。もしかしておっしゃるまでもなかった?だって殿下には、素敵なご側室がいらっしゃるんですものね。ガーネット様はお美しくて、社交界でももてはやされるお方ですもの。私などと比べるなんて失礼でしたわね」
「リリア、」
「殿下はよろしいですわよね、あんなに外見だけは美しいガーネット様とよろしくなさって。あの方のいやなところなんて少しもご存じないんでしょうね。本当に羨ましいですわ。殿下は誰とでも仲良くなれてしまわれるのですもの」
「リリア、やめるんだ」
「殿下は私との婚約を破棄できないからガーネット様とご婚約できませんでしたのよね?ご安心ください、私が婚約を破棄―」
「リリア!」
殿下が大声を出したので、私はようやくしゃべるのをやめた。
「何ですか、違うとでもおっしゃりたいのですか?違うというなら…」
「そうじゃない、君が、つらそうな顔をしているから…もうそれ以上、自分で自分を傷つけないでくれ」
その言葉を聞いた瞬間、私は頭が沸騰するかと思うほど熱くなった。頭に血が上るってほんとなのね、なんてのんきなことを考える自分を感じながら感情のままに叫ぶ。
「私を傷つけたのは殿下ではありませんか!?婚約者がいながら側室を持つくらいなら、婚約を破棄してその方と結婚すればよいのです!そういう…そういう殿下の不誠実な態度が私を傷つけているのだと、なぜ分からないのですか!?」
初めて、殿下にこんなに感情をぶつけた。殿下はもちろん、お父様たちや使用人も目を丸くして私を凝視している。やってしまった、もう終わりだと考える自分とは裏腹に、ああスッキリした、と安堵のため息をつく自分もいた。こうなった以上、もう後には引けない。殿下が何と返すのか楽しみですらあった。殿下は目を伏せて視線をそらす。そして、か細い声で言った。
「すまない、婚約破棄は…できない。ガーネットを側室から外すこともない」
「…っ」
それをきいた瞬間、心臓のあたりが氷漬けにされたように冷えていった。もうこれ以上傷つくことなんて無いと思っていたのに。彼は、まだ私を苦しめる。
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