王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
702 / 716
第26幕 iの意味

21

しおりを挟む

***



 いつの間にか眠っていた。悠斗のうたた寝に俺も引きづられてしまったようだ。
 身体はサッパリとし、シーツはサラサラと身体に馴染んでいる。あれから悠斗が目を覚まし、俺を清めてくれたのだろう。
 レースのカーテン越しから覗く外はほんのり薄暗く、雨粒が窓から垂れていた。雨雲のせいで太陽はすっかり姿を隠し、今が何時なのか感覚を麻痺させる。

「……おはよ」
「はよ……」

 掠れた声で互いに朝の挨拶を交わす。ぼんやりとした視線で目を擦ると、頬に掛かる髪を撫でながら耳に掛けてくれた。
 シーツの擦れる音に、昨日の情事を思い出す。悠斗の胸に抱かれている自分が妙に恥ずかしい。

「もうすぐお昼だよ?」
「通りで……お腹減った……」
「まだ何も用意してないよ? 瀬菜の寝顔見てたら、中々ベッドから抜け出せなくて」
「もしかして……ずっと観察してた?」
「うん、可愛くてつい」
「寝てるだけだろ? ……って、まさか……撮ってないだろうな?」

 一瞬、間が空く。

「ん? さてと、なに作ろうか? それとも先に愛し合う?」
「ばっ、馬鹿ッ!」
「今日は雨だから、一日瀬菜を愛でるんだもん」
「勝手にしろよ……」

 布団を深く被り真っ赤になる顔を隠すと、布団ごと抱きしめられ頭に何度もキスを贈られた。

「せーな♪ お腹減ったでしょ? ずっとこうしてる?」
「……なにか温かいのがいい」
「なら、濃厚なミルクたっぷりのスープにしよう」
「……なぜ含みを持たせるんだよ……アホ」
「ふふっ、瀬菜のエッチ♡」
「早く作って来い!」

 おっさんみたいな卑猥なジョークを繰り広げる悠斗の尻を叩くと、クスクスと笑いながら悠斗がベッドを抜け出す。布団の中は温かいはずなのに、悠斗の熱がないだけで寂しさを感じてしまう。
 部屋着を着る悠斗の姿をチラリと布団の隙間から見ていた俺は、ムクリと起き上がり悠斗に声を掛けた。

「やっぱ……俺も、一緒に作る」
「うん、二人で作ったほうが美味しいよ?」

 パァーっと明るい笑顔になる俺に、手を差し伸べる悠斗が俺を引き寄せ額にチュッとキスをする。

「はい、これ」
「へっ?」

 手渡されたレースの布地に固まる俺に、爽やかな笑顔を振り撒く悠斗。

「汚れないようにね。因みに裸だと、もっと美味しくなると思うんだ♡」
「──ッ!」
「ふふっ、ちゃんと着てね? さてと、作る気力が漲るな~♪」

 パチッとウインクをし、鼻歌交じりに寝室を出て行く悠斗のうしろ姿を呆然と見ながら、レースたっぷりの純白なエプロンを再度確認した俺は、キッチンまで轟かせる大声で叫んだのだった。

 悠斗の変態は今に始まったことではない。
 きっとこの先も……。
 こうして馬鹿みたいに二人で……。

 投げ捨ててしまいそうになるのをグッと堪え、レースのエプロンを掲げながらププッとひとり吹き出し、仕方のないヤツだとヘラリと笑う。

 ……あれ?

 ピローンと掲げるエプロンに重みを感じ首を傾げる。重みがかかっている部分を探ると、シャラリ……と金属がぶつかる音が聞こえてきた。
 エプロンのポケットに手を差し込み探ると、それをゆっくりと持ち上げた。
 目の前に現れたそれに目頭が熱くなり、鼻がツーンとして涙が滲んだ。ギュッとエプロンごと抱きしめると、転がっていたシャツを羽織り、寝室を駆けだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない

ネコフク
BL
【本編完結・番外編更新中】ある昼過ぎの大学の食堂で「瀬名すまない、別れてくれ」って言われ浮気相手らしき奴にプギャーされたけど、俺達付き合ってないよな? それなのに接触してくるし、ある事で中学から寝取ってくる奴が虎視眈々と俺の周りのαを狙ってくるし・・・俺まだ誰とも付き合う気ないんですけど⁉ だからちょっと待って!付き合ってないから!「そんな噂も立たないくらい囲ってやる」って物理的に囲わないで! 父親の研究の被験者の為に誰とも付き合わないΩが7年待ち続けているαに囲われちゃう話。脇カプ有。 オメガバース。α×Ω ※この話の主人公は短編「番に囲われ逃げられない」と同じ高校出身で短編から2年後の話になりますが交わる事が無い話なのでこちらだけでお楽しみいただけます。 ※大体2日に一度更新しています。たまに毎日。閑話は文字数が少ないのでその時は本編と一緒に投稿します。 ※本編が完結したので11/6から番外編を2日に一度更新します。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

後天性オメガの近衛騎士は辞職したい

栄円ろく
BL
 ガーテリア王国の第三王子に仕える近衛騎士のイアン・エバンズは、二年前に突如ベータからオメガに性転換した。その影響で筋力が低下したのもあり、主人であるロイ・ガーテリアに「運命の番を探して身を固めたい」と辞職を申し出た。  ロイは王族でありながら魔花と呼ばれる植物の研究にしか興味がない。ゆえに、イアンの辞職もすぐに受け入れられると思ったが、意外にもロイは猛烈に反対してきて……  「運命の番を探すために辞めるなら、俺がそれより楽しいことを教えてやる!」  その日からイアンは、なぜかロイと一緒にお茶をしたり、魔花の研究に付き合うことになり……??  植物学者でツンデレな王子様(23歳)×元ベータで現オメガの真面目な近衛騎士(24歳)のお話です。

元会計には首輪がついている

笹坂寧
BL
 【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。  こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。  卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。  俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。    なのに。 「逃げられると思ったか?颯夏」 「ーーな、んで」  目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…

夢見 歩
BL
僕は運命の番に気付いて貰えない。 僕は運命の番と夫婦なのに… 手を伸ばせば届く距離にいるのに… 僕の運命の番は 僕ではないオメガと不倫を続けている。 僕はこれ以上君に嫌われたくなくて 不倫に対して理解のある妻を演じる。 僕の心は随分と前から血を流し続けて そろそろ限界を迎えそうだ。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 傾向|嫌われからの愛され(溺愛予定) ━━━━━━━━━━━━━━━ 夢見 歩の初のBL執筆作品です。 不憫受けをどうしても書きたくなって 衝動的に書き始めました。 途中で修正などが入る可能性が高いので 完璧な物語を読まれたい方には あまりオススメできません。

【BL】声にできない恋

のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ> オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。

処理中です...