王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第15幕 変わりゆく日常

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「瀬菜。あんたが悠斗君と一緒になるときは、あんたが女装しなさい。母さん達が盛大にお祝いするわ」

 突然おふくろは俺の背中を叩きながら、にんまりと笑いそう言った。

「……アホか……」

 毒づきながらも、おふくろの寛大さに救われる。
 盛大でなくとも祝ってくれる人がいる。それだけで十分幸せ者だと思えた。


 結婚式の醍醐味といえばブーケトスだ。最後に美久さんがうしろを向いて大きくトスすると、良く晴れた雲の少ない青空にフワリと花が浮かび上がる。
 おふくろが冗談で「あんたも参加したら?」と言っていたが、ブーケは女性が手に取るものだ。参加しようものなら、冷たい視線を浴びせられてしまう。
 見事にキャッチした女性は喜び、その足でなぜか悠斗に歩み寄り、なにやら話し掛けている様子だった。

 ……絶対口説かれてるな。
 あーぁ……ベタベタ触られやがって。

 綺麗に着飾った女性は悠斗の隣で頬をピンク色に染めながら、にこやかにボディータッチを繰り広げている。どこに居ても悠斗はモテる。悔しいが普通にお似合いのカップルに見えてしまうのは、祝福される場所のせいだろうか。
 ぼんやりとその当たり前の光景を見つめていると、横から俺の心情を代弁するような声が聞こえてきた。

「悠斗は清楚な年上が好みなのかな?」
「さぁ……選り取り見取りで、好みなんてあったもんじゃ……っ! お、おじいさん⁉︎」

「柳君は悠斗と仲がいいから把握していると思ってね」
「あ、いや……どうですかね? あははは……」

 心臓止まる……余計なこと言わないで良かった……。
 悠斗の好み……言えねぇ~~‼︎

「君の好みは?」
「俺ですか? あんまり考えたことないですけど……」
「おや。好きになった人、今まで居なかったのかい?」
「実は恋愛には疎くて……」

 それも言えねぇ……。
 俺、悠斗以外好きになったことないし……。

「そうなのかい? 柳君も年上の美久みたいな子が合いそうだけどね。私は年寄りだけど顔は広いから、紹介できるよ? その気があれば……」

 おじいさんの推しにたじろいでいると、年上美人に捕まっていたはずの悠斗に肩を引き寄せられていた。

「なんだ悠斗。彼女はいいのか? こちらを見てるようだが?」
「……お爺様。あれが彼女に見えますか? 瀬菜、美久にお祝いを言ってあげて」
「う、うん……」

 おじいさんを断ち切り、踵を返す悠斗は明らかに冷気を漂わせている。

「待ちなさい悠斗。ちゃんと紹介したらどうだ?」
「先ほど話しをしていた女性のことですか? 生憎、挨拶した程度の彼女など紹介できません。今日は美久の晴れ舞台ですよ。場を弁えてください」
「はははっ、それは失礼した。だが、お前も少し冷静になったほうがいい」

 おじいさんの言葉に悠斗は一瞬足を留めるが、無感情に言った。

「……失礼します。瀬菜、行こ……」

 顔を背けたまま悠斗は俺の腕を引き歩き出した。慌てておじいさんにペコっと一礼すると、クスクスと笑いながら「柳君、さっきの話、連絡待っているよ」と手を上げていた。


 掴まれた腕がギリギリと軋む。痛みで眉を寄せるが、悠斗は俺の様子に気付いていないようだ。
 怒ることはあっても、ここまであからさまに怒りを滲ませているのも珍しい。

「……悠斗……? 痛いよ」
「──あっ、ごめん……。美久と祐一さんが瀬菜に会っていないって、寂しそうにしていたんだ」
「……うん……それよかお前……大丈夫?」
「ん? あー瀬菜、あの子とはなんでもないからね?」
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