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第23幕 モノクロ
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今にも溢れてしまいそうな雫を瞳いっぱいに蓄えている姿。身長は俺と同じぐらいだろうか。それでも相変わらず可愛らしく中性的な面持ち。頬を真っ赤にし、眉尻を下げ悲しそうでいて嬉しそうでもある表情。
胸が張り裂けてしまいそうだ。喉がカラカラに渇き、カサついた唇を震わせながらやっとこ言葉にする。
「……実千流……」
ドクドクと心臓がうるさいほど叩かれ、覚束ない足をよろめかせると、壁に背中をぺたんと着地させた。実千流は躊躇なく近づくと、そっと俺を抱きしめ肩を小刻みに揺らしていた。
その頼りない肩を抱きしめたいのに、全身がかじかみ腕を上げられない。
「……ずっと……ずっと……会いたかった……」
嗚咽を抑えた声で実千流が囁く。瞳に溜まる涙を零さないように天井を見上げると、反射する光がチカチカと視界に広がり、スーッと弾けて黒く塗られていった。
「……瀬菜? 瀬菜ッ!」
「──ちょっ、どいて! 瀬菜ちゃん⁉︎ なにがあったの⁉︎」
「きゅっ、急に倒れて、どうしよう……瀬菜!」
「君、知り合い?」
「う、うん……ってぇぇ! お前っ‼︎」
「えっ? なに? てか、話はあとで! 取り敢えずスタッフルームに運ぶから手伝って」
*
温かい……このぬくもりは知っている……。
細いのに柔らかくて……俺の大切な……。
睫毛を震わせながら瞳を開けると、照明を背後に覗き込む実千流の顔が映し出され、ツーと一筋の涙が頬を伝った。
「……実千流……ごめん」
「──馬鹿瀬菜ッ! ごめんじゃないよ」
横たわる俺の手のひらをギュッと両手で包み、ポロポロと涙を零す実千流の姿に、多澤や由良りんにしたような態度はどうしてもとることができなかった。
力の入らない指先で、実千流の手を握り返す。たったそれだけで、実千流は涙ながらに笑顔を見せてくれた。俺も口元を緩め微笑み返すと、か細い声で意志を伝える。
「ちゃんと……あとで謝るよ」
「うんッ……身体平気?」
「怠くて堪らない」
頭がぼんやりとし、気分が悪い。どうやら俺は倒れたようだ。どこかの控室なのか、長椅子に横になっていた。
扉が開き玉夫が俺たちの間に入ると、俺の額に触れてきた。
「うーん、熱もありそうだね。平気って感じじゃないし、タクシー呼んだから病院行こう。部長にも伝えといたから。立てる?」
「……でも、搬出もあるから」
「何言ってんの、身体のほうが優先。二人ぐらい抜けても問題ないって」
「うん……実千流……また改めて連絡──っ」
「ダメッ‼︎」
実千流の大きな声が室内に響いた。
「俺も……行っちゃダメ?」
声は小さく控え目だが、俺のシャツはしっかりと掴まれていた。
「瀬菜の看病……必要でしょ? だから……」
これが実千流だ。
変わらない姿につい甘え、甘やかしてしまう。
「……うん。頼んでもいいのか?」
実千流はコクコクと頷き可愛らしく笑っていた。
病院に行き診断を受けると風邪とのことだった。最近慌ただしかったせいもあり、寝不足と疲労、それから食事を疎かにしていたのが原因だ。薬を飲んで栄養のある食事をし、休養を取るようにと先生に呆れられてしまった。
家に帰り軽く栄養補給をし薬を飲むと、ベッドに押し込まれてしまう。玉夫に実千流とユウのことを頼むと知らぬうちに眠ってしまっていた。
今まで風邪など引いたことがなく薬の効き目がよかったようだ。普段は夜中に何度も目覚める俺だが、今夜は一度も目を覚ますことがなかった。
胸が張り裂けてしまいそうだ。喉がカラカラに渇き、カサついた唇を震わせながらやっとこ言葉にする。
「……実千流……」
ドクドクと心臓がうるさいほど叩かれ、覚束ない足をよろめかせると、壁に背中をぺたんと着地させた。実千流は躊躇なく近づくと、そっと俺を抱きしめ肩を小刻みに揺らしていた。
その頼りない肩を抱きしめたいのに、全身がかじかみ腕を上げられない。
「……ずっと……ずっと……会いたかった……」
嗚咽を抑えた声で実千流が囁く。瞳に溜まる涙を零さないように天井を見上げると、反射する光がチカチカと視界に広がり、スーッと弾けて黒く塗られていった。
「……瀬菜? 瀬菜ッ!」
「──ちょっ、どいて! 瀬菜ちゃん⁉︎ なにがあったの⁉︎」
「きゅっ、急に倒れて、どうしよう……瀬菜!」
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「えっ? なに? てか、話はあとで! 取り敢えずスタッフルームに運ぶから手伝って」
*
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細いのに柔らかくて……俺の大切な……。
睫毛を震わせながら瞳を開けると、照明を背後に覗き込む実千流の顔が映し出され、ツーと一筋の涙が頬を伝った。
「……実千流……ごめん」
「──馬鹿瀬菜ッ! ごめんじゃないよ」
横たわる俺の手のひらをギュッと両手で包み、ポロポロと涙を零す実千流の姿に、多澤や由良りんにしたような態度はどうしてもとることができなかった。
力の入らない指先で、実千流の手を握り返す。たったそれだけで、実千流は涙ながらに笑顔を見せてくれた。俺も口元を緩め微笑み返すと、か細い声で意志を伝える。
「ちゃんと……あとで謝るよ」
「うんッ……身体平気?」
「怠くて堪らない」
頭がぼんやりとし、気分が悪い。どうやら俺は倒れたようだ。どこかの控室なのか、長椅子に横になっていた。
扉が開き玉夫が俺たちの間に入ると、俺の額に触れてきた。
「うーん、熱もありそうだね。平気って感じじゃないし、タクシー呼んだから病院行こう。部長にも伝えといたから。立てる?」
「……でも、搬出もあるから」
「何言ってんの、身体のほうが優先。二人ぐらい抜けても問題ないって」
「うん……実千流……また改めて連絡──っ」
「ダメッ‼︎」
実千流の大きな声が室内に響いた。
「俺も……行っちゃダメ?」
声は小さく控え目だが、俺のシャツはしっかりと掴まれていた。
「瀬菜の看病……必要でしょ? だから……」
これが実千流だ。
変わらない姿につい甘え、甘やかしてしまう。
「……うん。頼んでもいいのか?」
実千流はコクコクと頷き可愛らしく笑っていた。
病院に行き診断を受けると風邪とのことだった。最近慌ただしかったせいもあり、寝不足と疲労、それから食事を疎かにしていたのが原因だ。薬を飲んで栄養のある食事をし、休養を取るようにと先生に呆れられてしまった。
家に帰り軽く栄養補給をし薬を飲むと、ベッドに押し込まれてしまう。玉夫に実千流とユウのことを頼むと知らぬうちに眠ってしまっていた。
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