王子×悪戯戯曲

第26幕 ｉの意味

03

「しかしさ、嫌味なぐらい立花ってイケメンだよな。高校の頃もだったけど、入学したての頃は大学中話題だったけ。瀬菜ちゃんはこれからも大変そうだ」
「ははは……まぁ、そこは慣れてるから」
「ふーん。まぁ、辛かったら俺が助けたげるね♡」
「イヤ、いい……なんか余計ややこしくなりそうだし」
「いいじゃん♡　たまには摘み食いするぐらい♡」

　ツンツンと頬を突かれながらニヤニヤと笑う玉夫に、そういえばコイツは悠斗の恐ろしさ（主に俺に対する仕打ち）を知らなかったと、ため息を吐きながら注意した。

「お前な……週末痛い目にあったばかりだろ？　あのときはみんなも居たからよかったけど、怒らせるとあとが面倒なんだよ。だからチューとかハグとか気軽にするなよ？」
「それって見られてなきゃしていいってこと？」

　揚げ足を取る玉夫をジロリと睨みつけると、ヘラヘラ笑い「キスもハグも挨拶みたいなもんじゃん」と、問題発言を口にし早速俺に抱きついてくる。

「もっと奥に行ってくれる？」
「えっ、あぁ……悪い」
「……はぁ？」

　広い教室は所々空席があるが、一限からでもそこそこ人気がある講義だ。うしろの席は日本人特有のものなのか、早くから埋まってしまう。
　端に座る俺たちのせいで、中のほうががら空きだった。迷惑だと言わんばかりの注意に、申し訳ないと思う俺とは違い、玉夫はなぜか好戦的だった。
　久々のセックス三昧で、俺はあちこち筋肉痛なのだ。ピキピキと痛む腕に眉を寄せながら、抱きつく玉夫の胸を押し奥に行けと引き離す。

「はぁ？　じゃないだろ。詰めろって」
「……いや、瀬菜ちゃん……」

　俺の背後にチラチラと視線を向ける玉夫は、都合が悪そうに頬をポリポリと掻いている。首を傾げなんだよ……と振り返る俺。同時にヒッと喉を鳴らし、死亡フラグを立たせた。

　うん、まぁよくある流れだよね。
　デジャブみないなこの感じ。
　神出鬼没なのは定番だったよな……。

「やぁ、瀬菜……奇遇だね」

　無表情はやめてくれと思いながら、冷や汗をかきつつニコニコ顔でごまかしておく。

「悠斗、どうしたんだ？」
「ほら、朝話していたでしょ？　違う学部の申請したって」
「あぁ、そういえば……まさか俺と同じだとは思ってなかったけど」

　ははは……と乾いた笑いで悠斗の冷めた空気を振り払う。隣にスッと腰を下ろす悠斗は、俺の腰に腕を回し耳元に囁いてきた。

「本当に……俺もびっくりしたよ。目を離した途端にね？　同じ学部でよかった」
「……あの……先に言っておきますが、悪いことはしてませんから」
「そうだね。キスもハグも、挨拶みたいなものだしね？　それとも、気軽にじゃなきゃしていんだっけ？」

　あっ、そのあたりから聞いていたんだね。
　うん、分かったよ……俺、公開処刑決定だね！

　ゴクリと喉を鳴らすと丁度よく講師が部屋に入室した。まさに神到来だとホッと胸を撫で下ろす俺は、講義用のノートとシャープペンを並べた。

「ほら、始まるぞ。愚痴はまたあとでな」