559 / 716
第19幕 鏡に映る心の奥底
12
しおりを挟む
「いやぁ~、こんな偶然あるのかね。日本はやはり狭いな」
「……あははっ、そうですね」
清々しい中庭のベンチで日向ぼっこをしていた俺は、まさかの人物と鉢合わせになった。そもそも会ってもおかしくはないが、環樹先輩を恨みたくなっていた。
「しかし、環樹君はどこに……まぁ、元々在学生が担当と聞いていたから、結果的には問題ないのかな?」
「すみません俺が体調不良で、急遽環樹先輩にお願いしたんです」
「それは構わないよ。それより体調は平気なのかい?」
「体調といっても、この通り気持ちは元気で……その、昨日腰をやられて……」
「昨日? ということは、お芝居で? 聞いた話だと大盛況だったそうじゃないか。私も観たかったなぁ~」
それほどでも……と、悠斗の顔を頭から追い払い曖昧に視線を逸らす俺に、悠斗のおじいさん、立花優宇貴は隣でカラカラと笑い声をあげた。
理事長と友人のおじいさんが学校に居ることに驚きはしないが、心の準備ができてきない。この人には妙な威圧感がある。だから俺は毎回気持ちが縮んでしまう。それでも昨年初めて出会ったときより免疫はできていた。
「今日の担当は、柳君だと内心予測していたんだよ。けど環樹君だったからね。悠斗がまた裏でなにかしたのかと思っていたんだ」
「──ッ!」
「そんな顔をしないで。悪口を言っている訳ではないんだよ。悠斗はどうしてか、柳君と私を引き合わせたくはないようだからね」
そう言われなにも答えられずにいると、試すような言葉を投げかけられた。
「君たちは付き合っているのだろ?」
ジッと射抜くような瞳で心を覗かれる。嘘をついたところで意味はないだろうが、さっと視線を逸し俯く。じわじわと手のひらが汗ばむが、俺は手のひらをグッと握りしめ答えた。
「……はい。昔からよくしてもらっています」
あからさまだっただろうか。はっきり伝えるべきだっただろうか。そんな不安が胸の中に広がり顔をあげることができない。沈黙がやけに長く感じる。
「……そうか、いい関係を築いているのだね。昔から……か。ああそうだ、昔話といえば」
おじいさんはそう言うと、天を仰ぎ語り始めた。
昔々あるところに……と、昨日の白雪姫のお芝居のように──。
少年は捨てられていた犬を胸に抱き、雨の中を駆け抜け一件の家へ入った。それは大きなお屋敷で、犬一匹など養える家だった。しかし家の主人はとても横暴で、子犬を見るやいなや少年の目の前でその犬を切り裂いた。少年は激怒するが言葉など届くわけもなく、むしろ頬が真っ赤になり、高熱がでるほど叩かれ虐げられた。そんな出来事は一度や二度の話ではなかった。少年が主人のレールに乗るまで続いていた。
「さて、この話を聞いて君はなにを感じた?」
「……酷い、と思いました」
「それが一般的な回答かもしれないね。世の中には操るものと、操られるものがある。そして強者は弱者を従わせる。けどね、強者は決して悪者ではない。個人においては恐怖でしかないかもしれないが、全てを守るためには悪役にだってなるものなんだよ」
「……その、なんの話でしょうか?」
「君はまだ若い。いつかきっと分かる日が来るかもしれないね」
ドクドクと胸の鼓動が大きくなっている。意図がわからず眉に皺を寄せると、おじいさんはフッと小さく笑い言った。
「あの人もこんな気分だったのかね」
「……あははっ、そうですね」
清々しい中庭のベンチで日向ぼっこをしていた俺は、まさかの人物と鉢合わせになった。そもそも会ってもおかしくはないが、環樹先輩を恨みたくなっていた。
「しかし、環樹君はどこに……まぁ、元々在学生が担当と聞いていたから、結果的には問題ないのかな?」
「すみません俺が体調不良で、急遽環樹先輩にお願いしたんです」
「それは構わないよ。それより体調は平気なのかい?」
「体調といっても、この通り気持ちは元気で……その、昨日腰をやられて……」
「昨日? ということは、お芝居で? 聞いた話だと大盛況だったそうじゃないか。私も観たかったなぁ~」
それほどでも……と、悠斗の顔を頭から追い払い曖昧に視線を逸らす俺に、悠斗のおじいさん、立花優宇貴は隣でカラカラと笑い声をあげた。
理事長と友人のおじいさんが学校に居ることに驚きはしないが、心の準備ができてきない。この人には妙な威圧感がある。だから俺は毎回気持ちが縮んでしまう。それでも昨年初めて出会ったときより免疫はできていた。
「今日の担当は、柳君だと内心予測していたんだよ。けど環樹君だったからね。悠斗がまた裏でなにかしたのかと思っていたんだ」
「──ッ!」
「そんな顔をしないで。悪口を言っている訳ではないんだよ。悠斗はどうしてか、柳君と私を引き合わせたくはないようだからね」
そう言われなにも答えられずにいると、試すような言葉を投げかけられた。
「君たちは付き合っているのだろ?」
ジッと射抜くような瞳で心を覗かれる。嘘をついたところで意味はないだろうが、さっと視線を逸し俯く。じわじわと手のひらが汗ばむが、俺は手のひらをグッと握りしめ答えた。
「……はい。昔からよくしてもらっています」
あからさまだっただろうか。はっきり伝えるべきだっただろうか。そんな不安が胸の中に広がり顔をあげることができない。沈黙がやけに長く感じる。
「……そうか、いい関係を築いているのだね。昔から……か。ああそうだ、昔話といえば」
おじいさんはそう言うと、天を仰ぎ語り始めた。
昔々あるところに……と、昨日の白雪姫のお芝居のように──。
少年は捨てられていた犬を胸に抱き、雨の中を駆け抜け一件の家へ入った。それは大きなお屋敷で、犬一匹など養える家だった。しかし家の主人はとても横暴で、子犬を見るやいなや少年の目の前でその犬を切り裂いた。少年は激怒するが言葉など届くわけもなく、むしろ頬が真っ赤になり、高熱がでるほど叩かれ虐げられた。そんな出来事は一度や二度の話ではなかった。少年が主人のレールに乗るまで続いていた。
「さて、この話を聞いて君はなにを感じた?」
「……酷い、と思いました」
「それが一般的な回答かもしれないね。世の中には操るものと、操られるものがある。そして強者は弱者を従わせる。けどね、強者は決して悪者ではない。個人においては恐怖でしかないかもしれないが、全てを守るためには悪役にだってなるものなんだよ」
「……その、なんの話でしょうか?」
「君はまだ若い。いつかきっと分かる日が来るかもしれないね」
ドクドクと胸の鼓動が大きくなっている。意図がわからず眉に皺を寄せると、おじいさんはフッと小さく笑い言った。
「あの人もこんな気分だったのかね」
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる