王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
515 / 716
第16幕 新たな決意

14

しおりを挟む
 階段の脇には雑草が生い茂り、人が行き交っている気配はなさそうだ。十分ほど上に登って行くと、高台の頂上に到着した。
 ゼイゼイと乱れた息を整えながら、痛む腰をトントンと老人のように叩き辺りを見渡すと昔の残像が甦ってくる。
 どちらが早く、そして高くブランコを漕げるのか。砂の山のトンネル掘り。象形の動物に跨がり乗馬ごっこ。
 キャッキャッと笑いながら走り回る昔の俺達。なにをしても楽しくて堪らなかった。
 小学校の先生に「危ないから行かないように」と言われても、柵に近寄らなければ大丈夫と、誰も訪れないこの場所を秘密基地みたいにしていたのだ。

「……ここも変わっちゃったな」
「うん。あのとき遊んでた遊具は、ブランコだけになっちゃたね?」

 残像が走馬灯のように消えていく。公園はすっかり姿を変えていた。綺麗に整備され、錆びたブランコも今ではすっかり真新しい。砂場と象形遊具はなくなり、平地に変わって所々に埋められた木々が春の花を咲かせていた。
 朽ちた木の柵も少し高くなり、シルバー色の頑丈そうな鉄柵に変わっていた。唯一変わらないのは、石でできたベンチだけだ。

「すっかり整備されている」
「ふふっ、流石に劣化するよね」
「そうだな。……でも悠斗、あっち見てみろよ」

 ほら……と人差し指を拓けた前方に向けた。

「街並みはこうして見ると、そんなに変わらない。高い建物も駅のほうだけだし、今もよく見渡せる」
「……本当だ」
「それで? 久々にここに来た感想は?」
「感想? うーん。少し……寂しい……かな」

 石のベンチに腰掛けながら、悠斗は遠くの景色を見つめて小さく呟いた。

「変わることは当たり前だけどね。まるで自分が置いてけぼりになった気分にならない?」
「あー、それはなんとなくわかる。……悠斗は余計にそう思うんじゃないか?」
「どうして?」
「本当は、家に居場所がないって思っているだろ?」

 悠斗の瞳を真正面から見据え伝えると、目を丸めばつが悪そうに苦笑いし深いため息を吐いていた。

「義信さんが嫌いとかじゃないけど、子供が産まれたらうちも狭くなるからね。まだ少し気持ちがついていかないっていうか……」
「だよなぁー。気を使ってないつもりでも、無意識に使うもんだし。俺も実は、悠斗の家行きずらくなるなって思ったんだ」
「かなって思っていた」
「まぁさ。気分転換にうちに来ればいいよ」
「うん。ありがとう。でも、瀬菜と一緒に居ると触りたくなっちゃうからな」
「……うぅ。ちょっとなら、お触りしてもいいよ」
「ふふっ、気を付けるよ」

 少しずつの変化にはついていけるが、一気に変わる日常は中々切り替えが難しい。なんでもこなしてしまう悠斗でも大きな変化にはたじろぐのだろう。
 ここに着いたときも昔との違いに二人でしばらく放心したのだ。毎日生活する空間が大きく変化することは、かなりのストレスになるはずだ。

「そうだ。お弁当用意したんだ」
「えっ! マジで!」
「うん。景色を眺めながらゆっくりするのもいいかと思って」
「流石悠斗! 俺の嫁! うわー、いい匂い」

 水筒を取り出し蓋に注がれる液体は、湯気を立て黄金色の香ばしい匂いを立ち上がらせる。ひと口飲み込むと、よく炒めた玉ねぎの甘さと香ばしさが口いっぱいに広がる。

「……はぁ~、落ち着く~」
「良かった。お弁当とはいえ、簡単におにぎりと玉子焼きだけだけど」
「全然、めちゃ贅沢だよ。このオニオンスープ具がないのに、凄く玉ねぎの味がして美味しい! 何杯も飲みたくなっちゃうよ」
「ふふっ、熱いからゆっくり飲んでね?」

 本日の天気は晴天。塩気のほどよく効いたおにぎりと、濃厚なスープを飲むと、動いていなくても身体がポカポカしてくる。寒いかもと思ったが、悠斗の機転により風邪を引かなくて済みそうだ。

「……そう言えば小学生のとき、この公園で遊んでいたら大雨が降ってきて急いで帰ったことあったよね」
「……あーあったかもな~」
「そのときの瀬菜ってば……ふふふっ……」
「なんだよ。そんな話持ち出して。あれは……まぁ……うおぉーー! 思い出すと今でもハズイんだから言うなよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない

ネコフク
BL
【本編完結・番外編更新中】ある昼過ぎの大学の食堂で「瀬名すまない、別れてくれ」って言われ浮気相手らしき奴にプギャーされたけど、俺達付き合ってないよな? それなのに接触してくるし、ある事で中学から寝取ってくる奴が虎視眈々と俺の周りのαを狙ってくるし・・・俺まだ誰とも付き合う気ないんですけど⁉ だからちょっと待って!付き合ってないから!「そんな噂も立たないくらい囲ってやる」って物理的に囲わないで! 父親の研究の被験者の為に誰とも付き合わないΩが7年待ち続けているαに囲われちゃう話。脇カプ有。 オメガバース。α×Ω ※この話の主人公は短編「番に囲われ逃げられない」と同じ高校出身で短編から2年後の話になりますが交わる事が無い話なのでこちらだけでお楽しみいただけます。 ※大体2日に一度更新しています。たまに毎日。閑話は文字数が少ないのでその時は本編と一緒に投稿します。 ※本編が完結したので11/6から番外編を2日に一度更新します。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

後天性オメガの近衛騎士は辞職したい

栄円ろく
BL
 ガーテリア王国の第三王子に仕える近衛騎士のイアン・エバンズは、二年前に突如ベータからオメガに性転換した。その影響で筋力が低下したのもあり、主人であるロイ・ガーテリアに「運命の番を探して身を固めたい」と辞職を申し出た。  ロイは王族でありながら魔花と呼ばれる植物の研究にしか興味がない。ゆえに、イアンの辞職もすぐに受け入れられると思ったが、意外にもロイは猛烈に反対してきて……  「運命の番を探すために辞めるなら、俺がそれより楽しいことを教えてやる!」  その日からイアンは、なぜかロイと一緒にお茶をしたり、魔花の研究に付き合うことになり……??  植物学者でツンデレな王子様(23歳)×元ベータで現オメガの真面目な近衛騎士(24歳)のお話です。

元会計には首輪がついている

笹坂寧
BL
 【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。  こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。  卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。  俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。    なのに。 「逃げられると思ったか?颯夏」 「ーーな、んで」  目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。

【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。 早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。 ***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…

夢見 歩
BL
僕は運命の番に気付いて貰えない。 僕は運命の番と夫婦なのに… 手を伸ばせば届く距離にいるのに… 僕の運命の番は 僕ではないオメガと不倫を続けている。 僕はこれ以上君に嫌われたくなくて 不倫に対して理解のある妻を演じる。 僕の心は随分と前から血を流し続けて そろそろ限界を迎えそうだ。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 傾向|嫌われからの愛され(溺愛予定) ━━━━━━━━━━━━━━━ 夢見 歩の初のBL執筆作品です。 不憫受けをどうしても書きたくなって 衝動的に書き始めました。 途中で修正などが入る可能性が高いので 完璧な物語を読まれたい方には あまりオススメできません。

処理中です...