王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜

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 カシャ……カシャ、カシャ、カシャ……と、ネジを回転させたような機械音。それに重なるように、水音が様々な音楽を奏でている。
 瞬きもせず覗き込むレンズ越しにいく粒もの雫が落ちていく。灰色にくすんだ風景に、水玉模様を重ねながらポツポツと……。
 校舎の屋上からカメラのシャッターボタンを速さを変え、絞りを調整しながら何度も切る。指先は冷たい雨に打たれ、とうに感覚を失っていた。
 背後からギィーっと重く濡れて錆びついたような金属音が耳に聞こえたが、気にもせずただひたすら撮り続けていた。

「あっ、いたいた。またこんな日に撮ってんの? レインコートも着ないで、いい加減倒れるよ?」

 頭上に傘が覆い被さり、パタパタと雨音をさせている。
 ファインダーに視線を置いたまま、やって来た声の持ち主に淡々と返事をする。

「あぁ、俺のことは気にするな。だいたい倒れてお前に迷惑かかるのかよ。てか、傘邪魔……陰るだろ」
「うわっ、可愛くないな~。心配してるんだよ? 入学したての頃は、笑顔の可愛い瀬菜ちゃんだったのに。どうしてこうなったんだか……。今じゃデレを知らないツンツン美人」

 俺をそう揶揄するコイツとは、大学に入学してしばらくした頃に知り合った。とはいっても俺のほうは最初から知っていた。
 入学してすぐに話題にあがった『イケメン王子』という言葉に過剰反応した結果、悠斗のことだとその場所へと足を向けたのが間違いだった。群がる女の子を掻き分けまんまとつまずき、膝をついて痛みに顔を歪め見上げると面識のある人物に目を見開いた。
 目の前に居た噂のイケメン王子は、高校で何度か絡まれたことのある男だった。高校時代のあだ名は『歩く下半身男』──。逃げようとしたがイケメンオーラ全開で王子然と『大丈夫? 可愛いね? 連絡先交換しよ?』といきなりナンパされた。
 それ以来なぜか俺に付き纏っている。名前は十王菊夫じゅうおうきくお。どこの御曹司だという名前だが、俺はコイツのことを『玉夫たまお』と呼んでいる。そんなダサいあだ名はやめてくれと言われたが、王子の仮面を被った下半身男にはお誂えむきだ。下半身ゆるゆるのナンパ男は、今ではすっかりなりを潜め、毎日のように俺に絡んでいた。

「可愛い子に興味があるなら俺に構っていないで、ほかの子でもナンパしたらいいだろ」
「え~寂しい~。可愛い子は好きだけど、俺ってば今は瀬菜ちゃんに夢中なの♡」
「……そうかよ」

 今日は日が暮れるまで写真を撮ろうと決めていたのに、コイツのせいで気分が削がれてしまった。屋上から屋根のある踊り場に移動すると帰り支度をした。

「帰るの? なら飯行こうよ~。俺、奢るし」
「行かない」
「えぇ~、なんで?」
「お前に奢ってもらった見返りに、身体差し出すとか吐き気がする」
「うわぁ~酷い言い方だな~。俺はその細過ぎる身体を心配しているのに。飯ちゃんと食ってんの?」

 スルリと指先が頬を撫で上げた。冷えた身体に他人の熱がジワリと広がり伝わってくる。そのぬくもりにゾワリと震えが走り、無意識に払い除けるとため息を吐かれた。
 フィッと顔を背け瞼を伏せながら睫毛を揺らす。陰った顔は他人にどう映っているのか。おそらく妙に青白く、死人のようにやつれて見えているのだろう。
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