636 / 716
第23幕 モノクロ
07
しおりを挟む
自分では分かっていなかったことを指摘され、的を得ている指摘に焦りを感じる。否定するように収めた手を引こうとすれば、ギュッと握りしめられ逃れることが叶わなかった。
指先一本一本に絡まる玉夫の指先。スーッと擽られ撫でられると、ビクンと身体に電流が走る。すっかり冷えていたはずの体温が上昇し、顔中に熱が集まっていく。
「瀬菜ちゃんの手、小さいね。それに冷え性かな? 遠くより……こうして近くで触れられたほうが、幸せって思わない? 俺ならいつでも温めてあげられるよ?」
ポケットから手を出すと、玉夫は俺の指先にそっとキスを落とす。離れた唇から吐息が溢れ、空気が肌に触れ温まっていく。
「ね? 温かいでしょ?」
「──ッ、玉夫っ‼」
引き抜いた手のひらを隠すように背後に回し、玉夫の視線からも逃れる。
「フッ……なーんてね。ドキッとした?」
「……冗談はやめろよ」
「悪かったよ。まぁ明日早いし、ゆっくり休みな」
クシャリと髪を撫でられ、背中をポンっと押される。前によろめくのを踏ん張ると、窺うように振り向き一応確認した。
「泊まっていかねぇの?」
俺の家からのほうが断然大学には近い。明日は早い時間に大学に行き、会場まで作品を持参し搬入しなければならない。泊まったほうが眠る時間は確保できる。
そう思って言った言葉に、不意をつかれたような顔でキョトンとする玉夫。
「それこそ冗談でしょ? 帰るよ。服の変えもないし、瀬菜ちゃんのベッドじゃ狭くて寝られないよ」
「アホ。誰が一緒に寝ると言った。まぁ明日寝坊するなよ? 気を付けて帰れよ」
「うん、おやすみ……」
「おやすみ!」
階段を登り見下ろすと、玉夫は手を小さく振りながらニコニコとしていた。俺も小さく手を上げると、家の中へと入っていった。
「……ったく……無防備で鈍感かよ。危ないねぇー。こりゃ時間がかかりそうだ……。時間はたっぷりあるし、慎重に……かな」
上げた手を髪に差し込み掬い上げる玉夫は、クスクスと笑いながら暗闇の中へ消えていった。
***
毎年行われているコンクール。作品は写真だけに留まらず、絵画やグラフィクなど美術作品に関わるものであればなんでも出展可能だ。大学生のみが参加を許される一大イベント。
去年も参加はしたが、写真研究会のメンバーで入賞した者はいなかった。難関で精鋭作品が集まる展示コンクールなのだ。
入賞ものなら研究会にも支援金が大学から入り、設備投資もできる訳だが、世の中そう上手くはいかないものだ。一般公開をし、プロの投票と一般投票で選考される仕組みだ。
大賞を取った学生は、プロへの転身も夢ではなく、大学側も知名度を上げるために力を注いでいる。
開催期間は一週間と長く、この時期のサークルメンバーは皆、胃に穴が開きそうになるほど気がきではない一週間を強いられる。
大学から展示会場に搬入し、指定の展示ブースに持ち込んだ作品を壁に掛ける前に床に並べた。作品の雰囲気とバランスを取りながら、部長と副部長が指示を出していく。
「十王のは最初にしよう。そのほうが全体のバランスがとれて映える。柳のは真ん中に……それから……」
「絵美ちゃんのは最後がよくない?」
二人が話し合い指示を出し、それぞれが並び替えをしていく。順序も魅せるうちの一つなのだ。自分の作品を置き終えると、もたつく玉夫のヘルプに入って俺はありえないほど大きな悲鳴を上げた。
指先一本一本に絡まる玉夫の指先。スーッと擽られ撫でられると、ビクンと身体に電流が走る。すっかり冷えていたはずの体温が上昇し、顔中に熱が集まっていく。
「瀬菜ちゃんの手、小さいね。それに冷え性かな? 遠くより……こうして近くで触れられたほうが、幸せって思わない? 俺ならいつでも温めてあげられるよ?」
ポケットから手を出すと、玉夫は俺の指先にそっとキスを落とす。離れた唇から吐息が溢れ、空気が肌に触れ温まっていく。
「ね? 温かいでしょ?」
「──ッ、玉夫っ‼」
引き抜いた手のひらを隠すように背後に回し、玉夫の視線からも逃れる。
「フッ……なーんてね。ドキッとした?」
「……冗談はやめろよ」
「悪かったよ。まぁ明日早いし、ゆっくり休みな」
クシャリと髪を撫でられ、背中をポンっと押される。前によろめくのを踏ん張ると、窺うように振り向き一応確認した。
「泊まっていかねぇの?」
俺の家からのほうが断然大学には近い。明日は早い時間に大学に行き、会場まで作品を持参し搬入しなければならない。泊まったほうが眠る時間は確保できる。
そう思って言った言葉に、不意をつかれたような顔でキョトンとする玉夫。
「それこそ冗談でしょ? 帰るよ。服の変えもないし、瀬菜ちゃんのベッドじゃ狭くて寝られないよ」
「アホ。誰が一緒に寝ると言った。まぁ明日寝坊するなよ? 気を付けて帰れよ」
「うん、おやすみ……」
「おやすみ!」
階段を登り見下ろすと、玉夫は手を小さく振りながらニコニコとしていた。俺も小さく手を上げると、家の中へと入っていった。
「……ったく……無防備で鈍感かよ。危ないねぇー。こりゃ時間がかかりそうだ……。時間はたっぷりあるし、慎重に……かな」
上げた手を髪に差し込み掬い上げる玉夫は、クスクスと笑いながら暗闇の中へ消えていった。
***
毎年行われているコンクール。作品は写真だけに留まらず、絵画やグラフィクなど美術作品に関わるものであればなんでも出展可能だ。大学生のみが参加を許される一大イベント。
去年も参加はしたが、写真研究会のメンバーで入賞した者はいなかった。難関で精鋭作品が集まる展示コンクールなのだ。
入賞ものなら研究会にも支援金が大学から入り、設備投資もできる訳だが、世の中そう上手くはいかないものだ。一般公開をし、プロの投票と一般投票で選考される仕組みだ。
大賞を取った学生は、プロへの転身も夢ではなく、大学側も知名度を上げるために力を注いでいる。
開催期間は一週間と長く、この時期のサークルメンバーは皆、胃に穴が開きそうになるほど気がきではない一週間を強いられる。
大学から展示会場に搬入し、指定の展示ブースに持ち込んだ作品を壁に掛ける前に床に並べた。作品の雰囲気とバランスを取りながら、部長と副部長が指示を出していく。
「十王のは最初にしよう。そのほうが全体のバランスがとれて映える。柳のは真ん中に……それから……」
「絵美ちゃんのは最後がよくない?」
二人が話し合い指示を出し、それぞれが並び替えをしていく。順序も魅せるうちの一つなのだ。自分の作品を置き終えると、もたつく玉夫のヘルプに入って俺はありえないほど大きな悲鳴を上げた。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさんでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる