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第23幕 モノクロ
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「あら、帰られたの? あの子大丈夫かしら?」
「あぁ、来たときよりも、少しはましな顔になっとった。そのうちまたひょっこり来るじゃろ。できれば二人でまた来てくれたら嬉しいんじゃが。悠斗君は今頃どうしておるかの……」
飛行機がライトを点滅させながら、雲の中に消えていく。どこに向かっているのか、誰を乗せているのか。
雨雲が覆う空が好きになった。雨が降るともっと好きになった。
駅に向かいながら、青と紅のグラデーションの夕暮れの空が、素直に綺麗だと久々に感じた瞬間だった。
***
コンクールの作品は提出期限ギリギリだ。グラフィクソフトを未だに上手く使えず、玉夫のレクチャーを受けながら苦戦していた。
「このボタンでいいの?」
「うんうん、それでいいよ。あとはこれで色彩とかも変えられるよ」
「玉夫の癖に機械詳しいな」
「癖にってなにさ。それより、ここってどこなの? 今度連れてってよ」
「イヤ……って、ちょっ、お前顔……近い」
特別な場所になど連れて行けるか……と、抗議しようと顔を横に向ければ、案外間近に玉夫がおり驚く。
「フッ……意識してくれてんの?」
「……違う」
「ふーん。この写真さ、どんな気持ちで撮ったの?」
「どんなって……いつも通りだよ。どこかおかしいか?」
「んー……押し倒したくなる。そんでもって、滅茶苦茶に甘やかしたい」
「はぁ? 意味分かんねぇ。あとは自分でやるからあっち行ってろ」
シッシと冷たくあしらうと、ケラケラ笑いながら玉夫が離れていった。
モニターに映る写真を眺めると、至って普通の風景写真だと思う。押し倒したくなるなど、ずいぶん欲求不満ではないかと呆れてしまう。
印刷にかけパネルに貼りつけると、裏面に提出用紙を添えた。作品は合計で四枚。この写真がいいか悪いかなど、素人の自分には正直よく分からない。
「おっ、できたか? どれ、見せてみろ」
ゴクリと唾を飲み込み部長のチェックを見守ると、真剣な面持ちから笑顔になり、何度かうんうんと声を出しながら頷いていた。
「……あの、ダメですかね?」
「あぁ、いや……魅入ってしまったよ。柳らしくていいな。お前、なんかあったのか?」
「えっ?」
「いや、こう……なんていうかな、気持ちがさ……絡み合って、最後に穏やかになった感じがするよ。この四枚は起承転結で、物語みたいに繋がってる気がするぞ?」
部長がジェスチャーを交えながら、大袈裟に感想を言ってくれた。
「……そうですか? そんな風に言われるとは思っていませんでした。玉夫はこれを見て不謹慎なこと言ったんですよ?」
「不謹慎? 十王は見る目がまだまだだな! もっと自信持て。まぁ、なんだ……相変わらず切ないけどな。よしっ! パァ~ッと飲みにでも行くか!」
「よしって……なんの脈絡もないですよね?」
俺の背中をバシバシ叩きながら、ゲラゲラと笑う部長は景気付けだとばかりに誘ってくる。
「えっ、なになに⁉ 俺も参加する~」
「十王も行くってよ! ほら片付けた片付けた!」
「だから、その……行かないって……」
俺の意思など関係ないと、俺の鞄を部長が持ち、玉夫に腕を引かれながら部室をあとにする。
その部室の片隅で真新しい印刷の匂いを漂わせたパネルが、ひっそりと誰かを待つように立て掛けられていた。
「あぁ、来たときよりも、少しはましな顔になっとった。そのうちまたひょっこり来るじゃろ。できれば二人でまた来てくれたら嬉しいんじゃが。悠斗君は今頃どうしておるかの……」
飛行機がライトを点滅させながら、雲の中に消えていく。どこに向かっているのか、誰を乗せているのか。
雨雲が覆う空が好きになった。雨が降るともっと好きになった。
駅に向かいながら、青と紅のグラデーションの夕暮れの空が、素直に綺麗だと久々に感じた瞬間だった。
***
コンクールの作品は提出期限ギリギリだ。グラフィクソフトを未だに上手く使えず、玉夫のレクチャーを受けながら苦戦していた。
「このボタンでいいの?」
「うんうん、それでいいよ。あとはこれで色彩とかも変えられるよ」
「玉夫の癖に機械詳しいな」
「癖にってなにさ。それより、ここってどこなの? 今度連れてってよ」
「イヤ……って、ちょっ、お前顔……近い」
特別な場所になど連れて行けるか……と、抗議しようと顔を横に向ければ、案外間近に玉夫がおり驚く。
「フッ……意識してくれてんの?」
「……違う」
「ふーん。この写真さ、どんな気持ちで撮ったの?」
「どんなって……いつも通りだよ。どこかおかしいか?」
「んー……押し倒したくなる。そんでもって、滅茶苦茶に甘やかしたい」
「はぁ? 意味分かんねぇ。あとは自分でやるからあっち行ってろ」
シッシと冷たくあしらうと、ケラケラ笑いながら玉夫が離れていった。
モニターに映る写真を眺めると、至って普通の風景写真だと思う。押し倒したくなるなど、ずいぶん欲求不満ではないかと呆れてしまう。
印刷にかけパネルに貼りつけると、裏面に提出用紙を添えた。作品は合計で四枚。この写真がいいか悪いかなど、素人の自分には正直よく分からない。
「おっ、できたか? どれ、見せてみろ」
ゴクリと唾を飲み込み部長のチェックを見守ると、真剣な面持ちから笑顔になり、何度かうんうんと声を出しながら頷いていた。
「……あの、ダメですかね?」
「あぁ、いや……魅入ってしまったよ。柳らしくていいな。お前、なんかあったのか?」
「えっ?」
「いや、こう……なんていうかな、気持ちがさ……絡み合って、最後に穏やかになった感じがするよ。この四枚は起承転結で、物語みたいに繋がってる気がするぞ?」
部長がジェスチャーを交えながら、大袈裟に感想を言ってくれた。
「……そうですか? そんな風に言われるとは思っていませんでした。玉夫はこれを見て不謹慎なこと言ったんですよ?」
「不謹慎? 十王は見る目がまだまだだな! もっと自信持て。まぁ、なんだ……相変わらず切ないけどな。よしっ! パァ~ッと飲みにでも行くか!」
「よしって……なんの脈絡もないですよね?」
俺の背中をバシバシ叩きながら、ゲラゲラと笑う部長は景気付けだとばかりに誘ってくる。
「えっ、なになに⁉ 俺も参加する~」
「十王も行くってよ! ほら片付けた片付けた!」
「だから、その……行かないって……」
俺の意思など関係ないと、俺の鞄を部長が持ち、玉夫に腕を引かれながら部室をあとにする。
その部室の片隅で真新しい印刷の匂いを漂わせたパネルが、ひっそりと誰かを待つように立て掛けられていた。
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