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第25幕 伝えるということ
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帰りがてらスーパーで買い物を済ませると、悠斗を家に招いた。おんぼろなアパートは悠斗には珍しいらしく、部屋へ辿り着く前から終始感嘆の声を上げていた。
部屋の中に入ると感嘆の声は止み、どこか物悲しい顔をしている。
「なんていうか……そう、シンプルだね」
「言っただろ? 寝るだけだって」
室内はあまり生活感を感じさせない。小さなローテーブルと、シングルベッドがあるだけだ。ユウが居るからというのもあるが、殺風景で飾り気は全くない。
キッチンも同じように、冷蔵庫がポツンと置かれ、その横の棚に炊飯器とレンジがある程度だった。
「キッチン用品もあんまりないけど、取り敢えずフライパンはあるよ。ボウルはなかったっけ……あぁ、でも鍋は一個あるし作れるかな?」
鍋とフライパンを掲げる俺に、悠斗は瞼を閉じ首を横に振った。それからそっと息を吐き、瞼を開けると潤んだ瞳で頷いた。
「うん、大丈夫」
「へへっ、よかった。俺も手伝う?」
「ううん。瀬菜はゆっくりしてて?」
「あっ、うん……」
「そんな寂しい顔しないで? 今日は疲れたでしょ? それにあっち見て? 構ってほしそうな顔してるよ?」
ユウに視線を向けると尻尾が揺れ出す。今日は確かに自分のことに手一杯で、構ってあげられなかった。頭を撫でると嬉しそうに俺の顔を舐め返してくる。悠斗の言葉に甘え、俺は食事ができあがるまでユウと一頻り遊んでいた。
隣のキッチンに悠斗が居る。そのうしろ姿を時折目で追うと、今までのことが夢だったのではないだろうかと錯覚しそうだ。悠斗は全く変わってなどいなかった。真っ直ぐに俺を見てくれていた。
そういえば悠斗の留学の理由をまだ聞いていない。これから沢山話をして、二年分のわだかまりが解ければいいなと、不安を感じながらもそっと笑みを溢した。
*
「クスッ……そんなに急いで食べなくても、誰も取らないよ?」
「ユウが狙ってるから。これ、凄く美味しい」
「よかった」
不揃いなお皿の上に乗せられたこんがり焼けたハンバーグ。フォークを入れると中から肉汁が溢れ出す。食べ進めると肉汁とは別に、とろりとチーズが飛び出し、お肉と絡まりさらに濃厚な味を演出していた。外食とインスタントや健康食品で済ませていた俺の舌は喜び、食べながらでも涎が止まらずにいた。
ユウは自分の分を早々に食べ終えると、俺の隣で身を乗り出しながら、もっと食べたいと言わんばかりに鼻先をクンクンと寄せ狙っていた。
「ほら、ついてる」
「……えっ?」
「ふふっ、そういうところ変わらないね? 昔の可愛い瀬菜のままだ」
口の端に付いていたらしいソースを悠斗はそう言いながら指先で拭うと、そのままペロリと舐め取った。
「……悠斗も……そういうところ、変わってない」
「俺はなにも変わっていないよ。ずっと……ね?」
ふわっと微笑む優しい笑顔。足の先から頭の天辺まで、湯気が立ちそうになってしまう。火照る顔を逸し、ごまかすようにパクリとハンバーグを口にする。
美味しい手料理にほんわかする空気。以前あたり前に過ごしていた日常に、尊さをひしひしと感じる自分。でもやっぱり気恥ずかしい。
部屋の中に入ると感嘆の声は止み、どこか物悲しい顔をしている。
「なんていうか……そう、シンプルだね」
「言っただろ? 寝るだけだって」
室内はあまり生活感を感じさせない。小さなローテーブルと、シングルベッドがあるだけだ。ユウが居るからというのもあるが、殺風景で飾り気は全くない。
キッチンも同じように、冷蔵庫がポツンと置かれ、その横の棚に炊飯器とレンジがある程度だった。
「キッチン用品もあんまりないけど、取り敢えずフライパンはあるよ。ボウルはなかったっけ……あぁ、でも鍋は一個あるし作れるかな?」
鍋とフライパンを掲げる俺に、悠斗は瞼を閉じ首を横に振った。それからそっと息を吐き、瞼を開けると潤んだ瞳で頷いた。
「うん、大丈夫」
「へへっ、よかった。俺も手伝う?」
「ううん。瀬菜はゆっくりしてて?」
「あっ、うん……」
「そんな寂しい顔しないで? 今日は疲れたでしょ? それにあっち見て? 構ってほしそうな顔してるよ?」
ユウに視線を向けると尻尾が揺れ出す。今日は確かに自分のことに手一杯で、構ってあげられなかった。頭を撫でると嬉しそうに俺の顔を舐め返してくる。悠斗の言葉に甘え、俺は食事ができあがるまでユウと一頻り遊んでいた。
隣のキッチンに悠斗が居る。そのうしろ姿を時折目で追うと、今までのことが夢だったのではないだろうかと錯覚しそうだ。悠斗は全く変わってなどいなかった。真っ直ぐに俺を見てくれていた。
そういえば悠斗の留学の理由をまだ聞いていない。これから沢山話をして、二年分のわだかまりが解ければいいなと、不安を感じながらもそっと笑みを溢した。
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「クスッ……そんなに急いで食べなくても、誰も取らないよ?」
「ユウが狙ってるから。これ、凄く美味しい」
「よかった」
不揃いなお皿の上に乗せられたこんがり焼けたハンバーグ。フォークを入れると中から肉汁が溢れ出す。食べ進めると肉汁とは別に、とろりとチーズが飛び出し、お肉と絡まりさらに濃厚な味を演出していた。外食とインスタントや健康食品で済ませていた俺の舌は喜び、食べながらでも涎が止まらずにいた。
ユウは自分の分を早々に食べ終えると、俺の隣で身を乗り出しながら、もっと食べたいと言わんばかりに鼻先をクンクンと寄せ狙っていた。
「ほら、ついてる」
「……えっ?」
「ふふっ、そういうところ変わらないね? 昔の可愛い瀬菜のままだ」
口の端に付いていたらしいソースを悠斗はそう言いながら指先で拭うと、そのままペロリと舐め取った。
「……悠斗も……そういうところ、変わってない」
「俺はなにも変わっていないよ。ずっと……ね?」
ふわっと微笑む優しい笑顔。足の先から頭の天辺まで、湯気が立ちそうになってしまう。火照る顔を逸し、ごまかすようにパクリとハンバーグを口にする。
美味しい手料理にほんわかする空気。以前あたり前に過ごしていた日常に、尊さをひしひしと感じる自分。でもやっぱり気恥ずかしい。
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