王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第24幕 甘い誘惑と苦い後悔

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 ひとりになると実千流に連絡を入れた。実千流はすぐにやって来て俺の状況に驚いていた。

「これ、頼まれた氷。何事かと思ったよ。足どうしたの?」
「今日、悠斗に会ったんだ。急だったし混乱してて……走って逃げたらこうなった。玉夫は一時帰国だろうって……実千流はなにか知ってる?」
「ふーん。氷よりもそっちが本命か。残念だけど、俺はなにも知らない」

 実千流なら環樹先輩経由でなにか聞いているかもしれないと思っていたが、空振りに終わってしまった。

「こら、なに泣きそうになってんの。俺も探ってみるけど、連絡してみたら? 番号教えるよ?」
「……できないよ」
「できないって、気にしている口がよく言うよ。それに、いつまでも逃げてらんないじゃん」
「……俺、玉夫と付き合ってるから」
「あー、例のごっこでしょ?」
「違うんだ……二ヶ月ぐらい前から正式に付き合ってる」

 俺の言葉に実千流は声を詰まらせ、目を見開いていた。

「言い訳にしかならないけど、俺酔っ払って玉夫と寝たみたいで……」
「瀬菜、俺言ったよね? いっときの感情に流されるなって。寝たのはもう仕方ないにしても、それでなんで付き合ってんの! 瀬菜は誰か好きなの⁉︎」

 実千流の声が穏やかなものから、怒気を帯びたものに変わっていく。呆れられるのも無理はない。

「そんなの聞かなくても分かっているだろ? けど玉夫にも申し訳なくて。玉夫の気持ち知っちゃったら、無責任にできなかったんだ」

 項垂れる俺の隣から、深いため息が聞こえてくる。実千流は震える俺の手を握りしめると、声を抑えながら呟いた。

「……瀬菜は経験少な過ぎ。俺も言えるほど経験ある訳じゃないけどさ。妊娠させた訳じゃないし、酔った勢いでなんてよくある話だよ。いちいち寝た相手のこと気にしてたらキリがない。それに心ここに非ずで付き合うほうが無責任でよっぽど酷いと思うよ? まぁ、俺は瀬菜が誰と付き合おうが、幸せならいいけど」

 握られた俺の手の甲にもう片方の手のひらを乗せポンポンと叩きながら励ます実千流は、俺を叱りながらも導いてくれる。

「自分がどうしたいのか、もう答えは出てるんでしょ? 他人のことばかり気にしてないで、好きにしてみなよ」
「玉夫に今さらどう言ったら……」
「自業自得! お酒はほどほどにって勉強になったね!」
「──うぅ……ワインだけはもう飲まない。その日のこと覚えていないんだ。朝目覚めたら玉夫のベッドで……」
「普通ちょっとは断片でも残らない?」
「……うん……その、口でしてたの思い出したぐらい……あと、お尻柔らかかったし……」
「はは……そうなんだ。でも……」

 実千流は顔を紅くしながら考え込んでいた。「十王君とのことは自分で考えて!」と言うと、話題を切り替えていた。

「それより意外だったのは悠斗さん。絶対瀬菜を追い掛けると思っていたのに」

 天井を仰ぎながら呟く実千流に、俺も同じように考えていた。俺の知っている悠斗なら絶対に追い掛けて来る。
 興味のないものには時間を費やさないのが悠斗だ。別れた相手のことなどすでに興味のない対象ということなのかもしれない。

「悠斗も二年間で、なにかが変わったんだよ」
「ずいぶん落ち着いてるね」
「へへっ、強がってんだ」
「なら、泣きたいときは俺の胸を貸してあげる。心強い友が居てよかったでしょ♪」
「そうだな……今までごめんな。そんで、ありがとう」
「ばーか、そこはこれからもヨロシク! でしょ?」

 クスクスとお互いに笑い合う。
 こんなときに冷静にいられるのは実千流のおかげだ。高校の頃は自分がお兄さんみたいだったのに、今では実千流のほうがお兄さんらしい。不安は募るが、受け止めてくれる友人が居るだけで励みになるし前にも進める気がしていた。
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