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第14幕 季節外れの天使ちゃん
01
しおりを挟む豪華な夏休みと平凡な夏休みも終わり、残暑が残る季節になっていた。クラスは相変わらずザワザワと活気があり、皆元気そうである。この時期になるとひときわ目立った姿を見せる三浦さんは、かなり落ち込みを見せていた。
「私の萌え……私の……」
魂でも出そう(半分出ている)な、覇気のない声で三浦さんは机に突っ伏し、なにやらブツブツとぼやいている。
「三浦さん……俺はむしろ嬉しいよ」
「柳ちゃん、俺ら今年は普通の人間でいられて良かったね」
三浦さんを宥めながら苦笑い気味で村上に頷くと、矢田さんがバタバタと足音を立て駆け寄って来た。
矢田さんは今ではすっかり三浦さんと仲良しだ。
「三浦っち! 朗報だよ! 天使が舞い降りたかも‼︎」
「なによ沙耶……、私の可愛い姫乃ちゃんでも舞い降りたの?」
死んだ魚のような目で俺をぼんやり見つめた三浦さんは、大きくため息を吐き舌打ちをしてる。
一体どういう意味で舌打ちをしたのだろうか。結構傷つくリアクションである。
今年もそろそろ文化祭シーズンだ。俺たちのクラスは、ロシアンルーレットで鈴カステラの屋台を出店することに決まっていた。修学旅行もあったため、時間をかけることができなかったのだ。そんな訳でまったく出番のない三浦さんは、ここ数日撃沈している。
三浦さんとは打って変わって、矢田さんは鼻息を荒げ瞳を爛々と輝かせ興奮した様子で声まで荒げた。
「それがねっ! もう今噂で持ち切りなの! 姫乃ちゃんが再来した、いや、それ以上かもって!」
「姫乃ちゃん以上⁉︎ 誰がそんな寝ぼけたこと言ってるの! 私に喧嘩でも売っているの⁉︎ だいたいこの学校に、そんな可憐な天使っぽい子居ないじゃない」
「じゃ~~ん! ちょいボヤけてるけど、この画像が拡散しているんだよ」
三浦さんはメガネを押し上げると矢田さんのスマホに顔を寄せ、訝しそうに目を細めた。
みるみるうちにその瞳には光が浮かびあがる。どんよりオーラから一転、矢田さんの手に噛みつく勢いで三浦さんは、発狂しだした。
「これは大問題だわ‼︎ どのクラスの子‼︎」
「それがね、目撃情報が全然なくて、余計に噂になってるんだよ」
矢田さんのスマホをチラリと見れば、うちの高校の制服姿のロングヘアーの小柄な女の子が納められていた。表情まではボヤけて確認出来ないが、スタイルは良さげで確かに天使っぽい。
三浦さん達はいわゆるボーイズラブ専門なのかと思いきや、そのジャンルだけに留まらず、可愛い女子や女子同士のなんたらも大好物だとか。以前説明をされたが、俺には未知の領域だった。
「おお? 柳ちゃん、首位を狙われそうで気になっちゃう?」
「いや、むしろ俺は注目されずに安心している」
「瀬菜っち、大丈夫よ! いざとなったら復活イベントで盛り立てるわ! さぁ、沙耶敵陣へ出陣よ‼︎」
「お~~♪」
三浦さんはやはり俺の言葉などスルーし、意気揚々と立ち上がり矢田さんと颯爽と教室を出て行ってしまった。もうすぐ授業だというのに、萌えのためにはお構いなしな二人だ。村上と二人で呆れていると、悠斗と多澤それから由良りんが教室に戻ったところだった。
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