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第20幕 最後の一日
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渡したお守りを悠斗は俺の唇にペタリとつけると、大事そうに胸ポケットへと仕舞った。
「瀬菜のご利益」
「……ううぅ。なら俺のも、おまじないして!」
俺のお守りをグイッと悠斗に押しつけると、受け取った悠斗はそれにキスを落とし俺の胸ポケットへ仕舞ってくれた。
試験前になにをしてるんだかと自分でも呆れてしまうが、力が抜けて緊張が解れた気がする。会場は同じだが、案内の用紙を見ると別々の場所で少し心細かった。緊張している俺を安心させるための悠斗の気遣いに、キュンと胸が高まってしまった。
シーンとする室内に、カリカリと鉛筆を走らせる音がする。問題は引っ掛けが多い気もしたが、朝の緊張が悠斗のおかげもあって落ち着いて解くことができた。頭を悩ませると胸のお守りを無意識に触り、何ヶ月も勉強し悠斗に教わったことを思い出せた。最後の問題を解き終わると、手応えを感じ少し暑すぎる室内にフーっと息を吐き出しシャープペンを置いた。
ゾロゾロと会場から溢れる人の流れに沿って、待ち合わせの場所へ向かう。多い人混みの中でも、好きな相手はすぐに見つけられるものだ。終わった開放感もあるのか、見つけた途端に口元が緩んでしまう。悠斗も俺を見つけると、フワリと微笑み歩み寄って来た。
「お疲れさま。どうだった?」
「へへっ、バッチリ! まぁ、不合格なら一般だけど」
「瀬菜凄い頑張ってたし、過去問題も解けてたから平気だよ。夕方には速報出るし、あとで答え合わせしよ?」
「うん。あーでも今になってドキドキしてきた!」
「ふふっ、ご褒美に甘いものでも買って帰ろうか」
「うん。賛成♪」
デパートでケーキを購入し、家に向かう頃にはすっかり日も暮れていた。家に着くと灯りがついており、おふくろが夕飯を用意してくれていた。
「おばさんのお守りよく効きました」
「あら、よかったわ。まぁ悠斗君には、必要無かったかもしれないわね? 瀬菜は神頼みでもしないと心配だけど」
「なんだよそれ。贔屓だ」
「クスッ、そんなことないですよ? 意地悪な問題多かったので励みになりました」
「もう、悠斗君ったらおだて上手なんだから! まぁ、やっと一段落かしらね。合格発表は今月末頃よね? 今日終わったからって二人共、羽目を外し過ぎないようにね?」
終わった気分の俺たちに釘を刺すおふくろに「はーい」と軽い返事を返す。交代で早めの入浴を済ますと、部屋に行き購入したケーキを食べ、よく使った脳に糖分補給をする。
悠斗とゆっくり過ごすのも久し振りだ。帰ろうとする悠斗におふくろが「お隣も夜泣きが酷いみたいだし、泊まって行きなさいよ」と勧められ断り切れなかったようだ。
「はぁ~至福~♪」
「正にご褒美って感じだね?」
「悠斗……俺、もう一個ご褒美欲しい」
「ん? なにが欲しいの?」
モジモジと手遊びをしながら、目を泳がせてしまう。
「その…………キス……したい……」
ボソリと呟くと、恥ずかしくてどんどん顔が熱くなる。
ここ最近ずっと求めていたことだ。照れ臭さはあるが、どうしても言いたかった。
チラリと悠斗に視線を流すと硬直し青い顔をして、明後日の方向を見ながらポリポリと頬をかいている。そして返された言葉に俺も目を丸めて青くなってしまう。
「あっ、あのさ……明日でいいかな?」
「……えっ?」
キスって……明日とか決めてすることなのか?
今までいっぱいしてきたよね?
今朝は結構イイ雰囲気だったじゃん⁉︎
えっ? えっ? なんで⁉︎
キスってそんなに敷居が高いのか⁉︎
もしかして俺のこと……好きじゃなくなっちゃったとかなのか⁉︎
頭の中に沢山のクエスチョンマークが飛び交っている。ぐるぐると頭の中を回る疑問に、折角糖分補給をしたというのにズキズキと割れるような悲鳴をあげていた。
「瀬菜のご利益」
「……ううぅ。なら俺のも、おまじないして!」
俺のお守りをグイッと悠斗に押しつけると、受け取った悠斗はそれにキスを落とし俺の胸ポケットへ仕舞ってくれた。
試験前になにをしてるんだかと自分でも呆れてしまうが、力が抜けて緊張が解れた気がする。会場は同じだが、案内の用紙を見ると別々の場所で少し心細かった。緊張している俺を安心させるための悠斗の気遣いに、キュンと胸が高まってしまった。
シーンとする室内に、カリカリと鉛筆を走らせる音がする。問題は引っ掛けが多い気もしたが、朝の緊張が悠斗のおかげもあって落ち着いて解くことができた。頭を悩ませると胸のお守りを無意識に触り、何ヶ月も勉強し悠斗に教わったことを思い出せた。最後の問題を解き終わると、手応えを感じ少し暑すぎる室内にフーっと息を吐き出しシャープペンを置いた。
ゾロゾロと会場から溢れる人の流れに沿って、待ち合わせの場所へ向かう。多い人混みの中でも、好きな相手はすぐに見つけられるものだ。終わった開放感もあるのか、見つけた途端に口元が緩んでしまう。悠斗も俺を見つけると、フワリと微笑み歩み寄って来た。
「お疲れさま。どうだった?」
「へへっ、バッチリ! まぁ、不合格なら一般だけど」
「瀬菜凄い頑張ってたし、過去問題も解けてたから平気だよ。夕方には速報出るし、あとで答え合わせしよ?」
「うん。あーでも今になってドキドキしてきた!」
「ふふっ、ご褒美に甘いものでも買って帰ろうか」
「うん。賛成♪」
デパートでケーキを購入し、家に向かう頃にはすっかり日も暮れていた。家に着くと灯りがついており、おふくろが夕飯を用意してくれていた。
「おばさんのお守りよく効きました」
「あら、よかったわ。まぁ悠斗君には、必要無かったかもしれないわね? 瀬菜は神頼みでもしないと心配だけど」
「なんだよそれ。贔屓だ」
「クスッ、そんなことないですよ? 意地悪な問題多かったので励みになりました」
「もう、悠斗君ったらおだて上手なんだから! まぁ、やっと一段落かしらね。合格発表は今月末頃よね? 今日終わったからって二人共、羽目を外し過ぎないようにね?」
終わった気分の俺たちに釘を刺すおふくろに「はーい」と軽い返事を返す。交代で早めの入浴を済ますと、部屋に行き購入したケーキを食べ、よく使った脳に糖分補給をする。
悠斗とゆっくり過ごすのも久し振りだ。帰ろうとする悠斗におふくろが「お隣も夜泣きが酷いみたいだし、泊まって行きなさいよ」と勧められ断り切れなかったようだ。
「はぁ~至福~♪」
「正にご褒美って感じだね?」
「悠斗……俺、もう一個ご褒美欲しい」
「ん? なにが欲しいの?」
モジモジと手遊びをしながら、目を泳がせてしまう。
「その…………キス……したい……」
ボソリと呟くと、恥ずかしくてどんどん顔が熱くなる。
ここ最近ずっと求めていたことだ。照れ臭さはあるが、どうしても言いたかった。
チラリと悠斗に視線を流すと硬直し青い顔をして、明後日の方向を見ながらポリポリと頬をかいている。そして返された言葉に俺も目を丸めて青くなってしまう。
「あっ、あのさ……明日でいいかな?」
「……えっ?」
キスって……明日とか決めてすることなのか?
今までいっぱいしてきたよね?
今朝は結構イイ雰囲気だったじゃん⁉︎
えっ? えっ? なんで⁉︎
キスってそんなに敷居が高いのか⁉︎
もしかして俺のこと……好きじゃなくなっちゃったとかなのか⁉︎
頭の中に沢山のクエスチョンマークが飛び交っている。ぐるぐると頭の中を回る疑問に、折角糖分補給をしたというのにズキズキと割れるような悲鳴をあげていた。
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