王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第24幕 甘い誘惑と苦い後悔

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 ガタンッ──!
 ……と、パイプ椅子が倒れる音に、停止していた時間が動き出す。

「──ッ、瀬菜!」
「うわっ! ちょっ、瀬菜ちゃん! 待った!」
「えっ、なに? 私、なにか悪いことした⁉︎」


 気付けば玉夫の静止も聞かず走り出していた。真っ白な頭で目指す先もなくただ走り続けた。

「──ッ、痛っ!」

 履き慣れないパンプスに足を挫くとその場に座り込む。うしろを振り返り気配がないことにホッとすると、痛む足を引き摺りながら物陰に隠れた。
 心臓がバクバクと鳴り耳に響いてくる。胸に手を当て大きく息を吸い込むと、混乱する頭を落ちつかせるようにその場に蹲った。

「なんで……なんでだよ。どうしよう……どうしたらッ」

 咄嗟の時における行動など考えていなかった。ただ漠然とその日まで……と、ひたすらに思いを募らせていただけなのだ。数週間前と今では自分の環境も状況も変化している。
 混乱する中、こちらに向かってくる足音にビクッと肩を竦ませる。息を殺して通り過ぎるのを待つと、小さな声で名前を呼ばれた。

「……瀬菜……ちゃん?」

 呼ばれた声になぜか落胆する自分がいる。ビクビクと怖がっていた癖に、追い掛けて来たのが思い描いていた相手ではなかったからだ。
 玉夫は離れた場所で転がったパンプスを拾い上げると、俺の前に跪いた。

「この靴を落としたのは君だね? シンデレラ」
「……なんだよそれ。──いッ!」
「足、挫いたの? 慌てて走るから……」
「……だって、仕方ないじゃないか。急に目の前にっ! ──っんんッ……ふっんッ」

 口の中ににゅるんと玉夫の舌が転がってくる。強く舌を吸い上げられ目頭が熱くなる。

「……きっと一時帰国しただけだよ。瀬菜ちゃんに会いに来た訳じゃない。現に追いかけて来なかったのがその証拠。瀬菜ちゃんには俺がいる。だから俺を見て……俺だけ……」
「玉夫……ンッ……やっ……んんッ」

 玉夫は幻を見ただけだとでも言うように、また俺の唇を塞ぎ強く抱きしめていた。



 嫌がる俺を玉夫は楽々と抱き上げると救護室に向かった。
 腫れる足首をアイシングされ、テーピングで固定された。以前捻挫をしたときよりも酷く腫れ上がっている。医療教員には一ヶ月は安静にと注意を受けた。

「絵美先輩……驚いていたよな」
「まぁ、平気っしょ。それよか今日は大人しくしてな。送ってく」
「俺、こんなんばっかだな。情けない」
「パンプスにしちゃったの俺だしね。責任ちゃんと取るから」
「待て、ひとりで歩ける……」
「イヤイヤ、パンプス履けないっしょ。駄々言わないの。またチューすっからね♡」

 研究会の部室まで姫抱っこでエスコートされると、着替えを済ませタクシーに乗り込んだ。
 俺を部屋まで送り届けた玉夫はなにか言いたそうにしていたが、ユウの威嚇に近所迷惑になると早々に部屋をあとにした。
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