王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第18幕 vert olive

07

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 悠斗の胸を押し傘から抜けると、沸騰したお湯を冷ますように雨粒が肌を刺す。話していても口論に発展するばかりだ。今は悠斗の隣に居たくもない。走り去ろうと一歩踏み出すと、すかさず腕を取られその場に引き留められた。

「……瀬菜、濡れるよ。風邪引いたらどうするの」
「…………たら……いい」

 いっそのこと風邪を引いてしまえば、明日は行かなくていいじゃないか。俺はダブルデートなどしたくもない。勝手に決めた悠斗ひとりで行けばいいのだ。折角悠斗が休みでゆっくりできるのに、こんな嫌な思いをするなど全く嬉しくない。雨が降らなければこんなことにならなかったのに。

「なんて言ったの?」
「……風邪……引きたい……そしたら行かなくていいだろ! 悠斗が居るのに、好きでもない子とどうしてデートしなきゃならねぇの‼︎」

 立ち止まり肩を怒らせながら俯きそう叫ぶと、ポタポタと雨が水溜りに水文を描きながら地面へと落ちていく。すぐに水文は消え、肌を刺す雨水も感じられなくなった。代わりに背中からぬくもりが被さり、髪に吐息がかかかる。謝罪しているような柔らかな口づけが何度も髪を擽った。

「……ごめん、意地悪した……」

 そんなことを言われても、俺の気持ちは収まらない。

「瀬菜が女の子と密着しながら、話し込んでるの見たらお似合いのカップルみたいで……嫉妬したんだ……」

 だからって、あんな約束しなくても。
 連絡先だって知らないのに、断ることもできないじゃないか……。

「瀬菜が風邪で辛いのはもっと嫌だ。大人気なくてごめん……」

 なんだよそれ……。
 勝手に勘違いして、人の話も聞かなかった癖に……。
 俺のこと、信用してくれなかった癖に……。

「明日、断って来るから二人だけでデートしよ?」
「……ヤダ……」
「瀬菜、そんなに俺とデートするのイヤ?」

 うなじに宥めるように唇が触れ、「瀬菜とデートしたい」と囁かれる。
 悠斗とのデートが嫌な訳がない。首を左右に振り、ポツポツと小さな声で呟いた。

「……違う……俺も一緒に断りに行く。だって……家で待っていたらきっと落ち着かない。あの子、悠斗狙いだし……悠斗中々戻って来れないだろ。だから、ひとりで待ってるのは嫌だ」

 そう言うと、悠斗は安心したのかギュッと強く俺を抱きしめた。悠斗の腕に手を絡めると、同じぐらいに力を込めた。
 言いたいことは半分も言えていないが、ささくれ立った心を落ち着かせ、それでも悠斗が好きだと抱擁に応える。

「なんでそんなに可愛いかな?」
「……知らない……さっきまで不機嫌だった癖に……」
「うん、ごめん。カッコ悪いって自覚してる。瀬菜のことになると、どうしても暴走しちゃう。……ねぇ、キスしたい」
「ヤダよ。まだ暴走してんじゃん。こんな道の真ん中でなに考えてんだよ。俺はまだ──っ、うわっ‼」

 怒っているのだと言う前に、グルリと視界が回転した。

「……これならいいでしょ? ね、瀬菜……ダメ?」
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