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第15幕 変わりゆく日常
06
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俯きお腹に手を当てる。自分でないのは確かだ。
ブンブンと頭を左右に振りながら、いったい誰のことを言っているのか聞こうとすると、おじいさんは盛大に笑い出した。
「あっ、いや、失礼。柳君は見ていると楽しいね。ついつい、からかいたくなってしまう」
「ははは……良く言われます」
「だろうね。悠斗の気持ちがなんとなく分かるよ。傷がつかないように大切に閉まっているね」
「……えっ?」
一体どういう意味なのだろうか。
咄嗟に顔を上げる俺に、口元を綻ばせると瞼を閉じて首を振っていた。
「いや……私のひとり言だ。今日またこうして会えて、私は少し舞い上がっているのかな? 今日のこと、悠斗には内緒だよ?」
「内緒ですか? もしバレてしまったらごめんなさい。俺、嘘つくの下手くそで。でも、おじいさんに会えて、俺、その嬉しいです。この間はちゃんとご挨拶できなくて、またお話できたらなと」
「おや、嬉しいね。生きているうちに、あと何回柳君と会えるかな?」
「そんな……きっとこれからも会えますよ。まともな話し相手にはなれないですけど……」
じっと瞳を見つめて話をしていると、やはりなにかを探られている気がしてならない。表情は穏やかに笑顔だが、瞳は鋭く輝いている。圧力が肩にのし掛かり、息をするのすら忘れそうになってしまう。
これ以上この空気に耐えられない……俯き視線から逃れると、実千流がコーヒーを片手に戻って来た。カラリとした明るい声に、ホッとすると震える手を悟られないように終始笑顔を見繕っていた。
しばらくするとおじいさんの待ち人で実千流の祖父、白桜南高校の清河巽理事長が入り口に姿を見せた。
おじいさんは柔らかな微笑みで振り返り、「相変わらず時間通りだね」とその姿を眺めていた。
「お爺様は分刻みで動くんですよ。もう少し肩の力抜いて欲しいものです」
長身の紳士は顔をくしゃりとさせながら笑顔でこちらにやって来た。
「やあ。待たせたかな? ずいぶんと可愛らしい子達と寛いでいるね?」
「君が時間通りにしか来ないから、お邪魔させてもらっていたんだ。たまには若い子から活力もらわないと、干からびてしまう」
「ははは、君は年寄りとばかり付き合ってるからね。私はその点、毎日鋭気を養えてるよ。しかし、実千流にも、年相応の友達ができたようで安心した。君は確か……柳君か。今回生徒会で、生徒会長補佐になったようだけど、実千流は我が儘が過ぎないかな?」
環樹先輩になんとなく似ているが、理事長のほうが馴染みやすさがある。それに、悠斗のおじいさんに負けないほど若々しい。髪は少し白髪混じりだが、濃いグレーでオールバックに整えられた品のある姿だ。
まさか自分の名前を覚えられているとは思わず驚くと、手を差しのべ握手を求められた。
「いえいえ、俺のほうが実千流に助けてもらっています」
「そうかい? 困ったことがあれば遠慮なくね」
「も~、お爺様! 俺を問題児みたいに言わないでください!」
「おや、違うのかい? あれだけ私と環樹の手を煩わせたのに?」
「うぅ……そりゃ確かに、色々迷惑掛けましたけど……」
微笑ましい雰囲気の家族だ。俺に祖父母が健在であれば、こんな風になれただろうか。ふと違和感に視線を移すと、悠斗のおじいさんが冷えた双眸でぼんやりと理事長と実千流を眺めていた。
その姿を確認した俺は、胸の中がキューっとなり寂しさを感じた。おじいさんは無表情ながら憂いを帯びた面持ちで、俺をぼんやりと見つめてきた。俺は慌てて視線を逸らし俯く。すると、こめかみに柔らかなものを感じた。
ブンブンと頭を左右に振りながら、いったい誰のことを言っているのか聞こうとすると、おじいさんは盛大に笑い出した。
「あっ、いや、失礼。柳君は見ていると楽しいね。ついつい、からかいたくなってしまう」
「ははは……良く言われます」
「だろうね。悠斗の気持ちがなんとなく分かるよ。傷がつかないように大切に閉まっているね」
「……えっ?」
一体どういう意味なのだろうか。
咄嗟に顔を上げる俺に、口元を綻ばせると瞼を閉じて首を振っていた。
「いや……私のひとり言だ。今日またこうして会えて、私は少し舞い上がっているのかな? 今日のこと、悠斗には内緒だよ?」
「内緒ですか? もしバレてしまったらごめんなさい。俺、嘘つくの下手くそで。でも、おじいさんに会えて、俺、その嬉しいです。この間はちゃんとご挨拶できなくて、またお話できたらなと」
「おや、嬉しいね。生きているうちに、あと何回柳君と会えるかな?」
「そんな……きっとこれからも会えますよ。まともな話し相手にはなれないですけど……」
じっと瞳を見つめて話をしていると、やはりなにかを探られている気がしてならない。表情は穏やかに笑顔だが、瞳は鋭く輝いている。圧力が肩にのし掛かり、息をするのすら忘れそうになってしまう。
これ以上この空気に耐えられない……俯き視線から逃れると、実千流がコーヒーを片手に戻って来た。カラリとした明るい声に、ホッとすると震える手を悟られないように終始笑顔を見繕っていた。
しばらくするとおじいさんの待ち人で実千流の祖父、白桜南高校の清河巽理事長が入り口に姿を見せた。
おじいさんは柔らかな微笑みで振り返り、「相変わらず時間通りだね」とその姿を眺めていた。
「お爺様は分刻みで動くんですよ。もう少し肩の力抜いて欲しいものです」
長身の紳士は顔をくしゃりとさせながら笑顔でこちらにやって来た。
「やあ。待たせたかな? ずいぶんと可愛らしい子達と寛いでいるね?」
「君が時間通りにしか来ないから、お邪魔させてもらっていたんだ。たまには若い子から活力もらわないと、干からびてしまう」
「ははは、君は年寄りとばかり付き合ってるからね。私はその点、毎日鋭気を養えてるよ。しかし、実千流にも、年相応の友達ができたようで安心した。君は確か……柳君か。今回生徒会で、生徒会長補佐になったようだけど、実千流は我が儘が過ぎないかな?」
環樹先輩になんとなく似ているが、理事長のほうが馴染みやすさがある。それに、悠斗のおじいさんに負けないほど若々しい。髪は少し白髪混じりだが、濃いグレーでオールバックに整えられた品のある姿だ。
まさか自分の名前を覚えられているとは思わず驚くと、手を差しのべ握手を求められた。
「いえいえ、俺のほうが実千流に助けてもらっています」
「そうかい? 困ったことがあれば遠慮なくね」
「も~、お爺様! 俺を問題児みたいに言わないでください!」
「おや、違うのかい? あれだけ私と環樹の手を煩わせたのに?」
「うぅ……そりゃ確かに、色々迷惑掛けましたけど……」
微笑ましい雰囲気の家族だ。俺に祖父母が健在であれば、こんな風になれただろうか。ふと違和感に視線を移すと、悠斗のおじいさんが冷えた双眸でぼんやりと理事長と実千流を眺めていた。
その姿を確認した俺は、胸の中がキューっとなり寂しさを感じた。おじいさんは無表情ながら憂いを帯びた面持ちで、俺をぼんやりと見つめてきた。俺は慌てて視線を逸らし俯く。すると、こめかみに柔らかなものを感じた。
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