561 / 716
第20幕 最後の一日
01
しおりを挟む「寒かったー」
「今日は一段と冷えるよな。ほら、早く入れよ」
「うん。ありがとう……温かい……幸せ……」
そう言いながら悠斗はコタツに入り、背後から俺を抱きしめてきた。ひんやりとした手のひらはぬくもりを求めるように、俺の肌に触れてくる。温まっていた体温はみるみると熱を奪われ、外に出ずとも気温が低いことを物語っていた。
確かに入れとは言ったが、俺を膝に乗せ、抱き枕のように抱きしめるのは遠慮して欲しい。腰の位置をモジモジさせながら悠斗の膝から降りると、ヤドカリのようにコタツに潜り込む。そんな俺をカルガモの雛のように追い掛け、密着し甘えてくる安定の悠斗くん。
「バイト、忙しかったか?」
「うん、今日は寒いから余計にかな。お客さん途切れなくて」
年末に向けて忙しい日々を送っている。悠斗の誕生日は二人でゆっくりお祝いし、クリスマスも控え目にケーキと少し豪華な手料理だけにした。
冬休みに入ったとはいえ、センター試験も間近に迫っており、気持ちに余裕がなかったのもある。そんな中でも悠斗は短期間だったはずのバイトを未だ続けていた。無理な要求をしないご主人だからか、家に居るよりもバイト先のほうが居心地がいいのだろう。ご主人もよく働く悠斗を手放したくない様子だ。
「そう言えば、今日も泣き声家まで聞こえた」
「ふふっ、それは元気だね」
「一昨日見に行ったけど、やっぱり似ているよなー」
「ん?」
「きっと、悠斗みたいに格好よくなるぞ? それにゆーちゃんみたいに天使さんに違いない! 今からワクワクするなぁ~♪」
「そんなに? 俺は今から嫉妬しちゃいそうだよ」
へらりと目尻を垂らしながらココアを飲む。
冬が訪れる前に美久さんは無事、男の子を出産した。可愛らしい赤ちゃんは、綾都と名付けられた。毎日のように元気に泣いている声が、俺の家にまで聞こえてくる。防音がしっかりした悠斗の家も、子供の元気いっぱいな泣き声にはお手上げらしい。前に写真で見ていた悠斗の小さい頃にそっくりで、これからの成長が楽しみである。
「瀬菜がそんなに子供好きとは思わなかったけど、すっかり懐いちゃってるよね。瀬菜が抱っこするとピタリと泣きやむんだもん。美久は大助かりするって言ってたけど、呼び出されてない?」
「綾ちゃん可愛いし、呼び出し大歓迎だけどな。それに、俺にはきっと癒やしオーラがあるんだ」
「俺も……癒やされたい……」
ぽてっと悠斗の頭が俺の肩に落ちると、服を割って手のひらがまた入り込んでくる。今度は手を温めるつもりはないようで、サワサワと腹を撫でると胸の辺りまで這ってきた。
行き場の読めない怪しい動きにビクッと身体を震わせる。
「……ちょっ、冷たい……っ」
「なら、温めて」
耳元で囁く色を含んだ声が、俺の肌を余計に粟立たせる。火照った肌に悠斗の指先は冷たく、ただ掠めていくだけで乳首がピンと尖り上を向く。それに連動するように下肢がズクッと疼いた。
たくし上げられたトレーナーを無理やり下ろし悠斗の悪戯を阻止すると、ジロっと睨みつけてやる。
「うっ……もう十分温まっただろ!」
「むー、ケチ……触るぐらいいいじゃん……」
「よくない! 約束しただろ! お茶淹れてくる」
悠斗の胸から抜け出し部屋を出る。暖房が効いていない廊下は身体の体温を一気に奪い取っていく。けれど火照った身体にはちょうどいい。
0
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない
ネコフク
BL
【本編完結・番外編更新中】ある昼過ぎの大学の食堂で「瀬名すまない、別れてくれ」って言われ浮気相手らしき奴にプギャーされたけど、俺達付き合ってないよな?
それなのに接触してくるし、ある事で中学から寝取ってくる奴が虎視眈々と俺の周りのαを狙ってくるし・・・俺まだ誰とも付き合う気ないんですけど⁉
だからちょっと待って!付き合ってないから!「そんな噂も立たないくらい囲ってやる」って物理的に囲わないで!
父親の研究の被験者の為に誰とも付き合わないΩが7年待ち続けているαに囲われちゃう話。脇カプ有。
オメガバース。α×Ω
※この話の主人公は短編「番に囲われ逃げられない」と同じ高校出身で短編から2年後の話になりますが交わる事が無い話なのでこちらだけでお楽しみいただけます。
※大体2日に一度更新しています。たまに毎日。閑話は文字数が少ないのでその時は本編と一緒に投稿します。
※本編が完結したので11/6から番外編を2日に一度更新します。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
後天性オメガの近衛騎士は辞職したい
栄円ろく
BL
ガーテリア王国の第三王子に仕える近衛騎士のイアン・エバンズは、二年前に突如ベータからオメガに性転換した。その影響で筋力が低下したのもあり、主人であるロイ・ガーテリアに「運命の番を探して身を固めたい」と辞職を申し出た。
ロイは王族でありながら魔花と呼ばれる植物の研究にしか興味がない。ゆえに、イアンの辞職もすぐに受け入れられると思ったが、意外にもロイは猛烈に反対してきて……
「運命の番を探すために辞めるなら、俺がそれより楽しいことを教えてやる!」
その日からイアンは、なぜかロイと一緒にお茶をしたり、魔花の研究に付き合うことになり……??
植物学者でツンデレな王子様(23歳)×元ベータで現オメガの真面目な近衛騎士(24歳)のお話です。
元会計には首輪がついている
笹坂寧
BL
【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。
こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。
卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。
俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。
なのに。
「逃げられると思ったか?颯夏」
「ーーな、んで」
目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。
【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜
みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。
早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。
***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…
夢見 歩
BL
僕は運命の番に気付いて貰えない。
僕は運命の番と夫婦なのに…
手を伸ばせば届く距離にいるのに…
僕の運命の番は
僕ではないオメガと不倫を続けている。
僕はこれ以上君に嫌われたくなくて
不倫に対して理解のある妻を演じる。
僕の心は随分と前から血を流し続けて
そろそろ限界を迎えそうだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
傾向|嫌われからの愛され(溺愛予定)
━━━━━━━━━━━━━━━
夢見 歩の初のBL執筆作品です。
不憫受けをどうしても書きたくなって
衝動的に書き始めました。
途中で修正などが入る可能性が高いので
完璧な物語を読まれたい方には
あまりオススメできません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる