王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第19幕 鏡に映る心の奥底

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「いやぁ~、こんな偶然あるのかね。日本はやはり狭いな」
「……あははっ、そうですね」

 清々しい中庭のベンチで日向ぼっこをしていた俺は、まさかの人物と鉢合わせになった。そもそも会ってもおかしくはないが、環樹先輩を恨みたくなっていた。

「しかし、環樹君はどこに……まぁ、元々在学生が担当と聞いていたから、結果的には問題ないのかな?」
「すみません俺が体調不良で、急遽環樹先輩にお願いしたんです」
「それは構わないよ。それより体調は平気なのかい?」
「体調といっても、この通り気持ちは元気で……その、昨日腰をやられて……」
「昨日? ということは、お芝居で? 聞いた話だと大盛況だったそうじゃないか。私も観たかったなぁ~」

 それほどでも……と、悠斗の顔を頭から追い払い曖昧に視線を逸らす俺に、悠斗のおじいさん、立花優宇貴たちばなゆうきは隣でカラカラと笑い声をあげた。
 理事長と友人のおじいさんが学校に居ることに驚きはしないが、心の準備ができてきない。この人には妙な威圧感がある。だから俺は毎回気持ちが縮んでしまう。それでも昨年初めて出会ったときより免疫はできていた。

「今日の担当は、柳君だと内心予測していたんだよ。けど環樹君だったからね。悠斗がまた裏でなにかしたのかと思っていたんだ」
「──ッ!」
「そんな顔をしないで。悪口を言っている訳ではないんだよ。悠斗はどうしてか、柳君と私を引き合わせたくはないようだからね」

 そう言われなにも答えられずにいると、試すような言葉を投げかけられた。

「君たちは付き合っているのだろ?」

 ジッと射抜くような瞳で心を覗かれる。嘘をついたところで意味はないだろうが、さっと視線を逸し俯く。じわじわと手のひらが汗ばむが、俺は手のひらをグッと握りしめ答えた。

「……はい。昔からよくしてもらっています」

 あからさまだっただろうか。はっきり伝えるべきだっただろうか。そんな不安が胸の中に広がり顔をあげることができない。沈黙がやけに長く感じる。

「……そうか、いい関係を築いているのだね。昔から……か。ああそうだ、昔話といえば」

 おじいさんはそう言うと、天を仰ぎ語り始めた。
 昔々あるところに……と、昨日の白雪姫のお芝居のように──。


 少年は捨てられていた犬を胸に抱き、雨の中を駆け抜け一件の家へ入った。それは大きなお屋敷で、犬一匹など養える家だった。しかし家の主人はとても横暴で、子犬を見るやいなや少年の目の前でその犬を切り裂いた。少年は激怒するが言葉など届くわけもなく、むしろ頬が真っ赤になり、高熱がでるほど叩かれ虐げられた。そんな出来事は一度や二度の話ではなかった。少年が主人のレールに乗るまで続いていた。


「さて、この話を聞いて君はなにを感じた?」
「……酷い、と思いました」
「それが一般的な回答かもしれないね。世の中には操るものと、操られるものがある。そして強者は弱者を従わせる。けどね、強者は決して悪者ではない。個人においては恐怖でしかないかもしれないが、全てを守るためには悪役にだってなるものなんだよ」
「……その、なんの話でしょうか?」
「君はまだ若い。いつかきっと分かる日が来るかもしれないね」

 ドクドクと胸の鼓動が大きくなっている。意図がわからず眉に皺を寄せると、おじいさんはフッと小さく笑い言った。

「あの人もこんな気分だったのかね」
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