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第24幕 甘い誘惑と苦い後悔
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行きたくなどない。けれど、どうしても行かなければならないのだ。本当に大切な人は目の前に居るのに、自ら触れることさえ許されない。これは悠斗を待てず、自分の気持ちを裏切ったことへの罰なのだから。
カップをギュッと握り、汚れてしまった自分のような黒い液体に視線を落としていると、影がかかり頭上から声が落ちてきた。
「ねぇ、瀬菜。俺、ひとつ大切なことをまだ言っていなかった」
悠斗は俺の前で膝をつきカップをテーブルに置くと、俺の手を包み微笑んだ。
「瀬菜がくれたメッセージカードのサヨナラには、ただいまって言うのが正解?」
スッと指先に差し込まれたシルバーのリング。痩せた俺の指に今は少し緩いようだ。悠斗はリングをクルクル回し、クスッと笑い困った顔でその上にキスをする。
悠斗が日本を立つ日の朝、由良りんに頼んで渡してもらった茶色の袋の中に入れたシルバーリング。最後に見たときよりもキラキラと光っている。ほかに入れたものは、バラバラに散らばってしまったブレスレットの欠片と、一枚の名刺大のメッセージカード。何度も考え何度も書き直して入れたそれには、ただひと言『サヨナラ』とだけ綴っていた。
サヨナラは決別を意味するもの。けれど悠斗は決別とは真逆のことを言い、さらには俺の指に指輪までつけてきたのだ。
「断れない理由が必要なら、俺が理由を作ってあげる」
悠斗の行動を呆然と見つめる俺は、今どんな顔をしているのだろうか。
「それと、浮気したお仕置きしなきゃね?」
浮気という言葉にビクッと身体が震える。これでは浮気に浮気をさらに重ねることになってしまう。
悠斗の手を撥ね退けると、部屋を出ようと立ち上がる。
「俺は今、菊夫と付き合ってる! 悠斗、お前とは別れたんだ! ユウッ! 帰るぞッ!」
大人しく日向ぼっこをしているユウを呼びつけると、ピクッと反応を示すものの狸寝入りをしている。
そんな俺たちのやり取りを、クスクスと笑う悠斗は、俺の手首を掴むと強く握りしめてきた。笑っていて笑ってない笑顔。久しぶりに見る表情でも、身体は覚えているのか警戒するように身体が強張る。
「クスッ……ユウ……ね? ブレスレットの欠片、ひとつ足りないと思っていたけど、まさか首輪のチャームにしていたなんてね。別れた相手からの贈り物、まだ身近に持っているなんて未練がないとは言わせないよ?」
「──そんなのッないよッ! 離せッ!」
「全然説得力ないよ瀬菜。そんなにアイツのところに行きたい?」
「悠斗には関係ないッ‼︎」
「ふーん。関係なら今から作るよ」
「なんだよそれ! さっきから勝手なことばかり言うなよ!」
「勝手? おかしいな……勝手に終わらせたのは瀬菜でしょ? 俺は瀬菜になにも伝えられていない。現実から逃げたのは瀬菜だよ。それなのに……アイツのところになんて絶対に行かせない」
優しい笑顔は歪められ、強い視線で射貫かれる。ギリリと掴まれる手首が軋み、逃げることは叶わなかった。
カップをギュッと握り、汚れてしまった自分のような黒い液体に視線を落としていると、影がかかり頭上から声が落ちてきた。
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スッと指先に差し込まれたシルバーのリング。痩せた俺の指に今は少し緩いようだ。悠斗はリングをクルクル回し、クスッと笑い困った顔でその上にキスをする。
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サヨナラは決別を意味するもの。けれど悠斗は決別とは真逆のことを言い、さらには俺の指に指輪までつけてきたのだ。
「断れない理由が必要なら、俺が理由を作ってあげる」
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「勝手? おかしいな……勝手に終わらせたのは瀬菜でしょ? 俺は瀬菜になにも伝えられていない。現実から逃げたのは瀬菜だよ。それなのに……アイツのところになんて絶対に行かせない」
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