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番外編 INFINITY《悠斗side》
01
しおりを挟む終始キョロキョロと落ち着きのない可愛らしい姿に、嫌でも頬が緩んでしまう。
「瀬菜、こっちだよ」
「う、うん……」
「大丈夫? 疲れた?」
「平気……けど、日本とは規模が違いすぎて驚く」
「ふふっ、建物も人もみんな大きいからね。もう少しで待ち合わせ場所だから頑張って」
健気にコクリと頷くが、いつもと違い元気がない。おそらく自分より大きなものに、知らず気疲れしてしまったのだろう。そっと手を握ると強張りが解け、どこか安心した様子を見せる。
俺と瀬菜は大学三年目の冬休みを使い、以前から約束していたアメリカに来ていた。俺が二年間過してきた生活を、瀬菜の目線で見てみたかったようだ。瀬菜にとっては久々の海外旅行。アメリカは初めてとのことで、観光ついでに大都市であるニューヨークを経由するとこにしていた。
長いフライトの疲れもあるのだろう。簡単に観光を終わらせ、俺のホームステイ先だったボストンに、早めに向かうのもありかもしれない。そう考えていると、目的の場所で声をかけられた。
「へいっ、ユート‼」
久しぶりに聞く明るい声。変わらない姿に安心する。
「アーヴィン、相変わらず元気そうだね。待たせた?」
「いや、ニューヨークは久々だから早めに来て買い物をしていたんだ。それで?」
軽く握手を交わすと、アーヴィンは顎を撫でながら興味深そうに俺のうしろに目を向けた。
「それで? とは?」
「おいおい、とぼけるなよ。お前のうしろに隠している、その小さな生き物はなんなんだと聞いているんだ」
「……やっぱり会わせないほうがよかったかな」
ボソリと呟く俺のコートが、うしろからグイグイと引かれる。こちらはこちらで早く紹介してくれということらしい。
「アーヴィン、この子が前に話していた幼馴染の瀬菜。瀬菜、このうるさそうなのがアーヴィン。因みにアーヴィンは日本語理解できるから、英語じゃなくても大丈夫だよ」
英語から日本語に切り替え瀬菜に笑いかけると、安心した様子で自ら一歩前に出てアーヴィンに手を差し出した。
「初めましてアーヴィン。柳瀬菜です。少しの間お世話になります」
少し照れくさそうに頭を下げ自己紹介をし、微笑む瀬菜の姿。これはまずいと直感するが、どうやら遅かったようだ。
アーヴィンは頬を上気させ、鼻を膨らませながら瀬菜の手を両手で握りしめた。
「よっ、よろしくっ! エンジェル!」
「え、エンジェル?」
キョトンとする瀬菜をすかさずうしろへ引き寄せる。なぜ毎回こうなってしまうのやらとため息を吐くが相手はアーヴィンだ。半分諦めながら瀬菜に言う。
「ちょっとしたアメリカンジョークだよ。寒いのに余計に寒くなっちゃうね。自己紹介は終わりにして、見たがってた自由の女神に早く行こ」
前途多難。ガクリと肩を落とすが、瀬菜の願いは叶えてあげたい。この旅を無事過ごせることを祈りつつ足を進めた。
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