王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第15幕 変わりゆく日常

07

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 ゆっくりと顔を上げると、俺の横におじいさんが身を屈め覗き込んでいた。驚いていたのは俺だけではなく、実千流は口を開けて呆然とし、理事長は呆れた様子で首を横に振っていた。こめかみ辺りに手を当てる。おそらくそこへ口付けられたのだ。

「君は少し勘が良過ぎるね。でも、気を付けて。大人は怖いから」
「……えっ?」
「今日は楽しかった。……私達はこれで失礼するよ」

 二人の老紳士は優雅にその場をあとにした。
 残った俺達はただ驚くばかりで、別れの挨拶さえまともにすることができなかった。


「……おじ様ってば大胆。瀬菜が隙を作るからいけないんだ。悠斗さんに言いつけちゃうよ?」

 このことを知られては大変だ。白い目で俺を見てくる実千流を必死でとめる。

「待て待て! あれは挨拶みたいなもんだろ? ほら、悠斗んち外国の血もちょっと入ってるし。けど、悠斗には絶対内緒だからな。もうさ、俺……ずっと緊張してたんだ」
「知ってる。悠斗さんのおじ様って、本心が見えないんだよね。俺でも緊張するし」
「うん。初めて会ったときも怖くてさ。でも、なんだか寂しそうだった」

 実千流はお皿の上のデザートをフォークで突きながら、ため息を漏らす。

「……うちのお爺様もだけど、背負ってるものが大きいんだよ。今ではああやって、よく出掛けているけど、二人共、昔は色々あったみたいだし……」
「色々って?」
「さぁ? 詳しいことは知らない。大人の事情かな」
「……大人の事情……」

 俺には全く想像できないことだが、悠斗が将来、おじいさんのように、重荷を背負うことになるのかなと考えると複雑で胸がザワザワとして堪らなかった。



 そのあとも食べ続け満腹になり会計に向かうと、支払いはとっくに済まされていた。実千流と顔を合わせ、お礼もできなかったと苦笑いしてしまう。どういう訳か俺と実千流には、食の神様が付着しているようだ。
 このあとの予定を考えていた実千流に急用ができたと断り、矢継ぎ早で挨拶をすると、俺は急いで電車に乗り込んだ。
 緊張のあまりすっかり忘れていたが、子供のことが気がかりでならなかったのだ。白桜駅から全速力で走り、ゼイゼイと息を切らし悠斗の家の玄関を開ける。迎えてくれたおばさんへ挨拶もそこそこに、悠斗の部屋へと駆け込んだ。

「瀬菜? 急にどうしたの? 実千流ちゃんとのお出掛けは?」
「はっ──ゆっう……と、うっ……お腹……痛ッ……こ、子供ッ‼︎」
「えっ……瀬菜……子供ができたの? 俺の……子⁉︎」
「……あっ、アホかっ! 取り敢えず……水……ぅっ」

 へなへなと崩れる俺を悠斗は支えると、急いで水を取りに行ってくれた。

「ぷはぁ~~ッ、生き返ったぁ~」
「大丈夫? それより子供って? もしかしてエッチいっぱいした甲斐があったの?」
「アホか。奇跡が起きたとしても、俺にできるわけがないだろ」
「なら、瀬菜の浮気⁉︎」
「それこそあり得ない‼︎ むしろそれは俺のセリフだ‼︎」
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