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第24幕 甘い誘惑と苦い後悔
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しおりを挟む実千流と再会してからは昔のように連絡を取り合っている。実千流を心配させないように、俺からも積極的にメッセージだけでも送るようにしていた。
コンクールも無事終わり、玉夫の作品が写真部門で三位に入賞していた。サークルメンバーも驚きを隠せず、なにかコネでも使ったのではないか……と皆疑うほどだった。
俺の作品は入賞こそしなかったが、一般枠の投票がよかったらしく今年の特例で特別優秀賞をいただいた。異例の賞はほかの入賞作品が掲載される中、小さな枠ではあったがフォト雑誌に掲載され様々な意見が飛び交っていた。その中で一番話題に上がったのは、作品の撮影場所はどこなのか……。ということだった。ひっそり佇む喫茶店は、常連さんの癒やしの場だ。最初は宣伝になるのでは? とも考えもしたが、マスターはきっとそれを望んではいない。だから雑誌のインタビューでも、「探してみてください」とやんわりと交わした。
コンクールにバイト、学業と猛スピードで時間は過ぎていき、短い冬休みは玉夫と実千流に独占され、ほどんどひとりで居ることがなかった。今年の年末年始も里帰りはしなかったが、両親は恒例の海外旅行の帰りにお土産を持ってきたと言いつつアパートに来るなりユウとばかり会話をしていた。
そして新学期を迎え、淡々と日常が過ぎ二月も終わろうとしていた頃、部長に呼び出された俺は猛抗議する事態に巻き込まれていた。
「本当にやるんですか⁉︎」
「ああ、去年いつもの居酒屋で決定しただろ? お前は今さらなにを言っているんだ」
「あれは……酒の席で言ってた冗談ですよね⁉︎ それにコンクールで玉夫だって成績上げた訳だし、十分呼び込みの材料はあるじゃないですか‼︎」
「柳、お前は本当に分かっていない。もちろん十王の作品もお前の作品も宣伝として使わせてもらうつもりだ。だかな! 俺たちには華が必要なんだ! 暗いと世間に言われ続けた研究会も今年で終わりだ! そのためにはお前の犠牲も必要だ。これは部長命令だ。うんうん、そうかそうか、分かってくれたか! よし、それじゃ行って来い! おーい、十王頼んだぞ~」
「ほ~い♡ 了解っす!」
「ちょ、玉夫! 俺を売るのか! この人でなし~~‼︎」
まるでドナドナだ。売買されて向かった先はショッピングモール。俺は今、鏡の前で渡された服を広げていた。柔らかなシフォン生地を両手で握り、大きくため息を吐きだすとリストラされたサラリーマンのように脱落する。そんなことを無駄に繰り返していると試着室の外から声がかかる。
「瀬菜ちゃん着れた~?」
その声にギクッとしながら、なぜ自分かこんなことをしなければいけないのだと苛立ちを感じていた。
「──まっ、まだだっ!」
「えーまだ? 着方が分からないなら着せてあげるよ♡」
「──けっ、結構だ!」
モタモタしていたら玉夫が乱入しかねない。意を決けて服を脱ぎ捨てる。真っ白な肌が鏡に映り、こんなに自分は貧相だっただろうかと苦笑いしてしまう。しばらくまともに鏡など見ていなかったが、もっと肉付きがよく女装をしても違和感がない幼さがあった。けれど今こんな女装したところで男にしか見えないだろう。
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