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第20.5幕 二人の卒業式《悠斗side》
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教室の床に座り込み、スースーと寝息を立てる瀬菜の頭を撫でながら、ぼんやりと室内を眺めていた。
今日は卒業式だったな……と、一日の出来事を思い返す。友との別れに寂しさに目を真っ赤にしながら、涙を流す瀬菜。それでもよく笑い、楽しそうにしていた。
瀬菜を爺様と会わせる前、先に俺は爺様と話し合いをしていた。本当は今日会わせるつもりなどなかったのだ。こんな晴れの日に、嫌な思いなどさせたくない……そう思ったからだ。けれど爺様の話術に丸め込まれ、瀬菜を会わせざる負えなかった。せめて会わせる前にと、以前からの約束を再確認しておいた。
いつか瀬菜が知ったらどう思うのだろう。そっと髪を梳くと、俺の膝の上で身を捩り、幸せそうにスヤスヤ眠る瀬菜に罪悪感を覚えてしまう。
『だが悠斗、約束は約束だ。忘れたとは言わせんぞ?』
壁にコツンと頭をもたげ、天井を見上げた。
「何度も言わなくても……分かっていますよ……」
頭の中で爺様が、繰り返し小言を言ってくる。こんなことなら立花など捨ててしまいたい。事あるごとにそう思ってしまうのだ。
なぜダメなのだ、なぜ好きに生きさせてくれない……。
自分の若さが悔しくて堪らない。
『もう、捨てるとか悲しいこと言うなよ』
心配そうにしながら切ない声で呟いた瀬菜。自分が放った言葉であんな辛い顔をさせてしまうなど本意ではない。
せめぎ合う思いが、酷く自分を落としていく。いつか瀬菜にも話さなければならないことを、まだ笑顔を見ていたいと、後回しにしている自分が情けない。
あともう少し……。
せめて今日という二人の思い出の卒業式ぐらいは……。
「……んっ……悠斗?」
自分の世界に入り込んでいたところに、瀬菜が身じろぎしながら名前を呼ぶ。その声にハッとすると、眠そうにしながら瞼を擦り俺を見上げていた。
「……おはよ。身体……辛くない?」
「へへっ……寝ちゃってた。身体は……さっぱりしてる。また色々してくれたんだな。ありがとう……」
「ううん。俺も歯止めが効かなくて。あーあ、可愛かったなー」
「止めてくれ! 記憶から抹消しろ‼」
真っ赤にしながら俯く瀬菜が愛おしい。顎を掬い上げると、唇に啄むキスを落とす。
「クスッ……消すわけないでしょ。また制服でしようね?」
「ばーか! 今日で卒業! 制服ともお別れだ! でも、ネクタイはもらうからな! それと俺のも受け取れよ!」
ツンとしなからそう言うと、次に見せるのはへにゃりと緩んだ笑顔。この笑顔があるから俺はまだ大丈夫……。そう励まされている気がする。
「瀬菜、卒業おめでとう」
「悠斗も、卒業おめでとうな!」
高校最後の卒業式。
二人で祝ったその瞬間。
卒業式本番では感じなかった感情が湧き起こる。
胸が締めつけられ、目頭が熱くなった。
それは……今の幸せを喜んでか、今後の不安のせいか……。
ただ、瀬菜の笑顔は眩しくて……綺麗で……。
ずっと見ていたいと、ただただ願うばかりだった──。
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