王子×悪戯戯曲

第24幕 甘い誘惑と苦い後悔

24

　テーブルには温かいお茶が湯気を立てている。
　ひと息つくと実千流がカップを置き、コホンと咳払いをしてから話を進めてくれた。

「俺がおかしいと思ったのは、瀬菜が十王君と初めてしちゃったときの話。これは多分、俺しか気付かない。ズバリ違和感だ。瀬菜は『柔らかかった』って言っていた。つまりどういうことか、説明してくれるよね？」

　実千流は不敵に微笑むと、続きを話せと無言で玉夫に視線を移した。

「はいはい。言いますよ。……あの日は酒に強い瀬菜ちゃんが面白いぐらいに酔っ払ってくれて、最初は手は出すつもりはなかった。けど……普段ツンツンしてる癖に、ヘラヘラ笑って可愛いのなんの。一度寝たら元カレのこと諦めるかもだし、チャンス到来？　みたいな。まっ、……取り敢えず、口で抜いてもらった」

　ニヤリと笑いながら口の前で、指を輪にしてシコシコする玉夫に、俺と実千流は紅くなり、悠斗と由良りんは玉夫にガンを飛ばしながら冷たいオーラを発していた。
　二人がいつ爆発するかと気がきではなかったのか、実千流は玉夫に忠告をする。

「えっと……十王君、二人に挑発はなるべくしないで、簡潔に頼むよ。君も痛い思いはしたくないよね？」
「フッ、少しぐらい思い知れっての。そのあとは……瀬菜ちゃんにゲロ吐かれて、未遂に終わったけど」

　シレッと事実を口にした玉夫に、俺は思わず立ち上がり目を広げ固まってしまう。

　未遂……ということは、俺は玉夫と……。

「──ッでも！　俺、身体中キスマークいっぱいだったし、お尻柔らかかったし、それから……えっと……変なヌメヌメがお尻に……」
「それは捏造した。それっぽくローションでね。流石に具合悪い瀬菜ちゃんを無理矢理抱くのはできないっしょ。けど瀬菜ちゃん鈍感だから、あっさり信じてくれちゃって……本当、可愛いよね♡」

　ふにゃりと力が抜け、ソファーにぽすんと腰が落ち呆然としてしまう。優しいのか酷いのか……玉夫に怒りを感じてもいいはずなのに、それ以上に安心している自分がいた。


　セックスしたあとは必ずお尻に違和感がある。それは異物を飲み込んだことで発生する挟まったままの感触。受け入れたことがある人間だけが知っている事実。
　二年間お尻を慰めるようなことなどしていなかった。今日、悠斗に抱かれて久々に感じたが、俺の身体はすっかりそのことを忘れていた。

「実千流……さっきのごめんって……」
「はははっ、ちょこっとみんなに相談したかな～♪　瀬菜の様子、ここのところ怪しかったし。瀬菜から酔った日のこと聞いたとき、なーんか変だなって引っかかってて」
「実千流ちゃんが話してくれなかったら、俺も気づかなかった。今日瀬菜に会ったのは本当に偶然だけど、この間からみんな色々探っていたんだ。瀬菜から真相聞くのには苦労したけどね？」
「本当に、ヤナはお人好しだからよ。こんな奴でも庇うだろ？　久々にヤナに会ったとき、コイツが狙ってんの露骨に見えていたしな」
「よく言うな由良、そりゃお前もだろ。だいたいこの数年間、瀬菜ちゃんに手を差し伸べてこなかったお前らが、今さら大きな口叩くなよ。俺はずっと見ていた……シンドそうに、それでも精一杯真っ直ぐに、こんな細い身体で……好きになるなってほうが無理な相談だ」

　玉夫は俺から視線を外すと、砕けた口調から真摯にボソリと「騙して悪かった」と謝罪を口にしていた。