703 / 716
第26幕 iの意味
22
しおりを挟む
「──ッ悠斗‼︎」
キッチンでランチの用意をする悠斗の背中に、ハァハァと息を乱しながら声をかける。
「ふふっ、さっきの続き? 瀬菜のふざけるなぁ~! って声、ちゃんとここまで聴こえてたよ?」
「……ちがっ……くて……」
「ん? なんだ裸エプロンじゃないの? カレシャツってのも唆るけど♡」
ブカブカなシャツを羽織る俺を眺める悠斗に、そんなことはどうでもいいと握りしめた手を悠斗の前に突き出す。
「これ……」
「あぁ……もう見つけたの?」
包丁をまな板の上に置くと、突き出した俺の握り拳をそっと包み込んできた。カチカチに握り締めた手のひらは、中々開かず金縛りにでもあったようだ。
「クスッ……そんなにギュッとしてたら、手のひらが傷ついちゃうよ?」
「だって……これ……俺が持っていて……いいの?」
「もちろんだよ? 瀬菜にあげたものだもん、また持っていてくれたら嬉しいけどな」
それは俺が壊してしまった悠斗からの初めてのプレゼント。
しっかり治されたそれは形を変え、今はブレスレットではなく家の鍵がついていた。
「ブレスレットに治そうと思ったけど、大学卒業したらしにくいかなって思って勝手にキーホルダーにしちゃった。気に入ってくれたらいいんだけど……」
S☆PSCSR☆Y
瀬菜へ
Peach貴方に夢中貴方の虜
Sunflower貴方だけを見つめてる
Cuckoo私は永遠に貴方のもの
Statice変わらぬ誓い永遠に変わらぬ心
Rose貴方を愛してます
悠斗より
それは英単語でもない悠斗の俺への気持ち。エスの文字は二つあったが、ひと粒はユウの首輪のチャームに使用していたはずだった。
けれど手の中のキーホルダーには、しっかりと九粒のキューブが揃っている。ひとつ違うのはエスが抜け、代わりに異なるアルファベットが増えていることだ。
S☆PCSRi☆Y
やはり読むことはできないスペル。『i』は小文字で点の部分には石が嵌められていた。キラキラと輝く宝石はダイヤなのだろうか。
「……意味……新しいアルファベットの意味はなに?」
「意味は……なんだろうね?」
「教えてくれないの?」
「ふふっ……内緒♪」
ニコニコと楽しそうにする悠斗は、意味を教えてはくれそうになかった。花言葉とは沢山あり、アイから始まる花を探すだけでも苦労しそうだ。
このキューブは悠斗の想いが詰まった特別製なのだ。俺の頭では答えはしばらく出そうにない。
「意味が大切なのに……考えるもん。エスは……ユウにあげちゃうの?」
「ユウもうちの家族だからね? お裾分け」
「自分でつけたけど、ちょっとユウに嫉妬しそう」
「可愛いこと言って」
「……大切にする」
ギュッと悠斗の胸に抱きつき、スリスリとしながら喜びを全身で伝える。『愛してる』と想いを込めて……。
「よかった。喜んでもらえて」
「うん、絶対手放さない」
「なくしたら家入れなくなっちゃうしね?」
「へへっ、本当だな!」
二人の家に戻るための鍵。
前りよも太い鎖で細工されたキーホルダー。
簡単には壊れることも、簡単に失くすこともないだろう。
一度は自分の手から離れた贈り物。
今はなにも返せないけれど……。
せめて…………。
「悠斗、ありがとう。大好き!」
そうハッキリとした言葉で想いを乗せながら、とびきりの笑顔を贈った。
❥ 大学生編【閉幕】──終幕へ── ❥
キッチンでランチの用意をする悠斗の背中に、ハァハァと息を乱しながら声をかける。
「ふふっ、さっきの続き? 瀬菜のふざけるなぁ~! って声、ちゃんとここまで聴こえてたよ?」
「……ちがっ……くて……」
「ん? なんだ裸エプロンじゃないの? カレシャツってのも唆るけど♡」
ブカブカなシャツを羽織る俺を眺める悠斗に、そんなことはどうでもいいと握りしめた手を悠斗の前に突き出す。
「これ……」
「あぁ……もう見つけたの?」
包丁をまな板の上に置くと、突き出した俺の握り拳をそっと包み込んできた。カチカチに握り締めた手のひらは、中々開かず金縛りにでもあったようだ。
「クスッ……そんなにギュッとしてたら、手のひらが傷ついちゃうよ?」
「だって……これ……俺が持っていて……いいの?」
「もちろんだよ? 瀬菜にあげたものだもん、また持っていてくれたら嬉しいけどな」
それは俺が壊してしまった悠斗からの初めてのプレゼント。
しっかり治されたそれは形を変え、今はブレスレットではなく家の鍵がついていた。
「ブレスレットに治そうと思ったけど、大学卒業したらしにくいかなって思って勝手にキーホルダーにしちゃった。気に入ってくれたらいいんだけど……」
S☆PSCSR☆Y
瀬菜へ
Peach貴方に夢中貴方の虜
Sunflower貴方だけを見つめてる
Cuckoo私は永遠に貴方のもの
Statice変わらぬ誓い永遠に変わらぬ心
Rose貴方を愛してます
悠斗より
それは英単語でもない悠斗の俺への気持ち。エスの文字は二つあったが、ひと粒はユウの首輪のチャームに使用していたはずだった。
けれど手の中のキーホルダーには、しっかりと九粒のキューブが揃っている。ひとつ違うのはエスが抜け、代わりに異なるアルファベットが増えていることだ。
S☆PCSRi☆Y
やはり読むことはできないスペル。『i』は小文字で点の部分には石が嵌められていた。キラキラと輝く宝石はダイヤなのだろうか。
「……意味……新しいアルファベットの意味はなに?」
「意味は……なんだろうね?」
「教えてくれないの?」
「ふふっ……内緒♪」
ニコニコと楽しそうにする悠斗は、意味を教えてはくれそうになかった。花言葉とは沢山あり、アイから始まる花を探すだけでも苦労しそうだ。
このキューブは悠斗の想いが詰まった特別製なのだ。俺の頭では答えはしばらく出そうにない。
「意味が大切なのに……考えるもん。エスは……ユウにあげちゃうの?」
「ユウもうちの家族だからね? お裾分け」
「自分でつけたけど、ちょっとユウに嫉妬しそう」
「可愛いこと言って」
「……大切にする」
ギュッと悠斗の胸に抱きつき、スリスリとしながら喜びを全身で伝える。『愛してる』と想いを込めて……。
「よかった。喜んでもらえて」
「うん、絶対手放さない」
「なくしたら家入れなくなっちゃうしね?」
「へへっ、本当だな!」
二人の家に戻るための鍵。
前りよも太い鎖で細工されたキーホルダー。
簡単には壊れることも、簡単に失くすこともないだろう。
一度は自分の手から離れた贈り物。
今はなにも返せないけれど……。
せめて…………。
「悠斗、ありがとう。大好き!」
そうハッキリとした言葉で想いを乗せながら、とびきりの笑顔を贈った。
❥ 大学生編【閉幕】──終幕へ── ❥
0
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
壊れた番の直し方
おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。
顔に火傷をしたΩの男の指示のままに……
やがて、灯は真実を知る。
火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。
番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。
ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。
しかし、2年前とは色々なことが違っている。
そのため、灯と険悪な雰囲気になることも…
それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。
発情期のときには、お互いに慰め合う。
灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。
日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命…
2人は安住の地を探す。
☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。
注意点
①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします
②レイプ、近親相姦の描写があります
③リバ描写があります
④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。
表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。
薫る薔薇に盲目の愛を
不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。
目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。
爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。
彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。
うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。
色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる