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第15幕 変わりゆく日常
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まるでおとぎ話の中に入ったようで、その景色に息を飲んだ。ほのかに爽やかな花の香りが漂う室内は広く、数体のマネキン人形に鮮やかな彩りのドレスが飾られていた。窓からは燦々と太陽の光が入り込み、ドレスに散りばめられたジュエリーや、金色とシルバー色の刺繍に反射し、魔法をかけたように煌々と輝いていた。
「さっきまで美久が使っていたんだ。今丁度、外で撮影しているから誰も居ないよ」
「凄い……綺麗なドレスだね」
「式ではお披露目できないけど、記念に撮るんだって」
「へぇー、美久さんはなに着ても似合いそうだな」
「ん? 俺は瀬菜に着せたいけどね」
まさかとは思うが美久さんの衣装を着せるために連れて来られたのかと、壁まで後退りしてしまう。
「……瀬菜……いくら俺でも、流石に美久の晴れ着を奪うわけないでしょ? それより、ここ座って」
「……ははは。お前が今日は正常な判断できてよかったよ」
アンティーク調の化粧台には、色々な化粧道具が並んでいた。
戸惑いながら腰掛けると、念のため聞いてみた。
「……まさか、お化粧とかしないよな?」
「気持ち的にはしたい気分だけど、ダメでしょ?」
「あっ、当たり前だ!」
「ふふっ、はい、前向いて」
悠斗は俺の頭を前に向けると、髪をとかし小瓶を手に取って、泡状の液体を髪に広げていった。
「瀬菜が七五三みたいって言うから、髪型変えれば雰囲気変わると思って」
あー……悠斗。
お前ってば、本当に……なんて気が効くやつなんだ。
家族よりも俺を知り尽くしている悠斗に感心すると同時に、ますます惚れ惚れしてしまう。
そんな悠斗の好意にたまに気付かなくても、嫌な顔せず嬉しそうにするのだ。
「こんな感じでどう? 大人っぽくなったと思うよ?」
「お前は本当になんでもできる男だな。スタイリストも目指せるぞ?」
鏡に映る自分は先ほどとは異なり、年相応な雰囲気だ。前髪を横に流し、少し編み込みしたサイドを片方だけ耳に掛け、崩れないようにピンで止めてくれる。
覗き込む悠斗を鏡越しに見ると俺は首を傾げた。悠斗と俺が、シンメトリーに見える。
「……お揃い?」
「うん。左右逆だけどお揃い」
悠斗はスマホを前にかざすと、タイムをセットしツーショットの自撮りをした。左右対称な俺達が、画面に仲良く並んでいる。
何枚も写真を撮る悠斗の頬に、不意打ちでキスをする。キスをしている画像が残るのはいただけないが、せめてもの俺なりのお礼だ。照れくさそうに歯に噛みながら微笑むと、悠斗もキラキラ笑顔をくれる。
「悠斗、ありがとう」
「ううん。俺も瀬菜と一緒に居たかったから、口実的な? 可愛いキスもしてもらえたし」
「それは……お礼……」
「クスッ、今日はゆっくりできないけど、また連絡するね」
「うん。そろそろ時間だよな? 俺、おふくろ達のところに戻るよ」
「なら、送っていく」
「大丈夫だよ。……ああ、そうだ。お前、美久さんの友達に口説かれても付いて行くなよ!」
冗談交じりに悠斗に伝えながら扉まで行くと、腕を掴まれ思い切り唇に噛みつかれる。
何度も角度を変え唇を塞がれ、舌を絡められる。チュックチュッ……と、絡む舌が水音を立て、強張った身体が次第に溶け、膝に力が入らず悠斗にしなだれていた。
「──ンッ、ちょっ……ふぅッ……」
「……ンッ……?」
中々離れていかない唇に翻弄され、息が苦しくなると悠斗の背中を叩いて抗議した。
「……ば、はかッ……誰かに見られたらどうするんだ」
「見られたら見せつければいいよ。瀬菜が煽るのが悪い」
「さっきまで美久が使っていたんだ。今丁度、外で撮影しているから誰も居ないよ」
「凄い……綺麗なドレスだね」
「式ではお披露目できないけど、記念に撮るんだって」
「へぇー、美久さんはなに着ても似合いそうだな」
「ん? 俺は瀬菜に着せたいけどね」
まさかとは思うが美久さんの衣装を着せるために連れて来られたのかと、壁まで後退りしてしまう。
「……瀬菜……いくら俺でも、流石に美久の晴れ着を奪うわけないでしょ? それより、ここ座って」
「……ははは。お前が今日は正常な判断できてよかったよ」
アンティーク調の化粧台には、色々な化粧道具が並んでいた。
戸惑いながら腰掛けると、念のため聞いてみた。
「……まさか、お化粧とかしないよな?」
「気持ち的にはしたい気分だけど、ダメでしょ?」
「あっ、当たり前だ!」
「ふふっ、はい、前向いて」
悠斗は俺の頭を前に向けると、髪をとかし小瓶を手に取って、泡状の液体を髪に広げていった。
「瀬菜が七五三みたいって言うから、髪型変えれば雰囲気変わると思って」
あー……悠斗。
お前ってば、本当に……なんて気が効くやつなんだ。
家族よりも俺を知り尽くしている悠斗に感心すると同時に、ますます惚れ惚れしてしまう。
そんな悠斗の好意にたまに気付かなくても、嫌な顔せず嬉しそうにするのだ。
「こんな感じでどう? 大人っぽくなったと思うよ?」
「お前は本当になんでもできる男だな。スタイリストも目指せるぞ?」
鏡に映る自分は先ほどとは異なり、年相応な雰囲気だ。前髪を横に流し、少し編み込みしたサイドを片方だけ耳に掛け、崩れないようにピンで止めてくれる。
覗き込む悠斗を鏡越しに見ると俺は首を傾げた。悠斗と俺が、シンメトリーに見える。
「……お揃い?」
「うん。左右逆だけどお揃い」
悠斗はスマホを前にかざすと、タイムをセットしツーショットの自撮りをした。左右対称な俺達が、画面に仲良く並んでいる。
何枚も写真を撮る悠斗の頬に、不意打ちでキスをする。キスをしている画像が残るのはいただけないが、せめてもの俺なりのお礼だ。照れくさそうに歯に噛みながら微笑むと、悠斗もキラキラ笑顔をくれる。
「悠斗、ありがとう」
「ううん。俺も瀬菜と一緒に居たかったから、口実的な? 可愛いキスもしてもらえたし」
「それは……お礼……」
「クスッ、今日はゆっくりできないけど、また連絡するね」
「うん。そろそろ時間だよな? 俺、おふくろ達のところに戻るよ」
「なら、送っていく」
「大丈夫だよ。……ああ、そうだ。お前、美久さんの友達に口説かれても付いて行くなよ!」
冗談交じりに悠斗に伝えながら扉まで行くと、腕を掴まれ思い切り唇に噛みつかれる。
何度も角度を変え唇を塞がれ、舌を絡められる。チュックチュッ……と、絡む舌が水音を立て、強張った身体が次第に溶け、膝に力が入らず悠斗にしなだれていた。
「──ンッ、ちょっ……ふぅッ……」
「……ンッ……?」
中々離れていかない唇に翻弄され、息が苦しくなると悠斗の背中を叩いて抗議した。
「……ば、はかッ……誰かに見られたらどうするんだ」
「見られたら見せつければいいよ。瀬菜が煽るのが悪い」
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