王子×悪戯戯曲

第20幕 最後の一日

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「おお、猛獣使いじゃん。久しぶりだな」

　二人で隠れて見えていなかった多澤が、カウンターの椅子に腰掛けながら、背を反らせひょこんと顔を出す。

「…………や、ヤナ⁉︎」

　悠斗に怒鳴っていた男は俺のよく知る人物だった。制服ばかりを見ていたからか私服姿で厳つい振る舞いをする姿に由良りんだとは思ってもおらず、ヤクザな人でないことに胸を撫で下ろす。

「……なんだよ、ビックリした。ヤクザにでも絡まれていると思った」
「ヤクザなのには変わりないけどね。それよりどうしたの？　今日は来るって言ってなかったのに」
「マスターのオススメ食べたくて暇だったし来ちゃった。けど……マスターは？」
「病院に行ってる。もうすぐ帰って来るよ」
「そっか、で？　お前らなにをそんなに揉めていたんだ？　他にお客さんは居ないみたいだけど……、あんな大声出してたら入って来たお客さんびっくりして逃げちゃうよ？」

　三人のほかに今はお客さんは居らず、だからこそヒートアップしたのかもしれないが、普段のじゃれ合いとは異なる雰囲気に何事かと心配になる。悠斗も由良りんも互いに視線を合わさず、プイっとそっぽを向いている。

「まったくよ、笑ってやれよ瀬菜。こいつら本当にどうしようもないことでマジになってんの」

　多澤が呆れた様子で俺に教えてくれる。

「卒業旅行行こうって話していただろ？」
「うん、まだ全然決まってないけどな」
「行く場所ぐらいは決めようってなってな。最後だしよ、海外行くか国内にするかってな？　初っ端から意見が真っ二つ。で、こんな感じになってんだ」

　くだらねぇだろ？　と多澤はいつもの調子で言う。

「……えっ？　それだけ？」
「あぁ、それだけ」
「それだけって……折角長い休みだし、海外でリゾート気分味わうべきだよ」
「ぜってー国内だ！　日本は安全安心。ヤナや斎賀みたいなのは、海外なんて行ったら誘拐されちまう」
「そんなこと言って、カナちゃんは飛行機乗るのが怖いだけじゃん」
「──うッ！　ちげーし！」

　ははは……違わないんだな。

「だいたい日本人なら自国に投資するべきだ！」
「毎日税金払って投資してるよ。海外で見聞を広めることだって大切だよ」
「てな？　こんな調子で大揉めだ。けど、ちょうどいいところに来てくれて助かったぜ。で、お前どっちがいい？」
「えっ、いや俺の一存じゃ決められなッ──」
「瀬菜が決めて！」
「それで俺らも文句言わねぇ！」

　こんなとき実千流や村上が居れば公平に決められるのに。三人に詰め寄られ、ワタワタと慌てながら内心来なければよかったと後悔する。
　三人の圧に迫られ耐えられなくなると、仕方なしにボソッと希望を口にした。