615 / 716
第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
03
しおりを挟む***
朝日が顔に当たり眩しさに目を開ける。カーテンの隙間から見る空は青く、絵に描いたように綺麗に晴れていた。大きくため息を吐き、雨がやんでしまったことに落胆する。
大きなため息は雨だけのせいではない。俺を毎朝甲斐甲斐しく起こしてくれる同居人と昨夜一悶着あったからだ。風呂からあがったあとも攻防戦を繰り広げ、「そこで反省してろ!」とダイニングルームに追い出すという事態にまで発展した。
大学の講義はネット環境が整った現代では、通学しなくても単位を取れる仕組みだが、俺は毎日大学に通っていた。今日は二限からでよかったと、肌寒さに身を丸め少し遅めにベッドから抜け出した。
「……行ってきます。って……見送りもなしかよ……白状者め」
ひとり愚痴りながらアパートをあとにする。大学まで歩いて二十分の距離を、スマホを弄りながら登校していた。
おふくろから『元気でやってるの? たまには連絡なさい。あの子は大きくなった? 写真送って♡』と、メールが入っていた。
「なにが♡だ……人の気も知らないで。だいたいそんなに可愛いならおふくろが面倒見ろよ。俺だって学校あるんだぞ」
あの子というのは、同居人である犬のことだ。おふくろがひとり暮らしを始めた俺に、ある日いきなり押しつけてきた。ペット不可の物件に、管理会社に話までつけ『お母さん仕事もあるし面倒見れないからお願いね』と、久々に会った途端に託された。
子犬は震えながら捨てないでと、瞳を潤ませ無言の懇願をすると俺の手をペロペロ舐め甘えていた。そんな可愛い反応をされれば断ることはできなかった。けれどすぐに図体は大きくなり、悪戯ばかりして俺を困らせている。
昨日も主人の居ぬ間に、キッチンを散らかし酷い有様だった。子犬のままならよかったのにと、綺麗な長い毛並みのゴールデンレトリバーを思い浮かべた。
散らかった部屋に怒りもあったが、半分は八つ当たりだ。ベッドにも呼ばれず、寒い場所で寝ていたのだろう。
確かに昨日は自分もイライラしていた。大人気ない態度に罪悪感を感じながら、高級な餌をお土産に買って帰ることに決めた。
講義を数限受け終えると、次回のコンクールのスケジュールを取りに来いと、先輩に言われていたのを思い出し、一度写真研究会のサークル室に向かった。
大学に入学してすぐの頃、展示されていた写真に目を奪われ涙した。自分の本当の気持ちがそこにあるようで、胸の奥が抉られた気分だった。
撮影した人物に興味が湧くと、研究会の扉を開いて入会していた。カメラのノウハウなど全くない俺に、先輩たちはよく教えてくれたものだ。
最初はサークルから貸出されたカメラを使っていたが、バイト代をコツコツ貯め節約し、自分のカメラを購入した。今では毎日撮らなければ物足りなさを感じるほどのめり込んでいる。
「ああ、柳やっと来たか。生きてるのかって噂になっていたぞ? また痩せたんじゃないか?」
「……すみません。バイトも忙しくて。でも、毎日シャッターは切っていますよ?」
「そうか、ならいいが。十王にも顔を出すように伝えてくれ。それと月例の親睦会、来週金曜夜からだからたまには来いよ? てか、来い!」
元々人数の少ないサークルで、誰も居ないと踏んで来たのに、部長に会ってしまっては流石に何度も逃げる口実が浮かばない。
よくしてくれる人に対しては、どうにも無下にできないお人好しの俺は、その場で「行きますよ。いつものところですか?」と答えていた。
0
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる