653 / 716
第24幕 甘い誘惑と苦い後悔
12
しおりを挟む
ひとりになると実千流に連絡を入れた。実千流はすぐにやって来て俺の状況に驚いていた。
「これ、頼まれた氷。何事かと思ったよ。足どうしたの?」
「今日、悠斗に会ったんだ。急だったし混乱してて……走って逃げたらこうなった。玉夫は一時帰国だろうって……実千流はなにか知ってる?」
「ふーん。氷よりもそっちが本命か。残念だけど、俺はなにも知らない」
実千流なら環樹先輩経由でなにか聞いているかもしれないと思っていたが、空振りに終わってしまった。
「こら、なに泣きそうになってんの。俺も探ってみるけど、連絡してみたら? 番号教えるよ?」
「……できないよ」
「できないって、気にしている口がよく言うよ。それに、いつまでも逃げてらんないじゃん」
「……俺、玉夫と付き合ってるから」
「あー、例のごっこでしょ?」
「違うんだ……二ヶ月ぐらい前から正式に付き合ってる」
俺の言葉に実千流は声を詰まらせ、目を見開いていた。
「言い訳にしかならないけど、俺酔っ払って玉夫と寝たみたいで……」
「瀬菜、俺言ったよね? いっときの感情に流されるなって。寝たのはもう仕方ないにしても、それでなんで付き合ってんの! 瀬菜は誰か好きなの⁉︎」
実千流の声が穏やかなものから、怒気を帯びたものに変わっていく。呆れられるのも無理はない。
「そんなの聞かなくても分かっているだろ? けど玉夫にも申し訳なくて。玉夫の気持ち知っちゃったら、無責任にできなかったんだ」
項垂れる俺の隣から、深いため息が聞こえてくる。実千流は震える俺の手を握りしめると、声を抑えながら呟いた。
「……瀬菜は経験少な過ぎ。俺も言えるほど経験ある訳じゃないけどさ。妊娠させた訳じゃないし、酔った勢いでなんてよくある話だよ。いちいち寝た相手のこと気にしてたらキリがない。それに心ここに非ずで付き合うほうが無責任でよっぽど酷いと思うよ? まぁ、俺は瀬菜が誰と付き合おうが、幸せならいいけど」
握られた俺の手の甲にもう片方の手のひらを乗せポンポンと叩きながら励ます実千流は、俺を叱りながらも導いてくれる。
「自分がどうしたいのか、もう答えは出てるんでしょ? 他人のことばかり気にしてないで、好きにしてみなよ」
「玉夫に今さらどう言ったら……」
「自業自得! お酒はほどほどにって勉強になったね!」
「──うぅ……ワインだけはもう飲まない。その日のこと覚えていないんだ。朝目覚めたら玉夫のベッドで……」
「普通ちょっとは断片でも残らない?」
「……うん……その、口でしてたの思い出したぐらい……あと、お尻柔らかかったし……」
「はは……そうなんだ。でも……」
実千流は顔を紅くしながら考え込んでいた。「十王君とのことは自分で考えて!」と言うと、話題を切り替えていた。
「それより意外だったのは悠斗さん。絶対瀬菜を追い掛けると思っていたのに」
天井を仰ぎながら呟く実千流に、俺も同じように考えていた。俺の知っている悠斗なら絶対に追い掛けて来る。
興味のないものには時間を費やさないのが悠斗だ。別れた相手のことなどすでに興味のない対象ということなのかもしれない。
「悠斗も二年間で、なにかが変わったんだよ」
「ずいぶん落ち着いてるね」
「へへっ、強がってんだ」
「なら、泣きたいときは俺の胸を貸してあげる。心強い友が居てよかったでしょ♪」
「そうだな……今までごめんな。そんで、ありがとう」
「ばーか、そこはこれからもヨロシク! でしょ?」
クスクスとお互いに笑い合う。
こんなときに冷静にいられるのは実千流のおかげだ。高校の頃は自分がお兄さんみたいだったのに、今では実千流のほうがお兄さんらしい。不安は募るが、受け止めてくれる友人が居るだけで励みになるし前にも進める気がしていた。
「これ、頼まれた氷。何事かと思ったよ。足どうしたの?」
「今日、悠斗に会ったんだ。急だったし混乱してて……走って逃げたらこうなった。玉夫は一時帰国だろうって……実千流はなにか知ってる?」
「ふーん。氷よりもそっちが本命か。残念だけど、俺はなにも知らない」
実千流なら環樹先輩経由でなにか聞いているかもしれないと思っていたが、空振りに終わってしまった。
「こら、なに泣きそうになってんの。俺も探ってみるけど、連絡してみたら? 番号教えるよ?」
「……できないよ」
「できないって、気にしている口がよく言うよ。それに、いつまでも逃げてらんないじゃん」
「……俺、玉夫と付き合ってるから」
「あー、例のごっこでしょ?」
「違うんだ……二ヶ月ぐらい前から正式に付き合ってる」
俺の言葉に実千流は声を詰まらせ、目を見開いていた。
「言い訳にしかならないけど、俺酔っ払って玉夫と寝たみたいで……」
「瀬菜、俺言ったよね? いっときの感情に流されるなって。寝たのはもう仕方ないにしても、それでなんで付き合ってんの! 瀬菜は誰か好きなの⁉︎」
実千流の声が穏やかなものから、怒気を帯びたものに変わっていく。呆れられるのも無理はない。
「そんなの聞かなくても分かっているだろ? けど玉夫にも申し訳なくて。玉夫の気持ち知っちゃったら、無責任にできなかったんだ」
項垂れる俺の隣から、深いため息が聞こえてくる。実千流は震える俺の手を握りしめると、声を抑えながら呟いた。
「……瀬菜は経験少な過ぎ。俺も言えるほど経験ある訳じゃないけどさ。妊娠させた訳じゃないし、酔った勢いでなんてよくある話だよ。いちいち寝た相手のこと気にしてたらキリがない。それに心ここに非ずで付き合うほうが無責任でよっぽど酷いと思うよ? まぁ、俺は瀬菜が誰と付き合おうが、幸せならいいけど」
握られた俺の手の甲にもう片方の手のひらを乗せポンポンと叩きながら励ます実千流は、俺を叱りながらも導いてくれる。
「自分がどうしたいのか、もう答えは出てるんでしょ? 他人のことばかり気にしてないで、好きにしてみなよ」
「玉夫に今さらどう言ったら……」
「自業自得! お酒はほどほどにって勉強になったね!」
「──うぅ……ワインだけはもう飲まない。その日のこと覚えていないんだ。朝目覚めたら玉夫のベッドで……」
「普通ちょっとは断片でも残らない?」
「……うん……その、口でしてたの思い出したぐらい……あと、お尻柔らかかったし……」
「はは……そうなんだ。でも……」
実千流は顔を紅くしながら考え込んでいた。「十王君とのことは自分で考えて!」と言うと、話題を切り替えていた。
「それより意外だったのは悠斗さん。絶対瀬菜を追い掛けると思っていたのに」
天井を仰ぎながら呟く実千流に、俺も同じように考えていた。俺の知っている悠斗なら絶対に追い掛けて来る。
興味のないものには時間を費やさないのが悠斗だ。別れた相手のことなどすでに興味のない対象ということなのかもしれない。
「悠斗も二年間で、なにかが変わったんだよ」
「ずいぶん落ち着いてるね」
「へへっ、強がってんだ」
「なら、泣きたいときは俺の胸を貸してあげる。心強い友が居てよかったでしょ♪」
「そうだな……今までごめんな。そんで、ありがとう」
「ばーか、そこはこれからもヨロシク! でしょ?」
クスクスとお互いに笑い合う。
こんなときに冷静にいられるのは実千流のおかげだ。高校の頃は自分がお兄さんみたいだったのに、今では実千流のほうがお兄さんらしい。不安は募るが、受け止めてくれる友人が居るだけで励みになるし前にも進める気がしていた。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる