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第23幕 モノクロ
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「ギャーー‼ なっ、なっお前ッ! この作品はどういうことだ!」
「どうと言われても? よく撮れてるっしょ?」
「こんな! 俺にひと言もッ!」
「だから言ったじゃない。燃やされるからって。今さら穴開けられないし、諦めた諦めた♡」
玉夫は悪びれもせず、ニコリと笑顔を振りまいている。俺は俺で火が吹き出しそうなほど顔を真っ赤に染めていた。
その作品は俺にフォーカスを合わせたものだった。四枚のパネルに映し出された俺は、最初は風景に紛れ小さく、二枚目、三枚目と徐々に被写体が大きくなっていく。四枚目のパネルに映された俺は、瞼を閉じうっすら目尻に涙を溜めていた。
「いつ……いつ撮った!」
「さぁ? 結構撮ったからな~」
「──ッけっ、けっ~~‼ 全部だ! 全部削除だ‼」
「それは……瀬菜ちゃんの頼みでも聞けないよ。まっ、条件次第では消さないこともないけど♡」
パチンとウインクをしニヤリと口角を上げる玉夫に、俺はただただ言葉を飲み込みフルフルと震えることしかできなかった。
***
なんと気が重いのだろうか……。ほかのサークル部員は自身の作品評価に空元気というのに、俺は玉夫の作品のせいで魂が半分抜けていた。物静かで無表情な俺も、今日はことのほかどんよりと重いオーラを纏っていた。
自分が居ない場所で鑑賞されるのはまだいい。けれど、展示会のスタッフとして駆り出されると、やはり視線を感じざる終えないのだ。
頭痛い……お腹もチクチクする……。
小学生が嫌なことがあるとお腹が痛くなるように、俺もこの日は朝から具合が悪かった。元はといえば玉夫のせいだが、迷惑はかけられないと午後から展示会場に向かった。
平日は比較的空いている会場も、休日になると混雑する。公園の中という立地と無料で入場できると相まって、暇潰しやほかの美術展に来たついでに立ち寄る人が多くみられた。
最終日の今日は特に混雑し、人の流れが途切れなかった。こんなに人がいっぱいの場所に居ること自体久し振りで、一時間ほどしか経っていないというのに疲労困憊だ。
「瀬菜ちゃん、お疲れ。うっわ~っ、人凄いね」
「ああ、おかげで俺は、気が休まらない。お前マスクを買って来い」
「風邪でも引いた? そういや、顔色悪いね。どれどれ……」
コツンと額で熱を計ろうとする玉夫を跳ね除ける。
「違うわ……お前のあの写真のせいだろが。ほら、早く行って来い」
「うーん、ちょっと熱くない? 無理しちゃダメだよ? 取り敢えず予防に必要だし行って来る」
残り数時間で終わる展示会だったが、あまりに注目されてしまい気疲れしていた。そもそも玉夫の作品のせいで、俺が注目される事態になったのだ。パシリに使うぐらい許されるだろう。
会場内は人が増える一方で、熱気が籠もり頭がクラクラしてしまう。吐き気を感じながら、壁際で人の流れを眺めていると「すみません……聞きたいことが」と呼ばれ振り向いた。
「はい、伺いま──」
視線が合った瞬間に互いに目を丸め、時間が止まった世界が広がる。ザワザワとした音が途切れ、まるで水中にでも居るかのように耳に靄がかかる。
「──ッ、瀬菜……」
「どうと言われても? よく撮れてるっしょ?」
「こんな! 俺にひと言もッ!」
「だから言ったじゃない。燃やされるからって。今さら穴開けられないし、諦めた諦めた♡」
玉夫は悪びれもせず、ニコリと笑顔を振りまいている。俺は俺で火が吹き出しそうなほど顔を真っ赤に染めていた。
その作品は俺にフォーカスを合わせたものだった。四枚のパネルに映し出された俺は、最初は風景に紛れ小さく、二枚目、三枚目と徐々に被写体が大きくなっていく。四枚目のパネルに映された俺は、瞼を閉じうっすら目尻に涙を溜めていた。
「いつ……いつ撮った!」
「さぁ? 結構撮ったからな~」
「──ッけっ、けっ~~‼ 全部だ! 全部削除だ‼」
「それは……瀬菜ちゃんの頼みでも聞けないよ。まっ、条件次第では消さないこともないけど♡」
パチンとウインクをしニヤリと口角を上げる玉夫に、俺はただただ言葉を飲み込みフルフルと震えることしかできなかった。
***
なんと気が重いのだろうか……。ほかのサークル部員は自身の作品評価に空元気というのに、俺は玉夫の作品のせいで魂が半分抜けていた。物静かで無表情な俺も、今日はことのほかどんよりと重いオーラを纏っていた。
自分が居ない場所で鑑賞されるのはまだいい。けれど、展示会のスタッフとして駆り出されると、やはり視線を感じざる終えないのだ。
頭痛い……お腹もチクチクする……。
小学生が嫌なことがあるとお腹が痛くなるように、俺もこの日は朝から具合が悪かった。元はといえば玉夫のせいだが、迷惑はかけられないと午後から展示会場に向かった。
平日は比較的空いている会場も、休日になると混雑する。公園の中という立地と無料で入場できると相まって、暇潰しやほかの美術展に来たついでに立ち寄る人が多くみられた。
最終日の今日は特に混雑し、人の流れが途切れなかった。こんなに人がいっぱいの場所に居ること自体久し振りで、一時間ほどしか経っていないというのに疲労困憊だ。
「瀬菜ちゃん、お疲れ。うっわ~っ、人凄いね」
「ああ、おかげで俺は、気が休まらない。お前マスクを買って来い」
「風邪でも引いた? そういや、顔色悪いね。どれどれ……」
コツンと額で熱を計ろうとする玉夫を跳ね除ける。
「違うわ……お前のあの写真のせいだろが。ほら、早く行って来い」
「うーん、ちょっと熱くない? 無理しちゃダメだよ? 取り敢えず予防に必要だし行って来る」
残り数時間で終わる展示会だったが、あまりに注目されてしまい気疲れしていた。そもそも玉夫の作品のせいで、俺が注目される事態になったのだ。パシリに使うぐらい許されるだろう。
会場内は人が増える一方で、熱気が籠もり頭がクラクラしてしまう。吐き気を感じながら、壁際で人の流れを眺めていると「すみません……聞きたいことが」と呼ばれ振り向いた。
「はい、伺いま──」
視線が合った瞬間に互いに目を丸め、時間が止まった世界が広がる。ザワザワとした音が途切れ、まるで水中にでも居るかのように耳に靄がかかる。
「──ッ、瀬菜……」
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