王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
624 / 716
第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜

12

しおりを挟む
 散々飲み、写真とは……と、熱く語る部長のおかげで、気付けば終電間際の時間になっていた。徒歩で帰れる俺は会計を預かり、先にみんなに帰ってもらった。
 そんな俺のうしろに、従者のように待機している男にチラリと視線を送る。

「お前も先に帰れよ」
「えーー、瀬菜ちゃん全然酔ってないじゃん。飲み足りなくない? 今日は花金だよ~」

 ジェスチャーでお花を見立てるご機嫌な玉夫。

「電車なくなるだろ? 先に言っとくけど泊めねぇからな」
「ワォ! そんじゃ、俺のオススメの店に行って、タクって瀬菜ちゃん送り届けてから帰るかな。下心ありありで」
「下心ありってなんだよ。普通そこはなしでだろ? 別にもう一軒行くのは構わないけど、俺を酔わそうとしても無駄だぞ。多分お前のが潰れる。まぁ、そしたらタクシーに押し込んでやるけど?」

 ニヤリと不敵に笑うと、玉夫も同じように笑い「なら酒豪対決ね。敗者は勝者のお願いをひとつ。もち支払い込み込みで♡」と挑発してきた。
 最寄りの駅から電車に乗り、ひとつ先の駅へと向かった。仮になにかあっても、一駅なら歩いても帰れると踏んでいた。



 玉夫に連れて行かれた店は、洒落た内装で落着いたムードの漂う店だった。照明の薄暗さが女子に喜ばれそうで、まさにデートコースにお誂え向きだ。流石、歩く下半身男。いい店を知っている。
 席の案内を入口で待っていると、玉夫が突然ボソリとなにか言った。

「……あれっ……」
「えっ? なんだ?」

 顔を伺うが、薄暗いせいで玉夫の表情はよく見えない。
 なにか不都合でもあったのだろうか。

「いや……気のせいかな。ちょい待ってて」

 玉夫はレジのカウンターのほうへと歩き出し、いつもの能天気な声で言った。

「やっぱり! なぁ、俺のこと覚えてる?」
「……あぁ? ……お前、だれ? あっ、顔は思い出した」
「顔かよ。元気してた?」
「あぁ、まぁ……そっちはデートか? 相変わらずモテるこって」

 店の暗がりに遮られ、瞬時に行動ができなかった。呆然と立ち尽くす俺に視線が集中する。ひとりは口角を上げ不遜に笑い、ひとりは驚愕に目を丸める。

「偶然だな……瀬菜」
「……ヤナ?」
「なんだ、お前ら……知り合いだったのか?」

 玉夫の質問に誰も答えず緊迫する空気に、玉夫が耳元で「店、変えるか?」と囁いてくる。頷くでもなく俯くのが精一杯で、小さく震える肩に玉夫の手のひらが置かれ背を向けようとすると呼び止められた。

「おい、待てよ。折角だ、一緒に飲もうぜ? 話したいこともあるしな。構わないよな瀬菜」
「……俺は……」
「おいおい、勝手に決めんなよ。こっちも都合があるんだ」
「都合? 今からここで飲むんだろ? ここじゃ店の邪魔だし同窓会ってことで」

 二人は会計を済ませ店を出ようとしていたが、店員に「二名から四名に変更で」と伝えていた。


 学校ならまだしも、いつくもある店で知り合いに遭遇するなど中々ないのではないだろうか。日本という国がいかに狭いか思い知らされる。そして偶然にしても今一番会いたくない人物たち。
 個室に通されると、ボックス席に腰を下ろし、面識のない多澤と玉夫が自己紹介をしていた。お酒が運ばれ軽い会話を終わらせると、由良りんが視線を俺に移し躊躇い気味に声を掛けてきた。

「……ヤナ……元気にしてたか? 少し、痩せたな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

不透明な君と。

papiko
BL
Dom/Subユニバースのお話。 Dom(美人、細い、色素薄め、一人称:僕、168cm) 柚岡璃華(ユズオカ リカ) × Sub(細マッチョ、眼鏡、口悪い、一人称:俺、180cm) 暈來希(ヒカサ ライキ) Subと診断されたがランクが高すぎて誰のcommandも効かず、周りからはNeutralまたは見た目からDomだと思われていた暈來希。 小柄で美人な容姿、色素の薄い外見からSubだと思われやすい高ランクのDom、柚岡璃華。 この二人が出会いパートナーになるまでのお話。 完結済み、5日間に分けて投稿。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

雨晴れアジサイボーイ&ガール

ハリエンジュ
恋愛
晴れのように天真爛漫な少女・朝霧陽菜(あさぎり ひな)と、雨の日に傘を差さない不思議な癖を持つ気難しい少年・平坂春也(ひらさか はるや)の恋の話。 153cmの春也と、185cmの陽菜の32(サニー)cm・逆身長差ラブな短編。

処理中です...