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第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
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久し振りに会った由良りんは、初めて出会った頃と同じように少し長めの髪が金髪になっていたが、それ以外は変わった様子はなかった。俯く俺に由良りんは、穏やかで宥めるようなゆったりとした声で囁き掛けてくる。その優しい響きに目頭が熱くなってしまう。
「ずっと心配だったんだ。あの日、お前をひとりにさせるんじゃなかったって……ずっと、後悔して……」
謝罪するように言う由良りんに、ニコリと笑いかける。
「由良りん。俺はこの通り元気だ。今はほら、コイツと付き合ってんだ。だから由良りんが後悔することなんてないよ」
玉夫の腕に抱きつき、幸せだから問題ないとスラスラと言葉にする自分に鳥肌が立ちそうだ。
由良りんは再会したとき以上に驚きに満ちた顔で言葉を詰まらせていた。そんな由良りんとは対照的に、多澤は鼻で笑い追求してくる。
「お前、本気で言ってんのか?」
「人と付き合うのに理由が必要か? 俺は菊夫が好きだ。それだけで十分だろ」
「嘘だろ? 噂知ってんだろ? だれかれ構わず寝るような男、ヤナには合わない! 昔のこと覚えていないのか? 騙されて痛い思いすんのはヤナだぞ!」
由良りんの言葉に心が凍りつく。それから一気に沸点が上がっていく。
「騙す? ははっ、よくそんなセリフ言えるな。散々俺をみんなで騙していたのに、菊夫のことは非難するのか? 菊夫は正直でいいやつだ。付き合ってる俺が一番分かっているよ。今の菊夫のこと知らないくせに、噂だけで判断すほうがよっぽど酷くないか? そんなに俺には合わないって言うなら、由良りんが俺と付き合ってくれるの?」
一気に言葉を吐き出すと、スッキリとした気分のあとに罪悪感が湧いてくる。玉夫を非難されて腹が立ったのも事実。けれど同じようにみんなを非難する自分が、卑劣で汚い人間に思えてくる。
「付き合うって……そんなこと、俺は……ユウを裏切れない」
「裏切りってなに? 悠斗とはとっくの昔に終わってる。あれからもう二年になるんだぞ。なぜあいつにお伺い立てなきゃならないんだ。誰と付き合おうが俺の勝手だろ⁉︎」
ドンッ……とテーブルを拳で叩き、はぁはぁと肩で息を吸い込む。
俺の怒気など子供の駄々だと言わんばかりに多澤は淡々と言った。
「瀬菜、怒んな怒んな。この間言ってた恋人ってのが、ここに居る十王ってのを信じてもいい」
「──っおい! 雅ッ! 俺は納得できねぇぞ! あいつとの約束忘れたのかよ!」
「まぁ、待てよカナ」
無表情を繕うのが苦しい。俺の知らない二人の掛け合い。数年前の二人はこんな風に会話をしていただろうか。
その姿に気を取られていると、多澤は俺の心情を壊すかのような提案をしてきた。
「瀬菜、俺もカナもハイそうですかって、簡単に納得はできねぇ。お前、昔から逃げるの得意だっただろ? だから証拠……見せろよ」
目を細めながら多澤が追い打ちを掛けてくる。
恋人同士の証拠など、人に見せるものでも提出できるものでもない。けれど多澤は探るように無茶を押しつけ俺を逃してはくれない。
「あのよ~、さっきから黙って聞いてたけど? 人の恋愛事に、第三者のお前らがなんで絡んでんの。みんなで熱くなっちゃって、見てられないねー。えっと、恋人同志の証拠だったっけ?」
グッと肩を引き寄せられると、玉夫は俺の顎を持ち上げ唇に軽くキスを落とした。探るように瞳が合わさるとフッと笑い掛けられ、また静かにキスを落とされる。
「ずっと心配だったんだ。あの日、お前をひとりにさせるんじゃなかったって……ずっと、後悔して……」
謝罪するように言う由良りんに、ニコリと笑いかける。
「由良りん。俺はこの通り元気だ。今はほら、コイツと付き合ってんだ。だから由良りんが後悔することなんてないよ」
玉夫の腕に抱きつき、幸せだから問題ないとスラスラと言葉にする自分に鳥肌が立ちそうだ。
由良りんは再会したとき以上に驚きに満ちた顔で言葉を詰まらせていた。そんな由良りんとは対照的に、多澤は鼻で笑い追求してくる。
「お前、本気で言ってんのか?」
「人と付き合うのに理由が必要か? 俺は菊夫が好きだ。それだけで十分だろ」
「嘘だろ? 噂知ってんだろ? だれかれ構わず寝るような男、ヤナには合わない! 昔のこと覚えていないのか? 騙されて痛い思いすんのはヤナだぞ!」
由良りんの言葉に心が凍りつく。それから一気に沸点が上がっていく。
「騙す? ははっ、よくそんなセリフ言えるな。散々俺をみんなで騙していたのに、菊夫のことは非難するのか? 菊夫は正直でいいやつだ。付き合ってる俺が一番分かっているよ。今の菊夫のこと知らないくせに、噂だけで判断すほうがよっぽど酷くないか? そんなに俺には合わないって言うなら、由良りんが俺と付き合ってくれるの?」
一気に言葉を吐き出すと、スッキリとした気分のあとに罪悪感が湧いてくる。玉夫を非難されて腹が立ったのも事実。けれど同じようにみんなを非難する自分が、卑劣で汚い人間に思えてくる。
「付き合うって……そんなこと、俺は……ユウを裏切れない」
「裏切りってなに? 悠斗とはとっくの昔に終わってる。あれからもう二年になるんだぞ。なぜあいつにお伺い立てなきゃならないんだ。誰と付き合おうが俺の勝手だろ⁉︎」
ドンッ……とテーブルを拳で叩き、はぁはぁと肩で息を吸い込む。
俺の怒気など子供の駄々だと言わんばかりに多澤は淡々と言った。
「瀬菜、怒んな怒んな。この間言ってた恋人ってのが、ここに居る十王ってのを信じてもいい」
「──っおい! 雅ッ! 俺は納得できねぇぞ! あいつとの約束忘れたのかよ!」
「まぁ、待てよカナ」
無表情を繕うのが苦しい。俺の知らない二人の掛け合い。数年前の二人はこんな風に会話をしていただろうか。
その姿に気を取られていると、多澤は俺の心情を壊すかのような提案をしてきた。
「瀬菜、俺もカナもハイそうですかって、簡単に納得はできねぇ。お前、昔から逃げるの得意だっただろ? だから証拠……見せろよ」
目を細めながら多澤が追い打ちを掛けてくる。
恋人同士の証拠など、人に見せるものでも提出できるものでもない。けれど多澤は探るように無茶を押しつけ俺を逃してはくれない。
「あのよ~、さっきから黙って聞いてたけど? 人の恋愛事に、第三者のお前らがなんで絡んでんの。みんなで熱くなっちゃって、見てられないねー。えっと、恋人同志の証拠だったっけ?」
グッと肩を引き寄せられると、玉夫は俺の顎を持ち上げ唇に軽くキスを落とした。探るように瞳が合わさるとフッと笑い掛けられ、また静かにキスを落とされる。
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