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第26幕 iの意味
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いつの間にか眠っていた。悠斗のうたた寝に俺も引きづられてしまったようだ。
身体はサッパリとし、シーツはサラサラと身体に馴染んでいる。あれから悠斗が目を覚まし、俺を清めてくれたのだろう。
レースのカーテン越しから覗く外はほんのり薄暗く、雨粒が窓から垂れていた。雨雲のせいで太陽はすっかり姿を隠し、今が何時なのか感覚を麻痺させる。
「……おはよ」
「はよ……」
掠れた声で互いに朝の挨拶を交わす。ぼんやりとした視線で目を擦ると、頬に掛かる髪を撫でながら耳に掛けてくれた。
シーツの擦れる音に、昨日の情事を思い出す。悠斗の胸に抱かれている自分が妙に恥ずかしい。
「もうすぐお昼だよ?」
「通りで……お腹減った……」
「まだ何も用意してないよ? 瀬菜の寝顔見てたら、中々ベッドから抜け出せなくて」
「もしかして……ずっと観察してた?」
「うん、可愛くてつい」
「寝てるだけだろ? ……って、まさか……撮ってないだろうな?」
一瞬、間が空く。
「ん? さてと、なに作ろうか? それとも先に愛し合う?」
「ばっ、馬鹿ッ!」
「今日は雨だから、一日瀬菜を愛でるんだもん」
「勝手にしろよ……」
布団を深く被り真っ赤になる顔を隠すと、布団ごと抱きしめられ頭に何度もキスを贈られた。
「せーな♪ お腹減ったでしょ? ずっとこうしてる?」
「……なにか温かいのがいい」
「なら、濃厚なミルクたっぷりのスープにしよう」
「……なぜ含みを持たせるんだよ……アホ」
「ふふっ、瀬菜のエッチ♡」
「早く作って来い!」
おっさんみたいな卑猥なジョークを繰り広げる悠斗の尻を叩くと、クスクスと笑いながら悠斗がベッドを抜け出す。布団の中は温かいはずなのに、悠斗の熱がないだけで寂しさを感じてしまう。
部屋着を着る悠斗の姿をチラリと布団の隙間から見ていた俺は、ムクリと起き上がり悠斗に声を掛けた。
「やっぱ……俺も、一緒に作る」
「うん、二人で作ったほうが美味しいよ?」
パァーっと明るい笑顔になる俺に、手を差し伸べる悠斗が俺を引き寄せ額にチュッとキスをする。
「はい、これ」
「へっ?」
手渡されたレースの布地に固まる俺に、爽やかな笑顔を振り撒く悠斗。
「汚れないようにね。因みに裸だと、もっと美味しくなると思うんだ♡」
「──ッ!」
「ふふっ、ちゃんと着てね? さてと、作る気力が漲るな~♪」
パチッとウインクをし、鼻歌交じりに寝室を出て行く悠斗のうしろ姿を呆然と見ながら、レースたっぷりの純白なエプロンを再度確認した俺は、キッチンまで轟かせる大声で叫んだのだった。
悠斗の変態は今に始まったことではない。
きっとこの先も……。
こうして馬鹿みたいに二人で……。
投げ捨ててしまいそうになるのをグッと堪え、レースのエプロンを掲げながらププッとひとり吹き出し、仕方のないヤツだとヘラリと笑う。
……あれ?
ピローンと掲げるエプロンに重みを感じ首を傾げる。重みがかかっている部分を探ると、シャラリ……と金属がぶつかる音が聞こえてきた。
エプロンのポケットに手を差し込み探ると、それをゆっくりと持ち上げた。
目の前に現れたそれに目頭が熱くなり、鼻がツーンとして涙が滲んだ。ギュッとエプロンごと抱きしめると、転がっていたシャツを羽織り、寝室を駆けだした。
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