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第26幕 iの意味
01
しおりを挟む新しい生活。
新しいマンション。
新しい…………。
「なんなんだ……この大量の服は……」
寝室に設置された大きなウォークインクローゼットには悠斗の服とは別に、どういう訳か俺の服がぎっしりと詰められていた。確か前のアパートから持ってきた俺の荷物は、四十五リットルのゴミ袋がパンパンになる程度のものだった。
もちろんクローゼットには、俺が今まで着ていた服も掛けられている。けれど魔法でも掛けたのかあっという間に増え……いや、増えた訳ではない。俺がこのマンションに引っ越してくる前から、先に鎮座していたのだ。
「これ以上は増やさないように言わないと……」
大きくため息を吐きながら自分で購入した服を選び、大学へ行くための準備を進めた。引っ越しの手続きやらなんやらで、昨日は大学を休むことになってしまった。
最低限の生活はできるが、まだ引っ越しの片付けは終了していない。悠斗も同様で、部屋のあちこちにまだダンボールが積まれたままだった。
前のアパートを解約したいとおふくろに連絡を入れると、大笑いしながら大層喜んでいた。『太らせてもらいなさい』と、遠回しに健康面を指摘された。
新築の建物は最先端で、慣れるまでには時間がかかりそうだ。IHクッキングはガスコンロと勝手が違い、今はまだ悠斗に任せっきり。それでも悠斗は嫌な顔をせず、約束通り俺に美味しい料理を振る舞ってくれた。朝目を覚ますと鼻を擽る朝食の香り。一日が始まる目覚ましにしてはずいぶん贅沢な時計である。
「瀬菜? ご飯できたよ?」
「うん、今行く」
寝室のドアを開きひょっこり顔を出す悠斗が、エプロン姿で俺を呼ぶ。二人で生活を初めてまだ数日だが、新鮮でとても不思議な気分だ。
「今日も新しい服は着なかったの?」
「今までので十分だ。てか、あの大量の服はなんなんだ」
クローゼットの中身を問い詰めると、悠斗は嬉しそうに言った。
「アメリカで瀬菜に似合いそうなの集めていたら、いつの間にかいっぱいになっちゃった」
「集めたって……俺、あんなに沢山着れないよ。もうこれ以上増やすなよ」
「ふふっ、なるべく気を付ける」
まるで俺が悠斗との同棲を、こうなる前から了承すると予想していたのか、用意万端な服や下着を見ると図られたのか? と勘繰ってしまうが、俺のことを思っていてくれた悠斗に密かに喜びを感じてしまう。
素直な悠斗に呆れながらタンスの肥やしにならないように、明日から着るべきか……と、それ以上言うのは控えておいた。
「そういえば悠斗、大学はどうするんだ? 休学していたよな? 一年生から始めるの? そしたら……俺ってばお前の先輩だな!」
「瀬菜の先輩っていうのもいいけど、うちの大学融通きくから。ほかの大学を卒業したから編入扱いになるんだ。休学からの飛び級って言ったほうが解りやすいかな? 不足してる分の単位を取れば、日本の大学も卒業になるんだよ」
「へー、ならあんまり大学行かなくてもいいのか」
どの道学部が違う悠斗は、電車で前のように数駅先のキャンパス通いになるはずだ。二つの大学を数年で卒業とは頭のできが違い過ぎて、俺には到底無理な話だ。
「うん、でも少し違う分野も勉強したくて。昨日丁度申請が通った連絡が来たところ」
「ふーん……よく分かんないけど、ほかも勉強するなんて凄いな」
豪華な朝食を優雅に食べながら、時計を見ると通学の時間が迫っていた。
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